日本バレーボール界変革元年 小林敦GMが語る東レアローズ静岡の未来 「強いだけでは駄目。ワクワクするチームに」
日本バレーボール界は今秋、記念すべき一歩を踏み出します。世界最高のバレーボール・リーグを目指す新リーグ・SVリーグが10月11日に開幕します。昨季までのVリーグでは同時にコートに立てる外国籍選手(アジア枠除く)は1人でしたが、SVリーグでは2人まで可能となり、海外のビッグネームが続々と来日を決めています。
男子は三島市を拠点とする東レアローズ静岡を含む10チームが参戦。レギュラーシーズンは各クラブがホーム&アウェー方式で計44試合を戦い、そのうち22試合がホームゲームです。
静岡県内で世界トップレベルのバレーボールの試合が見られます。7月1日付でバレーボールクラブの運営を目的とした新会社・東レアローズ株式会社が発足。開幕に向けて準備を進めてきました。東レの主将、監督を歴任し、日本代表の主将も務めた東レアローズ静岡の小林敦GMに、日本バレーボール界の歩んできた道のりと今後の展望を語っていただきました。
(聞き手・編集局ニュースセンター 結城啓子)
小林GMインタビュー
―SVリーグ発足が現実味を帯びたのは。
「大河(正明)さん(現チェアマン)の出現によって、みんなが背中を押されたというか、今のままじゃだめなんじゃないかというのは感じましたよね。バスケットボール男子Bリーグのチェアマンを務めた方です。
実際、Bリーグは我々でも感じるくらい盛り上がっている。ベルテックス静岡さんの試合も見に行きますが、地元のみなさんを中心としたファン、ブースターがしっかりと支援して盛り上げている。それがおそらくスポーツ興行のあるべき姿なんだと思います。
勝った負けたで一喜一憂しながらもずっと応援したい、というような世界観ができて、それに合わせてアリーナのような象徴的なものができて、アリーナに人が集まる。人が集まることで町が活性化する。それによってスポーツチームがあることの価値を、地域の方が感じる。それを体現していくのが我々の使命だと思っています」
―長くバレー界に、そうした危機感はあまりなかったのでしょうか。
「バレー(日本代表)は世界の上位にいた実績があります。我々の中で、人気よりも実力の方が大事と思い込んでいた時期が長かった。
バスケットやサッカーと比べても世界のランキングはバレーの方が上で、人気よりも実力、競技力を追っている自分たちって素晴らしいというような自己弁護、満足感で納得させていたようなところがあったと思います。
なおかつ、企業スポーツ体でやっていたので稼ぐ必要がなかった。そもそも福利厚生の一貫。従業員の意識高揚とか、一体感の醸成とか、そこにフォーカスしていて、我々の活動自体が内向きだったんです。強くなるために努力します。代表を生んで、代表が頑張って五輪に出ますとか、そういう形で活動していた。
自分たちで自分たちの評価を高めていた部分があるんですけど、ちょっと逃げていた部分もあるかなと。人気は度外視とか、お客さん別に入らなくてもとか、変に強がっていたところがあった。
お客さんで一杯になった会場で試合をする方が、選手も気持ちがいいし、普段は出せないようなパフォーマンスを発揮するだろうし、さらに実力だってどんどんついてくると思う。けれども企業スポーツというチームがバレー界に多い中で、セカンドキャリアの心配がない。なので競技に集中できる、人気取りする必要がない、といったロジックにしてしまって。
競技に集中してるからこそ、バレーがそこそこの世界に通じるランキングで競技ができている、と自分自身も思い込んでいた部分がありました。でも、やる以上は人気も実力もあった方がいい、というのが当たり前です。人気にフォーカスしていったらバスケット、サッカー、野球なんかに全然かなわないじゃないか、と」
―過去はバレー人気も高かったですし、今も代表はとても人気がありますよね。
「1980年代はサッカーのJリーグもなければ、Bリーグもなければ、ライバルスポーツは野球しかなかった。その頃の人気にあぐらをかいていたんじゃないかと思います。ほかの競技がどんどん出てきて、盛り上がっているのに。バレーも日本代表は今でも人気がありますが、リーグの人気につながっていない。
