約7割がLGBTQ+への取り組みが未実施。制度設計等の必要性は感じるも、関心度の低さが課題に
『月刊総務』は、全国の企業を対象に「LGBTQ+に関するアンケート調査」を実施し、184人から回答を得た。
LGBTQ+:「レズビアン」「ゲイ」「バイセクシュアル」「トランスジェンダー」「クィア/クエスチョニング」など、多様な性的指向や性自認を持つ人々を指す言葉で、「+」はその他の多様なあり方を含む包括的な表現。
・調査結果 概要
・LGBTQ+に対する知識は「なんとなく」が多数
・約3割がLGBTQ+に関する社会的課題に関心が「ない」
・過半数が、把握していないが自社にLGBTQ+がいるだろうと回答
・職場で直面する懸念がある課題は「ハラスメント・差別の懸念」「トイレや更衣室の利用のしづらさ」「カミングアウトのしづらさ」など
・約7割がLGBTQ+に対する取り組みをしていない
・取り組みのきっかけは「社会的責任を果たすため」が最多
・実施している取り組みは「社内研修や啓発活動」「ダイバーシティ&インクルージョン推進の方針策定」など
・アライ組織があるのは184社中10社
・LGBTQ+の取り組み推進の課題は「社内の関心が低い」「施策の優先度が低い」「具体的な対応方法がわからない」など
・LGBTQ+対応に取り組む意義は「すべての従業員が安心して働ける環境づくり」が最多
LGBTQ+に対する知識は「なんとなく」が多数
LGBTQ+に関する基本的な知識について尋ねたところ、「なんとなく理解している」が65.8%で最多となった。「言葉を聞いたことがない」と答えた人はいなかった(n=184)。
約3割がLGBTQ+に関する社会的課題に関心が「ない」
LGBTQ+に関する社会的課題への関心度について尋ねたところ、「とても関心がある」14.7%、「やや関心がある」52.2%を合わせて66.9%が関心ありと回答した。一方で「あまり関心がない」「全く関心がない」との回答も3割に上った。(n=184)。
過半数が、把握していないが自社にLGBTQ+がいるだろうと回答
自社にLGBTQ+当事者がいるかについて尋ねたところ、「いることを総務として把握している」が10.3%、「把握していないがいると思う」が51.1%で過半数を占めた。規模別にみると、社員数100名以上の企業は、約8割がいることを把握している、もしくは、いると想定していることがわかった(n=184)。
<把握している方法/一部抜粋>
・本人の申告
・1on1などの面談や相談窓口の設置
・周囲からの情報
・無記名アンケートを行った際、当事者であるという回答があった
・本人から同性婚の申請があった
・セミナーでそういう観点に触れたところ、本人から配慮に感謝する旨の個別応答があった
職場で直面する懸念がある課題は「ハラスメント・差別の懸念」「トイレや更衣室の利用のしづらさ」「カミングアウトのしづらさ」など
LGBTQ+当事者が職場で直面しやすい課題について尋ねたところ、「ハラスメント・差別の懸念」が71.7%で最多となり、「トイレや更衣室の利用のしづらさ」66.8%、「自己開示(カミングアウト)のしづらさ」65.8%、「周囲の無理解や無関心」53.8%と続いた(n=184)。
<社員からの相談内容やエピソード/一部抜粋>
・同性婚も福利厚生(慶弔金等)の対象になるか
・税務処理など固有のシステムにどう乗せて対応するか、事務スタッフ側での混乱が多かった
・部下からLGBTQ社員に関して、具体的な対応はどのようにすればよいかと問われ、明確な回答ができなかったことがある
・自認が女性なので「くん」付けで呼ばれたくない
・女性社員の制服着用(スカートだけではなくパンツも導入)
約7割がLGBTQ+に対する取り組みをしていない
LGBTQ+への取り組みを対外的に表明しているかについて尋ねたところ、「表明している」が5.4%にとどまり、「取り組んでいるが表明していない」が23.9%、「取り組んでいない」が70.7%だった(n=184)。
また、取り組みを対外的に表明している企業に、表明後にあった変化について尋ねたところ、「社内の意識が高まった」が40.0%で最多となった。一方、「特に変化はない」との回答も50.0%あった(n=10)。
