逆境を越えて見つけた居場所と覚悟ーーアルコサイトの新境地、最新アルバム『UNTAMED』は「新しい自分たちを出せた1枚」
北林英雄(Vo.Gt)、小西隆明(Gt)、濵口亮(Ba)、森田一秀(Dr)からなる大阪在住のロックバンド・アルコサイトが、5thミニアルバム『UNTAMED』をリリースした。「自由な、抑えられない」という意味を持つ『UNTAMED』は、まさに彼らのスタンスを声高らかに示した作品。SPICEでは約3年ぶりのメンバー全員インタビューを実施。バンドにとって逆境が多かったという2024年を超えて完成した今作について、たっぷり語ってもらった。
仲間や友人の支えで、改めて考えた自分たちの歩む先
ーー前回のSPICEでのインタビューが、2022年3月の1st EP「思い出に変わるまで」の時で、その後は4thミニアルバム『仄かなる黎明に捧ぐ』(2023年2月)と1stフルアルバム『一筋縄では愛せない』(2024年4月)がリリースされましたね。
北林:前回のインタビューの時は多分コロナが落ち着き出した頃で、ライブハウスにはお客さんも行けるけど、まだ声出しができない状況で、結構抑圧された感じもあったんです。でもそこから今日までの3年で、ライブのありがたさや楽しさがわかって、「皆で一緒に歌いたいな」という想いがより一層強くなりました。
ーー2024年は仲間に助けてもらったと紙資料に書いておられましたが、メンバーや周りとの絆が深まった年でもありましたか?
北林:2024年はバンドとしても逆境が多い年で。今までは逆境に対してもなりふり構わず、人のことを考えずに一生懸命やってたんですけど、去年はそこで1回立ち止まって、色んな仲間や友達に支えられてることに、改めて気付くことができて。「自分たちはどうしたいか」を考えたのが、ちょうどアルバム制作に入るぐらいの時期だったので、「じゃあ、ライブや自分たちのスタイルにフォーカスを当ててアルバムを作ろう」という感じで、今作『UNTAMED』を作りました。
ーー方向性が決まるまで、話し合われたんですか?
濵口:ライブをしてて「楽しいな」と思う瞬間はメンバー全員同じなので、アルバムを作る時に「ライブを意識して」となれば、歩む方向は一緒というか。めっちゃ話し合って決めたというよりは、ナチュラルにチームがその方向にいけた感じはありますね。
北林:今までもずっとそういう感じでしたね。
ーー具体的にアルバムの制作が始まったのは、『一筋縄じゃ愛せない』のリリース後ですか?
北林:『一筋縄じゃ愛せない』のツアー中(『手強い愛で抱きしめる少年少女ツアー』2024年5~7月まで全国11ヶ所を廻ったツアー)からですね。ツアー中に新曲をちょこちょこ書いていて。
濵口:5月にはもう1曲できてたんちゃう?
北林:うん。やっぱりライブをやると「こういう歌を歌いたいな、こういう曲を作りたいな」というアイデアが浮かぶので。今は配信リリースもSNS投稿もあるので、新曲は自分たちの近況報告的にリアルな瞬間が書けるなという感じ。でも前回のツアー中に書いた曲は「今その時に作りたかった曲」で、そこからアルバムを作ろうとなって、その後アルバムに向けて新たに曲を書いていきました。
ーー6月にリリースされた「うちにしとけ」が1番最初にできたんですか?
北林:そうですね。それを書いて、「もっと感情をぶわーっと出せるようなロックな曲が作りたい」という感じから、今回のアルバムが始まったと思います。「うちにしとけ」「嘘をついて」「淀川バッドダンス」はツアー中に書いた曲で、それ以外の5曲が「アルバムどんなんにしようか?こんな曲入れたいな」と話し合って作った曲ですね。
やはり格別。久々の生バンドでのレコーディング
ーー曲作りは今も北林さんがデモを作って、それに肉付けする形ですか?
