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「マグロの完全養殖」が難航しているワケは資源量回復にあり? 大手企業が次々撤退

TSURINEWS

マグロ(提供:PhotoAC)

かつて日本人を歓喜させた「マグロ完全養殖成功」のニュース。しかし現在、この技術は曲がり角に差し掛かっているように見えます。

マグロ「完全養殖」に暗雲

日本人が最も大好きな魚であるマグロ。大きく成長し美味なことから高い需要があり、養殖技術の開発が進められてきました。

そして2002年、近畿大学が世界で初めて「マグロの完全養殖」に成功。人工孵化によって生まれた稚魚を成長させ、再び産卵させることができるようになり、「夢の技術」とも言われました。世界中でマグロの乱獲が叫ばれていたこともあり、すぐにこの技術がポピュラーなものになると思っていた人も少なくなかったでしょう。

マグロの稚魚(提供:PhotoAC)

そかしそれから20年以上がたった現在、このマグロ完全養殖は一つの岐路に立たされています。水産大手各社が次々と完全養殖からの完全撤退および一部撤退を決定したのです。

採算性が高まらない理由

撤退の理由はとてもシンプルで「採算性が悪化した」ため。しかし一体なぜでしょうか。

実は近年、国際的な漁獲制限の効果もあって天然マグロの資源量は回復傾向にあります。それに伴い「天然マグロ稚魚」を漁獲して蓄養する「天然養殖」のコストが低減し、結果として完全養殖の需要の底が抜けてしまったのです。

マグロの養殖場(提供:PhotoAC)

マグロの孵化直後の稚魚は非常に弱く、死亡率の高さが完全養殖の足かせとなります。そのためコストの面では完全養殖はまだ天然養殖に遥かに及びません。

ただし、完全養殖技術を確立した近畿大学では引き続き研究が続けられ、完全養殖の課題解決を目指すといいます。近年の世界的な魚食ブームを踏まえれば再び天然資源に危機が訪れる可能性はあり、その時再び完全養殖技術が役に立つことになるかもしれません。

今後は「養殖の短期化」も

ただし、完全養殖、天然養殖を問わず、そもそも「マグロの養殖」自体非常に効率が悪く、いわゆるSDGs的な観点からは好ましくない、という事実も存在します。

養殖や畜産動物は「体重を1kg増やすために何kgの餌が必要か」という視点でコストが比較されます。この数値を飼料効率というのですが、例えば近年養殖が盛んなサーモンでは1.1~1.3程度なのに対し、マグロの場合はなんと13~15にも及ぶのです。

蓄養マグロ(提供:PhotoAC)

この課題を解決するため、最近ではマグロの「短期養殖」という方法も注目されています。これは稚魚ではなく、体重30kg以上(多くは80~100kg程度)の成魚のマグロを漁獲し、それを半年ほど蓄養してから出荷するというもの。

たった半年で意味があるのかと思いきや、蓄養後は100~200kgにも達するのだそうです。短期養殖で育てたものは養殖個体特有の臭みも少なく、食味の良いということで、大手水産会社もこぞって参入しているといいます。

<脇本 哲朗/サカナ研究所>

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