古墳に甘味も。宿場町の記憶をつなぐ群馬県玉村町で、散りばめられた魅力と出合う【徒然リトルジャーニー】
埼玉県に接する群馬県南部に位置する玉村町。高崎市・前橋市・伊勢崎市・藤岡市と県内屈指の市にぐるりと囲まれるなか、いかにして輝きを放とうとしているのか。孤高の存在とも評すべき小さな町の様子が気にかかり、足を運んでみることにした。
アクセス
鉄道:JR・地下鉄東京駅からJR高崎線などで約1時間50分の新町駅下車。永井バスに乗り換え、玉村町役場まで約20分。
車:関越自動車道練馬ICから同道を利用し、高崎玉村スマートICまで約83km。同ICから町中心部まで約3km。
町内探訪前に足を運んでおきたい『玉村町歴史資料館』
古墳時代に始まり、中世・近世へと続く町の歩みと、江戸時代に日光例幣使(れいへいし)道の宿場として栄えた往時の様子を、工夫を凝らした展示や映像を交えて親しみやすく紹介。コンパクトなスペースながら見応え十分で、持ち帰り可能な解説資料も充実している。年に数回企画展も開催。
玉村町歴史資料館(たまむらまちれきししりょうかん)
住所:群馬県玉村町福島325 玉村町文化センター内/営業時間:10:00~16:00/定休日:月~水・祝
鎌倉時代に起源をもつ町を代表する古社「玉村八幡宮」
鎌倉時代に起源を有し、江戸時代初期の慶長15年(1610)に現在地に遷座したとされる古社。日光例幣使道の鎮守社として長く崇敬され、慶応4年(1868)の大火による焼失を免れた本殿は、国指定重要文化財として建築時の様式を今に伝えている。神楽殿や力石、夫婦楠木、御神水など境内の見どころも多い。
玉村八幡宮(たまむらはちまんぐう)
住所:群馬県玉村町下新田1
古墳の上から平坦な町内を一望できる「軍配山(ぐんばいやま)古墳」
古墳時代前期(4世紀)のものとされる円墳。古墳の名は天正10年(1582)の神流(かんな)川の合戦の折、織田信長の家臣・滝川一益が本陣を置き、軍配を振るって戦いを指揮した故事に由来する。近くの人気洋菓子店『パティスリー サンクトロワ』(群馬県佐多郡玉村町角渕4338-1)では古墳の形状を模した和三盆かすていら「たまむら軍配山古墳」を販売。
●群馬県玉村町角渕4755-1・2
テイクアウト用に単品のおにぎりも販売『おにぎりカフェ 玉むすび』
旧日光例幣使道に面した造り酒屋跡を活用し、2023年にオープン。県内中之条産米「花ゆかり」を用いたおにぎりはお米の弾力と甘さが際立つ。すべて手づくりの具は化学調味料・保存料を使わず、食材ごとの魅力を存分に引き出している。
おにぎりカフェ 玉むすび
住所:群馬県玉村町下新田619/営業時間:11:00~16:00(ランチは11:30~14:00)/定休日:日および第1・3月
地域の医家の暮らしぶりが垣間見える『重田(しげた)家住宅』
江戸時代半ばから代々医師を家業としてきた重田家の住居兼診療所跡。2021年に土地・建物が町に寄贈され、貴重な歴史的建造物として広く一般公開されている。主屋をはじめ7棟が国の登録有形文化財に登録。
重田家住宅(しげたけじゅうたく)
住所:群馬県玉村町小泉42/営業時間:10:00~16:00/定休日:月・火・土・日(土・日はイベント開催時のみ開館)
地域で長く愛され続ける味『飯玉(いいだま)屋』
自家製発酵種が醸し出すふんわり食感と、自家製味噌だれの香ばしさが人気の焼きまんじゅう店。焼きまんじゅう1串4玉240円、同あん入り3玉380円、同ミックス3玉300円のほか、賞味期限2分で、麴をトッピングした生まんじゅう1串4玉300円、同あん入り1玉250円もユニーク。
飯玉屋(いいだまや)
住所:群馬県玉村町福島149-10/営業時間:10:00~17:00/定休日:火
食材の旨味が凝縮された絶品のカレールウ『かれぇ工房』
一見シンプルながら、味の奥深さにうなるカレールウが自慢。「考えうる限りの食材をじっくり煮込み、コクと旨味を際立たせています」と店主の黒澤洋介さん。オムレツのほか、肉・野菜・魚介類がメインのカレーが揃い、後味もさっぱりしている。
かれぇ工房
住所:群馬県玉村町福島42-1/営業時間:11:30~14:30LO・17:30~20:30LO/定休日:火
手づくりならではの伝統の技が随所に光る『たまむらとうふ』
玉村町産を中心とした厳選国産大豆を原料に、添加物を加えず、利根川水系の水で仕込んだ手づくり豆腐が評判。出来たての豆腐をざるに盛ったたまざるを筆頭に、生湯葉、厚揚げ、がんもなどバラエティも豊富だ。高濃度の豆乳で濃厚に仕上げた定番のたまもめん・きぬ(各320円)も人気。
たまむらとうふ
住所:群馬県玉村町藤川91-1/営業時間:10:00~18:00/定休日:無