小西:今は2~3パターンぐらい方法があって。基本的には英雄が作ってきたデモをスタジオで弾き語ってもらって「じゃあつけていこうか」というパターンが1番多いんですけど、「秘密基地」とかは英雄から「こんなライブ感で、こんな感じの出だしのリフのインパクトが、アルコサイトの曲として欲しい」と要望があって、僕が家でばーっとデモを作って英雄に渡して「あ、ええやん」と進めるパターン。コロナぐらいから作り方が変わってそういうパターンも増えました。あとはそのスタジオ版。英雄のイメージだけ持ってきてもらって「特に何も決まってないけど、セッション的な感じでつけていこうか」で、「良いのできたから、これにメロと歌詞乗せるわ」みたいな3パターンですかね。
ーーDTMも取り入れ始めたんですよね。
小西:それもコロナ禍からですね。ライブが全然できなかったので、何か音楽でできることないかなというので、皆でDTMをやろうかと。それでDTMを勉強しだして、今の3パターンの作り方になってきました。
ーー今回、アナログでのレコーディングが久々だったそうで。
濵口:大阪で録るのは久々でした。
ーー今までは東京で?
濵口:楽器は家で弾いてオンラインで送って、ボーカルが東京で録る形でやってたんですけど、久しぶりに全員でスタジオに行って「よろしくお願いします」と言って始めるのが、もう良かったですね。
ーー宅録できる環境をそれぞれ整えておられるんですね。
濵口・小西:そうですね。
ーーやはりオンラインとは違いますか?
濵口:全然違います。家で録るのは楽なんですけど、楽なだけやな(笑)。デモを作りながら本ちゃんも録れて、スピード感をもって進んでいくので、流動的にアレンジを変えられる利点はあるんですけど、完成品を聴いた時に「やっぱりスタジオで撮ったら全然違う。良いな」という感想になりました。
ーードラムなんかは特にそうじゃないですか?
森田:そうですね。ハマ(濵口)が言ったみたいに、レコーディング当日の朝に「ここのドラムちょっと変えよう」みたいなフレキシブルな動き方ができるのはDTMの良いところやと思うんですけど、実際スタジオに入ってドラムをバーンとやった時のあの感じというのは、ちょっともう再現できないというか。今回はそれをめっちゃ強く実感しました。
ライブが自分たちの居場所。言いたいことは曲で伝える
ーー今お話いただいたように、タイトルの「『UNTAMED』=自由な、抑えられない」からもバンドの強い意思を感じますし、「Life goes on」や「秘密基地」にはライブ感があります。「Life goes on」は自分たちの意思表示で、「秘密基地」は「お客さんと一緒にこれからもいこうぜ」という意味が込められているのかなと。
北林:「秘密基地」はまさに「ザ・ライブ曲」。今まで……特に前作の『一筋縄じゃ愛せない』は、曲の中で自分以外が主人公の物語を書くことが多かったんですけど、今回はライブや自分たちの感情をぶつける場所でアルバムを作りたいとなった時に、ライブアンセムがほしいなと思って。ライブで皆と一緒に歌える曲や、拳を上げてひとつになって楽しめる曲を真っ直ぐに書いたのが「秘密基地」ですね。ライブハウスでライブしてる時が本当の自分になれる瞬間というか居場所なので、「やっぱ秘密基地やん!」みたいな感じで、1番素直に書けたと思います。
ーー「Life goes on」は中指も立てつつ、本当にわかりやすく自分たちのスタイルを宣言している楽曲ですね。
北林:「Life goes on」はツアー後のタイミングでできて、2025年1月1日にリリースしたんです。
森田:「今の俺たちはこんなんやし、今年こんな感じでやっていくで」みたいな意思表示を曲でリリースしようかって。
ーー同時に、SNSの影響力の大きさを歌詞から感じました。
