【塩野瑛久】「大河ドラマの役を通して、感じた想い」映画『チャチャ』インタビュー
『美しい彼』『夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく』『恋を知らない僕たちは』など、注目作を次々と手掛ける酒井麻衣監督の7年ぶりの完全オリジナル作品、映画『チャチャ』が10月11日(金)より公開される。
“人目を気にせず、好きなように生きる”をモットーに、自由気ままな日々を送る主人公のチャチャ(伊藤万理華)。そんな彼女の前にミステリアスな雰囲気を纏う樂(中川大志)が現れたところから、物語は動き出す。
塩野瑛久が演じる“護”は、チャチャ、樂と深く関わる人物……ただ、大きく物語を動かしていく役割も果たすため、現状は“キーマンとなる謎の男”とだけ説明されている。
そんな護を塩野がどう演じていったのかを語ってもらったのだが、核心にできるだけ触れないようにしているため、映画を鑑賞した前後で、インタビューを読んでもらえるとより楽しんでいただけると思う。
また、2024年の塩野を象徴する役柄となった大河ドラマ『光る君へ』(NHK)での一条天皇役を通して感じた想いなども明かしてもらった。
護の愛され力のようなものを意識して
――出演が決まったときの印象を教えてください。
酒井(麻衣)監督とは、一度、ドラマ(『38歳バツイチ独身女がマッチングアプリをやってみた結果日記』2020年放送)でご一緒していて、その時、素敵な監督だなと思って。
――まだお若いのに才能を発揮されていますよね。
そうなんです。柔らかい雰囲気をお持ちなのに、しっかりと現場をまとめられていて。その上で、ご自身の世界観や、正義とするものははっきりしている。そういう監督は珍しいし、またいつかご一緒したいなと思っていたところ、お話をいただいたので、素直にうれしかったです。
しかも今回は酒井さんのオリジナル脚本の長編作品。「ぜひ、やらせていただきたい」という想いでいっぱいでした。
――護は“キーマンとなる謎の男”と紹介されていますが、塩野さんはどのように捉えていましたか。
まず人柄がとても大事になるキャラクターだと思いました。自分で稼ぐ力はほぼなくて、恋人に支えてもらいながら日々を過ごしているんですけど、そんなふうに彼女から想われるには、それなりの理由があるわけで。
護の心根みたいなものが見え隠れしないと、その状況に説得力が生まれないと思いました。しかも、護が姿を消してからも、彼女はずっと帰りを待ってくれているんです。
そういう護の愛され力のようなものを意識して、セリフを言うときは、角が取れた、丸みを帯びたような雰囲気を出せるように心がけました。
外見はどちらかと言うとワイルドというか、近寄りがたいような感じなんですが、人柄としては接しやすく、彼と関わった人たちは、なぜか彼のことをサポートしてあげたくなってしまう。それが計算ではなく、天然でできるのが護らしいと思ったので、そこは演じる上で大事にしました。
――護って“ダメ”だけど、“クズ”ではないというか。愛らしさがありますよね。
僕もそう感じていました。それから、印象的なこととして、護はある危機的な状況に追い込まれるんですけど、そういう場面でもちゃんと敬語を使っているんです。
もし護のキャラクターについての説明がなく、単にその状況だけを演じてほしいと言われたら、僕はもっと危機が迫るような表現をしたと思うんですが、護の場合というか、この映画『チャチャ』という世界の中では、そうではない。
少し抜けているというか。必死すぎても違うし、かと言って、楽観的すぎても違う。そのバランスを取るのは難しかったです。監督とも話し合いながら作っていきました。
あの状況って、ある程度、切迫感を出さないと、観ている方からするとツッコミを入れたくなると思うんです。でも、切迫感があまりないのが護だから、その人物像が崩れない程度のバランスをすり合わせていきました。
――護は危機的状況にあるときに、水、栄養ドリンク、酒のどれが欲しいかを問われて、「酒」と答えますよね。個人的に、あの場面に彼のキャラクターが出ているなと感じました。
そうなんですよね(笑)。あとは、護の登場シーンが、中盤から後半にかけてだから、どんな人なのかの事前情報が出せないんです。だからこそ、ちょっとしたことからでも、護の人柄を知ってもらわないといけないなと思っていました。