・社内の意識が高まった:40.0%
・社員からの相談が増えた:20.0%
・採用面での反応が変わった:10.0%
・離職の抑制に繋がった:0.0%
・その他:10.0%
・特に変化はない:50.0%
取り組みのきっかけは「社会的責任を果たすため」が最多
LGBTQ+への取り組みを始めたきっかけについて尋ねたところ、「社会的責任を果たすため」が66.7%で最多となり、「グローバル基準に合わせるため」38.9%、「経営層の方針」27.8%が続いた(n=54)。
実施している取り組みは「社内研修や啓発活動」「ダイバーシティ&インクルージョン推進の方針策定」など
現在実施している取り組みについて尋ねたところ、「社内研修や啓発活動」が50.0%で最多、次いで「ダイバーシティ&インクルージョン推進の方針策定」が35.2%、「当事者向けの相談窓口の設置」と「トイレ・更衣室のインフラ整備」が27.8%と続いた(n=54)。
アライ組織があるのは184社中10社
アライ(支援者)組織の有無について尋ねたところ、「ある」が5.4%にとどまった(n=184)。
LGBTQ+の取り組み推進の課題は「社内の関心が低い」「施策の優先度が低い」「具体的な対応方法がわからない」など
LGBTQ+への取り組みを進める上での課題について尋ねたところ、「社内の関心が低い」が51.6%で最多となり、「施策の優先度が低い」50.0%、「具体的な対応方法がわからない」46.7%と続いた(n=184)。
<具体的な課題/一部抜粋>
・アウティング防止
・トイレや更衣室の利用ルール
・自社ビルでないため共用トイレを求められても対応できない
・健康診断の際に男女の振り分けが必要なので確認しないといけないが、 社内を通さない申し込み方法を検討する必要がある
LGBTQ+対応に取り組む意義は「すべての従業員が安心して働ける環境づくり」が最多
LGBTQ+対応に取り組む意義について尋ねたところ、「すべての従業員が安心して働ける環境づくり」が69.0%で最多となり、「多様性の尊重による企業価値の向上」55.4%、「従業員エンゲージメントの向上」40.2%と続いた(n=184)。
総評
今回の調査結果から、LGBTQ+への関心や知識が一定の広がりを見せている一方で、企業としての制度設計や職場環境の整備がまだ十分とはいえない現状が浮き彫りとなった。「当事者がいると思うが把握できていない」「対応の必要性は感じているが、何から始めるべきかわからない」といった声に象徴されるように、LGBTQ+をめぐる職場の課題は、認識と行動の間にある“見えない壁”によって進展を阻まれているケースがあると考えられる。
特に、カミングアウトしづらい空気感やトイレ・更衣室の利用といった課題は、制度や設備での整備が可能な側面もある一方で、実際の使われ方や心理的なハードルは、職場文化やコミュニケーション設計に強く影響される要素だ。単に方針を掲げるだけでなく、個別対応の経験を積み重ね、相談できる風土を醸成していくことが、当事者にとっての安心感につながる。また、取り組みを対外的に表明した企業の中には、社内の意識が高まったり、社員からの相談が増えるといった変化が生まれている企業もあり、表明を契機に組織内での対話が活性化している様子がうかがえる。こうした小さな変化を一過性のものにせず、日々の業務やコミュニケーションに根付かせていく“中身のある取り組み”こそが、企業の本質的な変化を促す鍵となる。
総務部門には、制度の導入・運用にとどまらず、「何に困っているのか」「どんな配慮が必要か」を現場と共に考える伴走者としての姿勢が求められる。画一的なマニュアル対応ではなく、一人ひとりの尊厳を守る柔軟な仕組みと対話の機会を設計することこそが、LGBTQ+に限らず、あらゆる多様性を尊重する企業文化の基盤となるだろう。
【調査概要】
調査機関:自社調査
調査対象:『月刊総務』読者、「月刊総務オンライン」メルマガ登録者ほか
調査方法: Webアンケート
調査期間:2025年4月10日〜2025年4月17日
■調査結果の引用時のお願い
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例:「『月刊総務』の調査によると」「『月刊総務』調べ」など