北林:そうですね。それで結構心も沈んだというか。全部言い返したいけど、言い返したところで……みたいな状況もあって。自分たちの中でも別にSNSが居場所なわけじゃないし、ライブが居場所やなというのはあったし、言いたいことは曲で書こうかなと。今までだと「ムカつく、腹立つ、◯したる」みたいな曲ができたと思うんですけど、連絡をくれる友達、メンバー、事務所の人皆に支えられたり仲間を実感したので、もちろん怒りもありつつも「俺たちはこうやって生きていく」みたいな。色んなことに流されやすい時代やし、指1本で簡単に人を傷つけられるけど、俺らはそういうの別に相手しいひんし、どうでもいいし、居場所じゃない。自分たちと向き合いながらアルバムのスイッチを入れられる曲になったと思いますね。
ーー<変わらずに変わっていく>というね。
北林:この曲ができて、歌詞を書ききれた時に「俺もちょっと良い歳の重ね方してるな」と思いました(笑)。10代の頃から歌を書き続けて、その時に感じたリアルな気持ちを絶対に歌にしようとは思ってるので、恋愛の歌も書いたし。バンドを始めた18〜19歳の時は、怒りや憎しみを剥き出しで歌にすることが多かったんです。でもいざ自分たちの逆境と向き合った時に「こういう歌書けるようになったんやな、俺」みたいな。歳を取ってるというより、歳を重ねられたのかなというのはすごく嬉しかったですね。
ーーいつも歌詞は後ですか?
北林:大体1番最後ですね。サビの頭とかは仮歌で歌詞が浮かんでる時はありますけど。「うちにしとけ」もそうなんですけど、僕のルーツがヒップホップなので、「Life goes on」でもラップを入れたり言葉で遊んだり。それが今回のアルバムでできて良かったなと思います。
楽曲制作の中で変化した、楽器隊の意識
ーー楽器隊の皆さんは、今作で北林さんの歌詞のように自分のプレイが変わってきたなと感じることはありましたか?
小西:ギターに関しては、昔から難しいことをしようという意識があって。「誰にも弾けへん、俺しか弾けへんフレーズ弾くぞ!」くらいの尖り方というか表現の仕方やったんですけど、最近は「誰でも弾けてカッコ良いフレーズが1番カッコ良いんじゃないかな」という意識に変わってきて。それこそ今回のアルバムでは難しいことをしてる曲もあるんですけど、基本的には全部シンプルなリードギターをつけて、歌が1番映えるようにという意識で弾くようになりましたね。
ーーなるほど、誰でも弾けるのがカッコ良い。
北林:(小西は)ギターが上手いから、難しいことに挑戦しているんですけど、アルバムの制作前ぐらいから、方向性を決める時に「できるだけシンプルに刺せるようなフレーズで作ってほしい」と話したりはしましたね。
ーー今作には気持ち良いギターリフがたくさん入ってます。そこに憧れて弾く人がいて、ヒーローになるんですね。
小西:ありがとうございます。僕は世界的に有名なギタリストに憧れてギターを続けてきたので、僕のギターを聴いてギターを始めたり、ギターキッズが増えたら1番嬉しいです。
ーーベースとドラムはどうでしょうか。
濵口:ベースは今ほとんど隆明が考えてて。別に考えるのをやめたわけではなくて……。
小西:土台としてね。
濵口:レコーディングの時、音の重なりの関係で、別々に作るとすり合わせが難しくて。「こっちにいってほしい」というのをやるぐらいやったら、最初に隆明が考えて送ってきたものを録りつつ、今回からプリプロというか「1回弾いてみて相談」みたいな流れになって。なので、自分じゃいかへんようなフレーズにいったりするのは、面白さでもあり難しさでもある(笑)。でもそれで楽曲の雰囲気も変わったのかな。新しい風が吹いてます(笑)。
ーー「淀川バッドダンス」でも、メロディーにギターが絡みついて、その後ろでベースがすごく鳴っていますね。
濵口:特にそれがよく出てる楽曲な気はしますね。
ーードラムに関しては?
