国内でも類を見ない奇祭「葛黒の火まつりかまくら」を受け継ぐ人々・・・ところで、ごんごろうってダレ?【秋田県北秋田市】
秋田県北部の中央に位置する人口約2万8000人(2024年11月時点)の北秋田市、この地に江戸時代から始まった「奇祭」を行う集落があります。大館能代空港から南東へ車で約15分の距離に位置し、小猿部川(おさるべがわ)が流れる山間の葛黒(くぞぐろ)集落です。
葛黒集落で毎年2月に行われる「火まつりかまくら」は、山から切り出した木を御神木に据え、稲わらなどを巻きつけて火を付けて一年の無病息災、五穀豊穣(ほうじょう)、無火災を祈るものです。この祭りの特徴や魅力について、「葛黒の火まつりかまくら実行委員会」の堀部雅彦さん、堀部栄一さんにお話を聞きました。
奇祭たる由縁ー巨大な火柱と一風変わった掛け声
▲過去の開催の様子:10メートル以上の御神木は迫力があります
(実行委員会提供の写真を筆者が撮影)
「かまくら」と言うと、多くの方は雪で作った家のような雪洞を思い浮かべると思います。しかし、この言葉は本来、小正月に行われる行事全般のことを指します。雪洞も行事の一部であり、神様をお迎えする場所「神座(かみくら)」から転じて「かまくら」という言葉になったという説があります。
葛黒の火まつりかまくらは、田んぼの真ん中に御神木を据え、それを正面に見据える形で大きな雪洞を作ります。そして、その周りに各家々の雪洞を作るそうです。
祭り当日の午前、住民たちは御神木となる栗の木を見定め、山から切り出して運びます。栗の木が選ばれている理由は、比較的軽くて枝ぶりが良く、また枝が飾り付けの重さでも折れないためだそうです。10メートル以上のものを御神木として選びますが、このサイズの、しかも生木を使用するかまくら行事は、国内では他に類をみません。
会場に運び込まれた木は、稲わらやササやタケ、ヒバの皮、ウツギなどで飾り付けられます。飾り付けは形をよく見せ、燃える時にパチパチとはぜさせて音を出すためのものです。音を出すのは魔除けの意味を持ちます。
飾り付けた後の御神木は重機も使いながら慎重に立ち上げますが、約3トンもの重さのため、一番大変な作業になるそうです。
日が暮れると松明(たいまつ)で御神木の根本にある稲わらに火をつけ、ほどなく巨大な火柱が立ち上がります。ここで子どもたちが叫ぶのが、「おーい、かまくらのごんごろう!」という掛け声です。この「人名を叫ぶ」というのも火まつりかまくらが奇祭である由縁です。
研究者も頭を悩ませる「ごんごろう」問題
▲過去の開催の様子:巨大な火柱に「おーい、かまくらのごんごろう!」と叫びます
(実行委員会提供の写真を筆者が撮影)
この「かまくらのごんごろう」が誰なのか、どういった経緯で叫ばれるようになったのかは未(いま)だに謎に包まれています。
一説には、平安時代の末期に起こった合戦である「後三年の役」で活躍した武将「鎌倉権五郎景正(かまくらごんごろうかげまさ)」であるとのことです。しかし、秋田県内で主戦場となった県南部とは距離が離れており、「なぜこの地に権五郎が?」と研究者も頭を悩ませるそうです。
この武将は、片目を敵の矢で射抜かれながらも痛みに耐えて奮戦したという逸話があります。
祭りが始まったとされる宝暦年間には、東北地方一体が大凶作に見舞われたという記録があり、集落の人の話では疫病も流行したということです。戦で活躍した武将をたたえることで、その壮健さにあやかろうという当時の人々の思いが垣間見える気がします。
一時途絶えた伝統の祭りが熱い思いで復活
当日の火柱の迫力もさることながら、民俗学的な興味も尽きない魅力的な「火まつりかまくら」ですが、一時的に祭りの開催が途絶えてしまったことがあったそうです。
ほ場整備や機械化により稲作のやり方が変わったため、祭りに使う稲わらが確保できなくなったことや、運営上の問題もあり、1998(平成10)年で一時終了したのです。
それから15年、近隣の地域おこしを行うNPO法人「おさるべ元気くらぶ」メンバー有志が自治会に復活を提案しました。自治会は当初難色を示していましたが、提案した人たちの「地域を元気にしたい」という熱い思いに感化され、復活を決めました。
実行委員会の栄一さんは、天気が良く無風で火柱が上空に真っすぐ立ち上がるのを見ると「やって良かった」と思うそうです。また、「昔は地域住民だけのお祭りだったが、今は地域の外にも開かれたお祭りになっているんで、たくさんの人に来て欲しい」と語り、多くのお客さんが来てくれるのが楽しみとやりがいにつながっているようでした。
▲地域を流れる小猿部川の風景
課題は多い、それでも祭りを続けていきたい
かつては祭りの前日から住民総出で準備が行われました。会場となる田んぼは住民の手、ならぬ「足」で朝から晩まで踏み固める作業が行われたそうです。しかし、人口減少や住民の高齢化が進み、今は重機も使って作業を行っています。
また、以前は飾り付けに「豆がら」も使っていたそうですが、豆の生産者が減少してしまったことから、飾り付けの内容を変更しているとのことでした。時代の流れに合わせて、祭りもその形を変えています。
一番の課題は、稲わらの確保だそうです。昔ながらのやり方を続ける農家がいなくなったためです。また、暖冬により雪が少ないと御神木の根本を固めて立てることができないため、中止にせざるを得ないそうです。
課題は多いですが、実行委員長の雅彦さんは、「祭りを続けられる限りは続けたい」と力強く話してくれました。
私は同じ秋田でも沿岸部の生まれなので火を使った小正月行事というものになじみがありません。(冬場は風が強く、火を使いづらいということも関係しているのでしょうか?)そのため、こうした火祭りには憧れがあり、無くしてしまうのはもったいないという思いがあります。継続のために、情報発信など協力できることをしていきたいと思います。
関わりしろ
・御神木の立ち上げなど、祭りの運営ボランティア
・祭りを盛り上げる「大声コンテスト」への参加(「おーい、かまくらのごんごろう」と叫ぶ声を競い、優勝すると御神木に点火できます!)
運営ボランティアへの参加申込はこちら
申し込みフォーム:https://forms.gle/dJVazDSPMg5Byxzm9
令和6年度「葛黒の火祭りかまくら」開催情報
開催日:令和7年2月16日(日)
会場:葛黒林業センター裏(北秋田市七日市字葛黒1)
タイムスケジュール
午前9時 御神木の切り出し、運搬 飾り付け作業
午後4時 御神木の立ち上げ
午後6時 点火儀式
※御神木の立ち上げ後には大声コンテストが行われます。また、会場には温かい食べ物や地域の特産品の出店、「竹あかり」の設置などもあります。
問い合わせ先
葛黒の火まつりかまくら保存会
TEL:090-6101-8906(長岐賢一さん)
「あきたの物語(https://kankei.a-iju.jp/)」は、物語をとおして「関係人口」の拡大を図ることで、県外在住者の企画力や実行力を効果的に生かした地域づくりを進め、地域の課題解決や活性化を促進する事業として秋田県が2023年度から始めました。秋田県や秋田にまつわる「ローカリティ!」のレポーターや地域の関係者が、秋田県各地の人々の活動を取材し「あきたの物語」を執筆して秋田県を盛り上げています。