muro式新作舞台公演『トイ』制作発表レポート〜ムロツヨシ役者人生初の本多劇場や能登公演等にかける思い
「muro式新作舞台公演制作発表」が2024年11月6日、東京都北区の北とぴあカナリアホールにて開催された。
「muro式」は俳優のムロツヨシが「やりたい役者、脚本家とやりたいことをやる」をコンセプトに、2008年より続けているプロジェクト。今回はその新作公演の制作発表を兼ねたトークイベントとして1週間前に急遽開催が告知され、高倍率のチケット争奪戦を勝ち抜いた熱いムロファンたちが集まった。
前回公演のメイキング映像が流れる客入れ中の会場に、開演前にもかかわらずムロ本人がふいに登場。本人による今日のイベントの趣旨説明や、本編でムロが登場した際の拍手の練習などで早速会場を沸かせた。
開演時間を迎え、『muro式.がくげいかい』(2021年)のために作られた東京スカパラダイスオーケストラ『めでたしソング feat.ムロツヨシ』をBGMにムロが再度登場。「日本でいちばんダラダラした制作発表を目指す」と前置きしながら、まずは2年前のトークライブ以降のムロの活動をwikipediaを見ながら振り返った。
今回の「muro式」は事務所スタッフによる「ムロの作った舞台が観たい」という声に後押しされる形で1年ほど前に決定したと明かし、もう一人の出演者である本多力が登場。
本多は今回の「muro式」出演にあたって「楽しくもあり痺れるあの時間が戻ってくる。あとはなんとかして仲が悪くならないようにしたい」と笑わせた。
ムロは「muro式」の常連メンバーである永野宗典がスケジュールの都合などで今回出演しない旨を説明。「今まで永野さんに頼ってたから、今回は“脱永野”で」と話したが、その説明から出演者一人ひとりとの綿密で丁寧なコミュニケーションが垣間見えた。
また、ムロは俳優だけではなくスタッフ一人ひとりに対しても敬意を払い、今回の新作では「僕が獲りたいと言うより、スタッフの皆さんの才能や努力を讃えてほしい」という理由から、演劇賞の受賞も一つの目標にしていると述べた。ここで司会を本多にバトンタッチし、新作のタイトルを『トイ』と発表。このタイトルには、いろんな「問い」を舞台で表現し、観客に想像してもらいたいという思いを込めたと言う。
続けて発表されたのが開催地。東京の会場が下北沢・本多劇場と発表されると会場から拍手が。ムロが長い役者生活で今回初めて本多劇場に立つと言うと、拍手は一層大きなものに。
約一ヶ月の東京公演を経て、一座は広島、福岡、能登、金沢、そして最後は大阪へ。それぞれの土地での思い出を語りながら発表を進めたが、特に今年地震と豪雨に見舞われた能登での公演は「絶対に実現させたかった」というムロの強い希望によって決まったという。幾度にもわたる調整の上、能登演芸堂での公演実現に漕ぎ着けたことを明らかにし、さらに能登公演のうちの一日では打ち上げ花火をあげることを目標として掲げた。
開催地の発表が終わり、本多からサプライズゲストとして呼び込まれたのは、もう一人の出演者である大西礼芳。
「大西礼芳をもっと知ろう」のコーナーでは、再びwikipediaを画面に映し出してその経歴を一緒に追う。途中、大西が所属する芸能事務所トライストーンの社長でありムロと親交の深い小栗旬から「大西は売れるぞ!」とベタ褒めした上で「『muro式』でもどうぞよろしくお願いします!」と力強く頼まれたとムロが打ち明ける場面も。
質疑応答で出演決定時の率直な感想を聞かれた大西は、「ムロさんとは『なぜこの仕事をしているか』という部分で共通の感覚があります。でも……」と止まると二人から一斉にツッコミが。しかし続いたのは前向きな意気込みで、「ムロさんも本多さんもおもしろいことを私に振ってくれたり導いてくれたりするけど、そこに甘えすぎずにやって行かねばと思っていて、来年の本番ではそういう舞台にしたい」と述べた。
また、公演中に仲が悪くならないコツを質問されると、本多は「距離感を保つ」と答え、さらにムロからは『muro式.1』の時、本番の二日前にファミレスでムロと永野が言い合いになったが(本多もその場にいたが静観)、その喧嘩を経たからこそいい公演になって三人の絆も深まったという熱いエピソードが披露された。さらにムロが、公演のグッズやパンフレットの内容にリクエストがあれば、と会場に投げかけると、全国各地から集まったファンたちから具体的な要望が挙がり活発な意見交換の場になった。質疑応答の最後に出た「『muro式.』をまだ観たことがなく予備知識ゼロで来たが、新作を観るにあたって知っておくべきフィロソフィー(哲学)は?」という質問に対してムロは「フィロソフィー」という単語に一瞬狼狽するも、「立ち上げ時に、初めて観た人と100回観た人が同じく楽しめるポイントを作ることをコンセプトにしたので、予備知識はむしろ入れないでいてくれた方がうれしい」と真摯に答えた。
「演劇を観に来てもらうことが簡単ではないと重々承知しながらも、劇場を満席にして皆さんの前でお芝居できることを目標にしていきたいです」とムロが締めの挨拶をしてイベントは閉会した。
取材・文・撮影=碇雪恵