【貴重写真】深海何メートルまで魚はいるの? #もやもや解決ゼミ
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今回のギモンは「深海の何メートルまで魚はいますか」です。
人類にとって宇宙と深海はいまでに謎に満ちた空間です。以前、『マイナビ学生の窓口』で「宇宙と深海、行けるとしたらどちらに行きたいですか? どちらが怖いですか?」というアンケートを取ったことがありますが、怖いのは「深海」と答えた人が多数でした。
怖い理由には「真っ暗で下から何か来そう」という回答がありました。確かに「何かいるかも」というのは怖いですね。
深海は今なお人類にとってはフロンティア。宇宙のような隔絶された空間ではなく、すぐ側にある「海」なのに、いまだに謎だらけなのです。
では魚は深海何メートルまでいるのでしょうか。
今回は『東京海洋大学』の北里洋客員教授に回答していただきました。
2022年8月15日、『東京海洋大学』と『西オーストラリア大学』などの研究グループが、伊豆・小笠原海溝の水深8,336メートルのところで魚が生息している映像を確認しました。
↑PHOTO(C) Caradan Oceanic LLC
上掲がそのときに捉えたスネルフィッシュの画像ですが、世界最深の場所で確認された魚ということでギネス新記録に登録されました。
それまでは、マリアナ海溝の水深8,178メートルで見つかった魚が最深の記録でした。しかし、それより158メートルも深い場所にも魚がいることが分かったのです。
●スネルフィッシュってどんな魚?
見つかった魚は「スネルフィッシュ」というクサウオの仲間で、この種類は「浮袋」がありません。一般に皆さんが知っている魚は「浮袋」という器官を持っており、ここに空気を取り入れて体の浮き沈みをコントロールしています。
しかし、深海ではものすごい水圧が掛かって浮袋が潰れてしまいます。
そのため、スネルフィッシュは浮袋の代わりに大きな肝臓を持っており、ここに「油」をためて体の浮き沈みをコントロールしているのです。
なぜ水圧に耐えられるかというと「TMAO」※という物質が関わっていると考えられています。
細胞が水圧で潰されそうになると――これは水分子が細胞の構造を潰そうとするわけですが――その際にはTMAOが細胞のタンパク質の構造のすきまに入ろうとする水分子をブロックするのです。
スネルフィッシュはTMAOを利用することで深海の水圧に耐えて生きていけるのでしょう。
※TMAOは「トリメチルアミン-N-オキシド」で、深海魚や甲殻類に多く含まれます。また深い場所に住む魚ほどTMAOの濃度が濃いことが知られています。面白いことに、このTMAOは魚の「うま味成分」であり、「魚の生臭さの元」としても知られているのです。魚市場に行くと嗅ぐことができるにおいです。
●これより深いところにも魚はいる?
TMAOが細胞内に水圧に耐えて細胞の働きを守ることができる理論値がアメリカ合衆国の学者によって計算されています。
それによると水深8,400メートル前後が限界となっています。
私たちが発見したスネルフィッシュは水深8,336メートルのところにいましたから、限界まであと約70メートルです。理論値の計算が正しいのであれば、ほとんど限界点にいた魚ということになります。
可能性は低いとはいえますが、もし、これより深いところで生息する魚が存在するのであれば、人類のまだ知らない「何か他の仕組み」を利用して生きていることになります。ワクワクすることですね。
【貴重写真】世界最深の場所で確認された魚「スネルフィッシュ」
若者に続いてほしい!
魚が見つかったのは8,336メートルが最深ですが、小笠原海溝の水深9,800メートルもの深海に潜航した際にもさまざまな生物が見つかっています。
残念ながら魚は見られませんでしたが、カイコウオオソコエビ、イソギンチャク、ウミユリなどが生息していることが確認できました。カイコウオオソコエビは餌としてつけたサバに群がっていました。
1,000気圧もの水圧に耐える生き物がいるというのは驚くべきことです。
上記のスネルフィッシュを確認できたときには、まるで玉手箱を開けたような驚きと喜びを感じました。
生物というのはなんという多様性を持っていることでしょうか。生物というのは、小指の先ほどの面積に1トンもの水圧がかかる極限的な環境にも多様性を持って分布しているのです。
深海はまだまだ分からないことだらけと言ってもいい場所です。ぜひ大学生読者の皆さんや若い世代の人には、先人たちの研究を引き継ぎ、新たな玉手箱を開ける喜びを味わってほしいと思います。
◇けつろん!
最も深いところで確認された魚は「8,336メートル」とのことで、これはギネス記録と認定されています。日本の排他的経済水域内で世界記録が樹立されたのは喜ぶべきことでしょう。北里先生のお話は本当にワクワクするものでした。
ぜひ大学生読者の皆さんも未知の世界「深海」とそこで暮らす生物に目を向けてください。
◇おしえてくれたせんせい
北里洋 Profile
『東京海洋大学』客員教授。理学博士。
1948年 東京都生まれ。1976年東北大学大学院理学研究科博士課程修了。静岡大学理学部助手、助教授、教授、(独)海洋研究開発機構海洋・極限環境生物圏領域領域長、同機構東日本海洋生態系変動解析プロジェクトチームプロジェクト長を経て2015年より現職。
専門は地質学、地球生命科学、深海生物学、海洋微古生物学。2010年 日本古生物学会賞(横山賞)受賞。2016年ジョセフ・A・クッシュマン賞受賞。2019年 日本地球惑星科学連合フェロー。
文:高橋モータース@dcp
編集:学生の窓口編集部
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