森田:「Life goes on」に関しては、基本的に骨太でロックなゆったりとしたビートがテーマだったんですけど、歌詞が決まる前に「前を向いて進んでいくニュアンスの曲」だと聞いていたので、裏テーマ的に行進曲チックなリズムを入れてみたいところが何個かあって。例えば最後のサビに入る前、一瞬ドラムだけ抜けるシーンがあるんですけど、そこは本当に行進曲を意識して、前にザクザク進んでいけるようなリズムにしました。
ーー今作は全体的に歌を聴かせる構成の曲が多いと思いますが、そこも意識されていますか?
森田:そうですね。でもバンド全体で自然とそうなっていってる節もあるかもしれんなと、俺は思いますね。
こだわりとバランスの結晶「淀川バッドダンス」
ーー今お話に出た「淀川バッドダンス」ができたキッカケは何かありましたか?
北林:これも最初の段階のツアー中にできた曲で。踊れる曲やけど、ハッピーに踊るというよりは、夜の中でお酒を飲みながらふらふらするような。川沿いの道を歩く時にフラッとなるような「踊る」を歌にしたいなと思って。俺は大阪のローカル感を曲にするのが好きで、「墓場まで持っていくわ」(2022年)にも<阪急電車>が入ってたりします。「淀川バッドダンス」は造語なんですけど、アルバムだからと縛られずに、今の感覚でパーッと書けた感じがします。
ーーこの曲では大阪のローカル感を感じますが、アルコサイトは結成からずっと大阪在住で活動されているバンドで、最近はBye-Bye-Handの方程式、the paddles、Re:name、ammoなど、同年代の大阪のバンドが力を伸ばしてきている感覚があります。大阪在住のバンドとして、今の大阪のシーンや仲間をどういうふうに見ておられますか?
北林:熱くさせてくれる仲間やなと思いますね。新しい音源を聴いててもそうですけど、シーンが盛り上がってるなとすごく思うので、その中で俺らが作りたいシーンとか、俺らが進みたい道を、自分たちですごく考えるキッカケにはなってるような気はしますね。
ーー<他の誰かとじゃもう飛べない>という歌詞に、深読みしすぎかもしれないですが、仲間のバンドとの雰囲気や、大阪で活動し続けている矜持、覚悟も感じましたが、いかがですか?
小西:うん。でも、大阪が好きなんで。住みやすいし。それこそ英雄が言ったみたいに仲間が熱くさせてくれるというか、良い影響を受けさせてもらってるなとは思うんですけど、基本的には僕ら自分たちの楽曲と向き合っていく性格やと思うんで、「うわー、あのバンドめっちゃ売れてるやん」とかは特になく。とにかく良いものを作りたいなというか、今自分たちにできる最大限に良い作品ができたら満足かなという感じですね。
北林・濵口・森田:うん。
ーーそこもブレずにこられているんですね。
濵口:そうですね。多分大阪のバンドは、みんな大阪が好きやと思う。
森田:地元って感覚があるな。
濵口:あとツアーは絶対に大阪が1番廻りやすいので。北に上がって行くよりも西に行く機会の方が僕らは多いので、大阪にいた方が全国廻りやすい。ライブバンドとしてはメリットのある立地だなと思っています。
ーーなるほど。楽曲の話に戻りまして、この曲は流れるようなサウンドやメロディーが素敵ですが、リファレンスにした曲はありましたか?
北林:レコーディングの日程が決まってて、「うちにしとけ」「嘘をついて」はパッとできて。俺らは候補のデモ曲をめっちゃ作るんですけど、その時に「もう何も浮かばへん!」となって追い詰められてできた曲なんですよ。「こんな曲作りたい」というイメージは一応あったけど、「もう何も浮かばへんけど出てきた~!」みたいなのがこの曲の原型だったので、逆に振り切ってリラックスして書けたと思います。
小西:それこそ「秘密基地」は、僕がリフから作ってそこに肉付けしていったんですけど、「淀川バッドダンス」は英雄がコード進行とある程度のメロをスタジオに持ってきた上で、英雄のイメージで「こういうリフつけてほしい」というリクエストがあったので、何パターンも送ったんですけど、そのリフがなかなか採用されなくて。
北林:確かに(笑)。
小西:これメンバーにも言ってないんですけど、僕はお酒が結構苦手で、皆はお酒が好きなんですよ。「淀川バッドダンス」はお酒のくだりが出てくるんですけど、僕お酒飲めないんですけど、あまりにもリフが採用されなさすぎて、お酒飲んでリフ作りました。
一同:はははは!(笑)。
小西:ほんまに苦手で、1缶も飲めないぐらいのレベルなんですけど、それで作って、最終的に飲んでない時のリフが採用されました。
一同:はははは!(笑)。
小西:お酒飲むの、やっぱり向いてないなと思って。飲むと気持ち悪くなるんです。
ーー何パターンくらい作られたんですか?
