国際芸術祭『東京ビエンナーレ2025』が開催中!東京のまちを散歩しながらアートを楽しもう
東京のまちを舞台に2年に1度行われる国際芸術祭『東京ビエンナーレ2025』の本会期が、2025年10月17日より開催されています。
東京都心部の北東に位置する千代田区、中央区、文京区、台東区にある複数の施設や公共空間にてアート展示やイベントが数多く展開しています。「いっしょに散歩しませんか?」をテーマとする芸術祭の見どころをご紹介します。
歴史的建築と現代アートが響き合う。【東叡山 寛永寺】
『東京ビエンナーレ2025』の拠点会場は、東叡山 寛永寺とエトワール海渡リビング館の2つ。まず訪ねたいのは上野・御徒町エリアに位置し、2025年に創建400周年を迎える東叡山 寛永寺です。
今年は普段入ることができない貴賓室や葵の間廊下、それに渋沢家霊堂前庭にて、藤原信幸、小瀬村真美、森淳一が場所や歴史を活かした展示を行っています。
このうち日本ガラス工芸学会の監事を務める藤原信幸は、自身の工房がある茨城県取手市の利根川流域に自生する植物の生命力に触発されたガラス作品を展示。植物の断片的なイメージを組み合わせて再構築したというオブジェが、床の間のある畳敷きの貴賓室にて美しく輝いています。
古典絵画を現実の事物を用いながら写真、映像表現として再現することで、絵画の裏に視点を差し込もうとする独特な制作手法を用いる小瀬村真美の作品も見逃せません。作家が舞台とするのは、幕末の将軍・徳川慶喜公が謹慎生活を送ったという葵の間です。
そこには慶喜が描いた油彩画《西洋風景》(1887–97)の複製が掛けられていますが、同時期に描かれた《日本風景》(1870頃)の2つの作品に注目し、新たな写真作品を生み出しました。和洋折衷の慶喜の絵画を元にしつつ、ありそうでないような奇観とも言える画面を見ることができます。
パワーストーンとされるオニキスという石を用い、渋沢家霊堂前庭にてインスタレーションを披露しているのが、彫刻だけでなく、写真や油彩など多様な表現を手がける森淳一です。明治時代に渋沢家によって築かれ、登録有形文化財でもある建物を背に、歴史あるお庭に石が展開する様子は、この場所だからこそ見られるもの。まるで月のかけらが地上へと舞い降りているような光景に、思わず心を奪われました。
ビジネス街の地下に植物の巨大な木炭画が出現!【行幸地下ギャラリー】
2つ目の拠点会場、エトワール海渡リビング館へ移動する前に立ち寄りたいのが、大手町・丸の内・有楽町エリアと八重洲・京橋エリア。日本の中心とも言える東京駅の近辺でも見逃せない展示が行われています。
その1つが行幸地下ギャラリーにて展開する、佐藤直樹の《そこで生えている。2018–2025》です。グラフィックデザイナーとして活躍し、2013年から絵画を制作する佐藤は、翌年から「今日見た草木をここに描いてみます」として、約12年にもわたって身近な植物をモチーフとした木炭画を制作してきました。
ここでは2018年以後に描かれた、約202mもの作品を並べて展示。あたかも巨大な絵巻のように展開する植物画はまさに圧巻の一言です。都心の地下に突如、出現した、エキゾチックとも呼べる生命感に満ちた植物たちに飲みこまれてみてください。
一方、東京駅八重洲北口にて多くの人々が行き交う大丸東京店前では、与那覇俊がカラフルな《太太太郎 2023》を床面にて大判で出力しています。まるで人類の暮らす巨大なマンションの断面を描いたような作品は、都会を舞台に開かれる本芸術祭を象徴する一つのモニュメントと言えるかもしれません。
国内外のアーティストの作品をたっぷり鑑賞!【エトワール海渡リビング館】
日本橋・馬喰町エリアに位置する拠点会場、エトワール海渡リビング館では、1階から7階までの6つのフロア(2階を除く)に、国内外のアーティストによる多彩な作品が展示されています。
鈴木理策、畠山直哉、豊嶋康子らが参加する写真プロジェクト「Tokyo Perspective」や、1400件を超える応募から選ばれた海外アーティスト5組による「SOCIAL DIVE」など、見ごたえのあるプログラムが揃っているのも特徴です。
渡辺英司による《名称の庭 / エトワール海渡インスタレーション》は、図鑑から切り出された植物や生物の図像を実空間に数多く配置した作品です。数えきれないほどたくさん並べることで、人工的なビルの室内にもうひとつの生命の庭を生み出しています。