例えば、樂(中川大志)から水をかけられるシーンがあるのですが、第三者からの目線と、護からの目線では、見え方が違うんです。だから、護として感じていることとは違うように見せるのも、すごく難しかったです。
いい意味で予想を裏切る、予想すればするほど、そのようには進まない映画
――二度目の酒井監督の現場はどうしたか。
細部にまでこだわる方なので、その絶妙な塩梅に合わせていくのが難しい時もありました。今回、酒井監督のオリジナル作品ということもあり、「これは監督の求めるものになっているんだろうか?」と演じていて心配になることもありました。
後々、他の共演者の皆さんとお話する機会があり、皆さん同じ状況だったとおっしゃっていたので、そのときは、「良かった。僕だけじゃなかったんだ」って、少し安心しました(笑)。
――ご自身で完成作を観たときはどう感じましたか。
前半と後半で与える印象が全然違うなと。とはいえ、それを狙ってやっている感じではないんですよね。たぶん、観客の方からすると、「この映画はこの方向性で見ればいいんだ」と思ったら、次の瞬間、それが覆って、予想していたものがさらにまた違う方向に行く、結構、ジェットコースターな展開だなって思うんじゃないですかね。
脚本で読んだときよりも、映像の爽やかさが加わることで、さらに落差がある作品に仕上がっているなと感じました。いい意味で予想を裏切る、予想すればするほど、そのようには進まない映画になっていると思います。
――確かに前半と後半の印象は全く違いました。
護は後半から登場するので、前半部分の撮影はどんな感じかわからなかったから、観てみたら、爽やかで、軽快で、楽しそうで。撮影期間中、1、2日ぐらい、前半パートの出演者の方々とメイク室ですれ違ったんですが、そのとき、僕の姿を見て「同じ作品を撮影しているとは思えない」って言われました(笑)。
――ご自身の中で印象に残っているシーンは?
いくつかあるのですが、ネタバレにならないようなことで言うと、固い床に寝たのは印象に残っています。埃っぽい場所だったので、撮影のあとに鼻や耳を掃除したら真っ黒になりました(笑)。
――中川さんとは現場で何かお話はされましたか。
「久しぶりだね」とかは話ましたが、そんなにコミュニケーションは取れなかったんですよね。大志くんも樂の雰囲気を保ったまま現場に挑んでいた感じもしたので、深い話をすることはできなかったです。
――護と樂が対峙するシーンもありましたが、あの場はどんな雰囲気でしたか。
そこもまた難しくて(苦笑)。あの場に僕が居たとしたら、相当怖いと感じたと思うんですけど、護を通すとそれをあんまり表現できないっていう。護はそこまでの危機感を抱かないし、僕なら疑問に思うようなことも口にしないし。本当に不思議なんですよね、護って。
――本作は「不器用に、でも一生懸命『今』を生きるヒロインたち」を描くプロジェクト「(not) HEROINE movies」の第4弾として制作されましたが、チャチャというヒロインからはどんなことを感じましたか。
周りからは変わって見えて、「才能があるように見せたいんだよね」と思われているんですけど、本人はそんな気はさらさらなくて、天然でやっていること。だけど、そう思われてしまうのは、見えている世界が違うだけなんですよね。
コミュニティが狭いから、そこに居ないタイプの人を「変な人」と思ってしまうだけで、世の中、一歩外に出てみたら、そうやって「変な人」とくくった人はたくさん居るし、いろんな価値観が存在する。結局、正解なんてないんですよね。
チャチャからは、周りに無理に迎合することなく、自分らしくいていいんじゃないか、ということをすごく感じました。だから、自分なりの価値観を持っている人には、より刺さる作品になっているのかなと思います。
一条天皇という役をいただけて、半生を演じ切れたのはすごくうれしかった
――現在、大河ドラマ『光る君へ』で一条天皇役を演じられていて、長い期間をかけて一人の人の半生を表現されていますが、今回のように、ある人物のほんの一場面を切り取るようなときとでは、役との向き合い方に違いは出ますか。
そうですね。やっぱり違いますね。今回のようにある人の一瞬を切り取るようなときは、自分でその人物の背景を考えて挑むことが多く、そうすると、ある程度の自由がありますし、面白い組み立て方もできるし、楽しいんです。