小西:結構テイクを重ねた気がするんですけど、あんまり覚えてないんですよ(笑)。でも最終的に良いリフができました。
ーー先ほどもチラッとお話が出ましたが、ボーカルのメロディーラインにギターが絡まって、ベースとドラムが一体になって走る感じが気持ち良いですね。
小西:ボーカルが歌ってない部分って、やっぱり楽器陣が取り合いになるというか。そこを埋めよう埋めようとしちゃうんです。リードギターもベースもめっちゃ動いてる曲なので、別々に作ったら多分「英雄のボーカルなくなったから俺が弾く」みたいな感じで、同じところでフレーズが集中すると思うんです。だから、ハマのさっきの話じゃないけど、僕がベースの土台を作って、ギターを入れた上で「ベースはここを埋めてほしい」という感じで作ったので、全部が噛み合って、ボーカルがいなくなったところにリードギターが入って、リードが伸びてるところにベースフレーズを入れて、その間にドラムが入ってくれるという、それこそ流れるようなフレーズが作れた曲だと思います。
ーー息が合わないとできないですよね。
森田:僕はこの曲、ドラムを考える時に難航したんです。ギターもベースもよく動くから、どの方向に向かっていいか、制作の初期で色々迷ったんですけど、良い意味で無機質に振り切るというか。これはDTMで作ってたからこそ活かせることだと思うんですけども、ドラムにあまり感情の色を入れない透明なドラムにしたいなと思って。そこにギターやベース、踊るようなボーカルが鳴ってきて。ドラムが無機質でやることの良さが絶対あるなと思って。最終的にそこですごくバランスが取れたなと僕は思いました。
ーー確かにドラムは控えめというか。
森田:ずっとバックビートに徹して、ちょうど良い塩梅かなと。
ーーなるほど。でも次の「風に舞う」は良いドラムフィルが入ってますよね。
森田:ありがとうございます! こだわりがいっぱい詰まってます。
歌詞とサウンドで情景を描く
ーー「風に舞う」は情景描写にこだわったそうで。その後に続く「嘘をついて」と同様に失恋ソングですね。
北林:「風に舞う」と「嘘をついて」は、自分的には世界観がちょっとリンクしてます。僕は歌詞にめっちゃこだわってて。歌詞は説明じゃないというか。例えば情景を描く時に、部屋に置いてある物の表現だけで関係や感情を表現するのがすごく好きで。だから「風に舞う」は、どっちつかずの自分の矛盾した感情を、うまく表現できたと思います。
ーー構成も面白いですね。ブレイクがあるので寂しさが際立つというか。
小西:めちゃくちゃ良いギターが入ってるんで。
北林:このギターヤバい。僕、めっちゃ好きですね。
小西:「風に舞う」は歌詞がレコーディング当日に完成したんですけど、タイトルも決まってなかったんです。「タイトル未定」で進めて、洋楽チックに作ったというか。歌詞もある程度決まってる部分はあったけど、細かい部分は知らされてなかったので、「悩んでるんやろうな」と思いながら。それこそ情景の曲なので、雰囲気を合わせにいくじゃないですけど、ギターで情景にプラスできたらな、ぐらいの感じで作りました。
ーーで、良いのがきたと。
小西:とてつもなく(笑)。英雄から「とんでもなく切なくなるようなギターフレーズを入れてほしい」と言われたんですけど、スッと降りてきたというか「もうこれしかないっしょ」ぐらいの感じで決まりましたね。
森田:ドラムは緩急を1番大事にしました。僕が録る段階で歌詞が断片的にしかできてない状態だったので、録りながらリズムを変えていったりもして。「このメロディーが入りそうと言ってるなら、こっちの方がええか」というので、録るのに1番時間をかけた曲です。
濵口:ベースはそんなに難しいことをしてないんですけど、ストロークのリズムが地味に変わってるところがあって、それがドラムと絡んでたりメロと合ってたり、シンプルだけどリズムにこだわりもある曲です。
ーーアルバムの中でも良いアクセントになってますし、ライブでも感情が入りそうですね。
北林:ツアー初日で初めて演奏したら、曲の繋ぎも含めて「めっちゃ良いな」って。
ーー歌っていてどんな気持ちになりますか?