スリランカのビデオアーティストのナラカ・ウィジェワルダネは、東京の交通網や建物、人々などを素材に、複数の大規模な映像インスタレーションを展開しています。
反対方向に進む列車を2面のスクリーンで光や動きに還元したり、東京の日常がピエト・モンドリアンのコンポジション的な画面に再構築するなど、見慣れたはずの都市風景が、全く予見もしない表現として立ち上がる様子を目の当たりにできます。
ハノイを拠点とするチュオン・クエ・チーとグエン・フォン・リンは、長年にわたり友情と協働を重ねてきたアーティスト。今回は新たなインスタレーション《BREATHE》において、多様な素材を用いつつ、自律的に息づく身体のように現れる作品を展開しています。赤いブロックを刷り込んだ布が風に翻る光景は、軽やかでありながら切実な余韻を残すことでしょう。
7組の写真家とアーティストが東京の街を歩きながら撮影した「Tokyo Perspective」では、それぞれの視点を通して「東京のいま」を浮かび上がらせています。
またオリジナルプリントの展示にとどまらず、撮影地点を示すデジタルマップもネット上にて公開。鑑賞者が実際にその場所を訪れ、作品の風景と現実の都市を重ね合わせることができます。写真というメディアの新たな可能性を切り拓く、意欲的な試みです。
神田に点在する看板建築でも作品を公開!【海老原商店、角地梱包】
「いっしょに散歩しませんか?」をテーマに掲げる『東京ビエンナーレ2025』では、まちを歩きながら作品と出会う楽しさが各地に広がっています。
エトワール海渡リビング館から程近い神田・秋葉原エリアでは、時代の記憶を刻む看板建築が街角に顔をのぞかせています。
古着屋として明治時代に創業した海老原商店の扉を開けば、オスロを拠点とするテントハウス・アートコレクティブが、建物の100年の記憶を手がかりにしたプロジェクトを展開しています。関東大震災の復興期に建てられ、いまも当時の趣を残すこの建物は、2020年に景観重要建築物にも指定されました。
モルタル装飾が印象的な角地梱包では、秋山珠里が蜜蝋による葦とトタンの作品を発表。レトロな空間に浮かぶ黄色の光沢が、変わりゆく東京の土地の記憶を静かに照らし出します。
日本橋の路地裏を歩きながら、アートと出会う。【スキマプロジェクト】
さらに日本橋室町・本町の路地裏では、「スキマプロジェクト」と題した試みも。ビルの間のわずかな隙間や街角の植え込みなど、思いがけない場所に小さな作品が潜んでいます。
ミルク倉庫ザココナッツによる、路地そのものを鉢植えに見立てた植物の作品や、寺内木香が手がけた金属のオブジェが公園の片隅で化石のように佇む姿など、一歩路地に入れば、思いがけないアートとの出会いが待っています。宝探しのようなアート散歩をぜひ楽しんでください。
「まちを歩く芸術祭」として開催される『東京ビエンナーレ2025』は、2つの拠点会場(有料)を中心に、6つのエリア(無料)で多彩な展示やイベントが展開しています。会期中には、アーティストや専門家と交流できるワークショップやツアー、レクチャーも開催。それらに参加することで、より一層、芸術祭の魅力が身近に伝わってくることでしょう。
公式サイトでは現在地と連動するオンラインマップも公開中です。スマートフォンを片手に東京の街を歩きながら、アートが紡ぎ出す創造の息吹を五感で感じてみてはいかがでしょうか。
イベント情報
◆『東京の地場に発する国際芸術祭「東京ビエンナーレ2025」』
【会期】2025年10月17日(金)〜12月14日(日)
【拠点展示】東叡山 寛永寺、エトワール海渡リビング館
【展示エリア】上野・御徒町エリア、神田・秋葉原エリア、水道橋エリア、日本橋・馬喰町エリア、八重洲・京橋エリア、大手町・丸の内・有楽町エリア(計6エリア)
【チケット情報】※すべて高校生以下は無料。
2会場共通チケット (エトワール海渡リビング館、東叡山 寛永寺):一般3000円、学生1800円。
会場別チケット エトワール海渡リビング館:一般2200円、学生1500円。
会場別チケット 東叡山寛永寺:一般1200円、学生500円。
※上記2会場以外は無料で鑑賞可
※会期中販売券はいずれもオンライン購入で100円引
【公式HP】『東京の地場に発する国際芸術祭「東京ビエンナーレ2025」』
※開場時間・休場日は各会場で異なります。公式HPをご参照ください。