器の品揃えに圧倒される気さくなカフェ『Utuwakan みやび』
店内の壁という壁に陶器・ガラス・漆器などがズラリ。「以前は陶器店でしたが喫茶店と間違えて来る客が多く、それで飲食も始めたんですよ」と店主の小松勇夫さんは笑う。コーヒー495円のほか、料理好きの妻・次子さんが手がける軽食やパスタ、ハンバーグなども好評だ。
Utuwakan みやび
住所:群馬県玉村町上之手1702-3/営業時間:9:00~20:00/定休日:水および第1木
近隣住民も散策で訪れる憩いの場「水辺の森公園」
町の南側を流れる烏川沿いに広がる憩いの場で、散策路やあずまやも整備。園内を流れる小川は灌漑(かんがい)用の天狗岩用水の末流で、一時期環境悪化が懸念されたが、今では地域ぐるみで改善が図られている。岩倉橋を挟んだ東側の林間には人気の角渕(つのぶち)キャンプ場(利用無料、要予約、申請方法は玉村町HP参照)もある。
水辺の森公園
住所:群馬県玉村町角渕3949-1ほか/営業時間:入園自由
手づくりの温もりと幸福を届ける縁起物「てしごと工房」
張り子作家の勅使川原美穂さんと母・祝子(のりこ)さんが町内板井に工房を構える。代表作は起き上がり小法師になっている招き猫の我がニャン2500円~(2枚目の写真左)と、縁起だるまをモチーフにしただるまニャン子1800円~(同右)。いずれも手のひらサイズで、猫たちの愛くるしい表情に思わず心が和む。作品は『道の駅 玉村宿』(群馬県玉村町上新田604-1)で販売。
歴史の記憶をつなぐ試み
「なぜ玉村に?」と町内で出会った多くの方に不思議がられた。知名度の高い市に囲まれるように小さな自治体があること自体、私自身つい最近まで気づかなかったので、不思議がられるのも仕方ないかもしれない。
関心を抱くきっかけは『道の駅 玉村宿』の看板を偶然目にし、「玉村って地名なのかな?」「なぜ宿が付いているのだろう」との疑問が湧いたからだ。調べると自治体名は「玉村」ではなく「玉村町」であり、江戸時代には宿場町として栄えた地であると知った。
「利根川と支流の烏川の合流点に位置する玉村町には、交通の要衝として着目したであろう豪族らの古墳が約200基確認されています」と教えてくれたのは、玉村町教育委員会生涯学習課文化財係の萩原さんだ。そこから時を経た江戸時代には、朝廷のある京都から徳川家康を祀(まつ)る日光東照宮へと向かう勅使(例幣使)の一行が利用する日光例幣使道が整備され、中山道の倉賀野(くらがの)宿から分かれた最初の宿場が玉村に置かれたという。
「往時には宿場文化の娯楽の場として、大いににぎわいを見せたようですが、慶応4年(1868)の大火により、玉村八幡宮などごく一部を残し、玉村宿は失われてしまいました」と萩原さんは残念そうだ。なるほど、道の駅に「宿」とあるのは、町の歩みを今に伝える試みなのだろう。旧日光例幣使道沿いに店を構える『おにぎりカフェ 玉むすび』の店主で、まちづくり活動にも携わる樋口さんも「今さら宿場の活気は戻らないけど、この場所で店を始めることで、歴史の記憶をつなぐきっかけになれば」と話していたのを思い出した。
地元の魅力を発信するMAP片手に気まま旅
利根川や烏川沿いの河岸段丘を除けば、町域の大半が平坦地で、それゆえ移動も苦労しない。一見したところ、店が軒を連ねるいわゆる商店街は見当たらないが、要所ごとに大型スーパーや個人店が点在し、日々の暮らしには困らなそうだ。
地域おこし協力隊を母体に設立された玉村町魅力発信機構事務局が発行する「玉村町ちょい寄りMAP」には、素通りするだけでは見落としてしまいそうな個性豊かな飲食店や気になるスポットがぎっしりと紹介されており、知らなかった町にも魅力が散りばめられていることを再認識した。
MAPを頼りに町内各地を気ままに巡ってから、訪問のきっかけとなった『道の駅 玉村宿』へ立ち寄り、旅の途中と思しき客に交じって施設内をブラブラしていると、猫を模したかわいらしい張り子作品が目に付いた。添えられた文章に目を通すと、町内に工房を構える作家の手による縁起物とのこと。深掘りすればするほど思いがけない出会いが待っている徒然旅ならではの意外性を、改めて思い知る出来事でもあった。
【耳よりTOPIC】本店限定販売の上州牛コロッケ
肉牛・肉豚の集荷・と畜を手がける群馬県食肉卸売市場の小売直営店『肉の駅』。各店では精肉や総菜などを販売しているが、玉村店(本店)でしか買えないのが、さっぱりとした口当たりながら甘みが強い上州牛コロッケ200円だ。
●9:30~18:30(総菜は~17:50LO)、火休。群馬県玉村町上福島1189 ☎0270-65-2550
取材・文・撮影=横井広海
『散歩の達人』2025年7月号より