北林:窓が開いてて夜風が吹いて、カーテンが揺れる情景の歌なので、その中に没入して、景色に一緒にいれるような気持ちになりますね。
事件が起きるようなツアーにしたい
ーー改めて、今作はアルコサイトにとってはどんな1枚になりましたか?やはり覚悟や、これからの自分たちのスタンスを示せた1枚でしょうか。
北林:そうですね。それに新しい自分たちに出会えたなとすごく思います。大阪のシーンの話でもあったんですけど、この4人で曲を作ってライブするのがすごく好きやなって、改めて再確認できた1枚だと思いました。
小西:僕的には今回新しい挑戦が多かったんですけど、今まで自分たちがやってきたこと、自分のギターを否定するわけじゃなくて、それも一緒に持ってきたというか。その中で今の自分にできる1番良いフレーズや、今自分が思ってる英雄の歌詞メロに1番合うギターフレーズが生まれた1枚かなと思うので、1番こだわった1枚です。それこそDTMで家で1人で作ってみたり、「ギターはこっちのリズムにいってるから、ドラムはこういうリズムを1回入れてみてほしい」と、ハマと森ちゃん(森田)に自分の楽器以外の話をしたり。バンド全体を見てイチ楽器として作った、全体をこだわれた納得の1枚ですね。
濵口:多分紙資料のキャッチコピーを考えたの、僕やった気がするんですけど。
ーー「熱い時代の果て、辿り着いた新境地」ですか。
濵口:そういうことです(笑)。色々経て「Life goes on」ができたり、「やっぱりライブ楽しいよね」となったら、お客さんの雰囲気も変わってきて。ずっとライブを聴きに来てくれてた人たちが、歌ったり跳んだり、ライブに参加してくれるようになったんです。それもあって、ライブで一緒に歌える曲をいっぱい入れたアルバムなので、ほんまに新境地。新しい自分たちを出せた1枚ですね。
森田:今回、レコーディングのやり方を変えたのも相まって、完成したアルバムを聴いた時「これこれ!」みたいな達成感があって。納得の1枚という感じはすごくします。
小西:俺と同じこと言ってる(笑)。
森田:(笑)。自分的にはちゃんとスタジオに入って、ドラムの音色以外でも勢いや熱量をどうやってパッケージングするかも突き詰めて録った1枚なので、そういうところでもすごく満足がいった作品です。
ーーツアーは初日の愛知が終わり、残りは東京、福岡、大阪、追加公演の大阪です。今回は小さめのハコで廻られてるんですね。
北林:今回はその感じで。今までよりもっと距離近く、もっと体感できるような、事件が起きるようなツアーにしたくて。初日の新栄RAD miniも、この会議室の何分の1やねんぐらいぎゅうぎゅうで、ステージに僕らがギリ乗るぐらい。酸素吸入器もステージに置いてやるので過酷なんですけど、感情と衝動に真っ直ぐになれるツアーを廻れてます。その熱量を持ったまま、追加公演までやりたい。OSAKA MUSEも自分たちにとってすごく大切な場所なので、売り切りたいと思ってます。
取材・文=久保田瑛理 撮影=ハヤシマコ