プラスチック汚染は海鳥にも脅威 <オーストンウミツバメ>における化学物質の蓄積が明らかに
現代における環境問題の一つプラスチック。
海洋に流出したプラスチックは海洋汚染を引き起こし、プラスチックの絡まりや誤食は海洋生物にとって大きな脅威となっています。
海鳥に対するプラスチック汚染として、1962年にコシジロウミツバメで初めて体内からプラスチックが発見され、その後も多くの海鳥から誤食が報告されてきました。近年では9割以上の海鳥がプラスチックを摂食していると推定されているものの、日本近海の海鳥については詳しくわかっていないといいます。
こうした中、東京農工大学と日本野鳥の会の研究チームはプラスチック汚染を調べるため、伊豆諸島で繁殖するオーストンウミツバメを対象に調査を実施しました。
この研究成果は『Marine Pollution Bulletin』に掲載されています(論文タイトル:Accumulation of persistent organic pollutants and benzotriazole UV stabilizers in the preen gland oil of Tristram’s storm-petrel (Hydrobates tristrami))。
海鳥とプラスチック汚染
プラスチックは現代における環境問題の一つであり、海洋に流出したプラスチックは海洋汚染を引き起こすほか、海洋生物に大きな脅威となっています。
海鳥においては、1962年にコシジロウミツバメで初めて体内からプラスチックを発見。近年では9割以上の海鳥がプラスチックを摂食していると考えられていますが、日本近海に生息する海鳥についてはよくわかっていないといいます。
プラスチックの摂食は誤食だけではなく、食物連鎖を通じて体内に取り込まれることから、潜水性の海鳥よりも海面で魚やイカなどをつみばみ摂餌するウミツバメ類の方が高リスクであると考えられているようです。
しかし、生活の大部分を遠洋上で過ごし、繁殖地の無人島では夜に行動する種が多いウミツバメ類では、生態についての情報が乏しく、摂餌や有害化学物質の蓄積にかんする研究も多くありません。
オーストンウミツバメを対象に調査
こうした中で、国立大学法人東京農工大学と公益財団法人日本野鳥の会の研究チームはプラスチック汚染の海鳥への影響を調べるため、オーストンウミツバメHydrobates tristrami を対象に調査が行われました。
オーストンウミツバメは全長24.5~27センチの小型海鳥で小笠原諸島、伊豆諸島、ハワイ諸島を繁殖地としています。
今回の調査地は、国内における本種最大の繁殖地である伊豆諸島神津島の属島「祇苗島(ただなえじま)」。ここではオーストンウミツバメが11月に島に戻り、1月上旬~中旬に産卵。3月には孵化し、5月上旬から巣立ちが始めることが知られています。
繁殖地のオーストンウミツバメは、夜間に飛来し日の出前に飛去。主に洋上で浮遊する海洋生物を捕食することが知られていますが、生活史や生態の多くは謎に包まれているようです。
研究では、本種の尾腺ワックス(鳥の尾腺から分泌される脂)中の残留性有機汚染物質のポリ塩化ビフェニル(PCBs)、ジクロロジフェニルジクロロエチレン(DDE)やベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(BUVSs)の濃度を定量および汚染状況で評価。成鳥11羽とヒナ2羽から尾腺ワックスを採取し分析が行われました。
すべての個体から有害化学物質が検出
分析の結果では、すべての個体から有害化学物質であるPCBsとBUVSsが検出されています。
うち4個体からはBUVSsのUV-9、UV-326、UV-320、UV-350、UV-328が散発的に高い濃度で検出。UV-328は2023年、ストックホルム条約に登録されたばかりの化学物質です。
また、PCBsとDDEは北太平洋に生息するほかの海鳥と比較しても、成鳥のオーストンウミツバメでは一部で高い濃度の蓄積がありました。繁殖期の前半と後半のPCBsとDDE濃度の比較では繁殖期後半(渡去前の5月)に高い傾向が見られています。
加えて、PCBsとDDEの濃度には相関関係があったものの、PCBsとBUVSsの濃度には相関関係が見られず、BUVSsの検出はプラスチックの摂食に起因することが示唆されたのです。
今後もプラスチック汚染の調査が望まれる
今回の研究により、伊豆諸島に生息するオーストンウミツバメにおいて高濃度の有害化学物質の蓄積が発生していることが判明しました。
この研究結果はウミツバメ類におけるプラスチック汚染のリスクを危惧した国外の研究と一致することから、世界中のウミツバメ類についてもプラスチック汚染に関連する幅広い研究・調査を行うことが望まれています。
(サカナト編集部)