だけど、視聴者目線では、共感したり、気持ちが持っていかれるのは、主に物語を背負っているキャラクーですよね。
だから、そういうふうに(視聴者や観客に)寄り添ってもらえるような人物を演じたいと思っていたところに、今回の一条天皇という役をいただけて、半生を演じ切れたのはすごくうれしかったです。
一人の人物を長く演じられると、現場に入って、その場で感じた空気感や、その場で起こったことに対しても役を組み立てられるというか。僕が脚本を読んで思っていたのとは違う反応や状況になったとしても、それに合わせて役として受け取ることができるんです。
逆に今回の護のようなそれほど登場シーンの多くない役の場合は、自分から発信することをしていかないと、そのキャラクターの背景までは見せることができないので、そこは大きな違いかなと思います。どちらがいいとかではなくて、捉え方の違いですね。
――一つの役を長く演じていると、その間に別作品の役が入ってくることもありますよね。他の役も演じながら、一つの役をキープし続けるというのはどうなのでしょうか。
大河を撮っている間にも、他の役を演じていたんですが、どちらかと言うと、一条天皇とは逆というか、それぞれに癖のある役だったので、切り替えやすかった気がします。似ているほうが難しかったんじゃないかな。なので、気持ちよりも体力的にとか、時間的にのほうが大変でした(苦笑)。
――本作の公開が10月11日で、他にも10月25日から映画『八犬伝』、10月期放送のドラマが『ゴールデンカムイ』(WOWOW)、『無能の鷹』(テレビ朝日)、『天狗の台所 Season2』(BS-TBS)と出演作が目白押しです。本当にご活躍の一年だったと思うのですが、ご自身ではどう感じていますか。
今まで培ってきたものというか、その中には苦しかったと感じるようなこともありましたけど、そういう経験をしておいて良かったと思える環境が巡ってきたのかなと感じています。
生意気なことを言いますけど(笑)、僕は場さえ与えてもらえたら、自分が培ってきたものを表現できるって思っていたんです。だから、そういう場に携わらせていただいたことは大きかったです。これからもそういう場所を作っていけたらなと思います。
あとは、すごく人に恵まれた一年だったと思います。そういう方とまたご一緒できるように、僕は自分にできることをやり続けていくしかないという想いです。
――どんなときに、これまでの苦労が報われたと感じますか。
先ほども言いましたが、物語に置いて責任あるポジションを務めることで、物語を通して、その人物の人となりであったり、考え方にフォーカスして(視聴者や観客に)観てもらえる。そうすると、その時に出たふとした表情とかからも、役の気持ちが伝わるので、そういうシーンに巡り合えたり、観てもらえる機会があったときですかね。
やっぱり自分の中では、物語には描かれていないその役の背景を考えて演じていたとしても、視聴者の方には伝わりづらい部分はたくさんあって。それが、観ていて自然と伝わるというのは大きいことだなと感じました。
普段から僕のことを応援してくださっている方は、どんな役でも細かい部分まで観てくださっていて、ありがたいなと思っているんですけど、そうではない方々にも、(一条天皇役は)細かいお芝居まで観ていただける機会になったと思います。これからもそういう役に巡り合えるよう頑張っていきたいです。
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劇中で、護のエピソードの中に出て来る黄色い花をイメージして、今回は黄色いバラを持って写真撮影をしていただきました。途中、「バラを劇中に出て来る彼女だと思ってお願いします!」とムチャぶりをしたのですが、嫌な顔一つせず、素敵な表情をたくさん見せてくださいました。
護は塩野さんも言うように、少し不思議な感覚を持ったキャラクターですが、塩野さんが演じたからこそ説得力が出たと感じました。ぜひ、皆さんも劇場でジェットコースターのように目まぐるしく展開が変わる物語を楽しみながら、塩野さんが表現した護にも注目してみてください。
作品紹介
映画『チャチャ』
2024年10月11日(金)より全国公開
(Medery./瀧本 幸恵)