実は、バレーのVリーグってそれを繰り返しているんです。ワールドカップ(W杯)はフジテレビが独占でやってくれていたし、世界バレーはTBSがゴールデンで流していてくれていました。その大会がだいたいリーグ開幕直前にあるんですね。そこで象徴的な選手が出てきて、それによってリーグがポッと盛り上がるタイミングがある。それが常に一過性のものであって熱しやすく冷めやすい。いったん盛り上がっても翌年には忘れられている、という繰り返しだったんです。
リーグの集客グラフのようなものがあるんですが、W杯があったらボンと(観客が)増えて、徐々に右肩下がりに減っていって、また(代表の試合を経て)ボンと増えて。ただ、この波が全体でどんどん右肩下がりになっているんです。(リーグで見なくても)代表で見ればいいじゃないか、という話になってしまう」
―リーグの常態的な人気につながっていかない。
「今も代表は強いけれど、未来永劫ずっと強いかどうかは分からない。スター選手が常に日本のリーグで活動しているかどうかも分からない。象徴的なスター選手がいなくても、皆さんに応援してもらえるようなチームにならないといけないと思っています。
いわゆる“箱推し”ですよね。当然、象徴的なスター選手がいるということは、ファンの方の目をチームに向ける一助にはなる。ただ属人化してしまうと、その選手がいつまでもトッププレーヤーでいるわけではないし、ほかのチームに引き抜かれる可能性もある。チームとしてのプライオリティを上げていくことの方が重要で、このチームにいるから選手を応援します、といった形でいろんな方の目を向けられないかなと思っています」
―漫画「ハイキュー!!」の人気や日本代表の活躍もありタイミングとしてはいいですね。
「抜群のタイミングです。それを足掛かりにするのはいいと思いますが、一過性の人気ではなく、常に気になっちゃう、常に応援したくなっちゃうという思考にみなさんをいざなわなければならないんです」
―それで試行錯誤を?
「広報、マーケティングの意識がすごく重要だと思っています。ファンマーケティングはもちろん、ファンでない方、にわかファンの方の心をつかむことも必要。知らない人もたくさんいるので、知らない人に認知してもらうことも大事。
とにかく、みなさんにまずは知ってもらう、興味を持ってもらう、1回来てもらう、リピーターになってもらうこと。東京ディズニーランドって99%がリピーターだと言うじゃないですか。そういうマーケティングができれば、我々の存在は意義がある」
―今季の東レアローズ静岡はどんなチームですか。
「ほかのチームに比べたら“小型”です。(新加入の)外国人選手もレチネ選手は185センチしかない。ソウザ選手は2メートルあるがオポジットというポジションでみると中型。ミドルブロッカーも2メートル超がいない。
ただ、小型なチームだからこそできるプレーのきめ細かさとか精度だったり、結束力の高さだったりで勝負する。今、世界に伍するチームになった日本代表が、高さとかパワーというものが絶対的なバレーの武器ではないということを教えてくれたと思っているんです。ブロック力をカバーするようなレシーブ力だったり、レシーブが上がった後のトスの精度だったり、一つ一つのプレーの引き出しの多さだったり、その正確性の高さだったりが、今の日本の強さだと思っています」
―それはVリーグ時代から東レが目指してきたスタイルですよね?
「そうですね。チームスローガンは『リボーン』(生まれ変わる)ですが、一貫してやってきた、プレーの精度を高めるとか、地べたを這いつくばって粘るとか、みんなで鼓舞しあいながら頑張るとか、そのへんは変わらずにやっていきたい。その上で『ワクワク夢中になれるチーム』を目指します。強くて愛されるチームですね」
―「愛される」という部分をこれまで以上に考えなければいけないのでしょうか?
「そうなんです。今、バレー教室のような地域貢献活動を去年の3倍くらいやってます。チームの認知につなげようと思って。選手たちもそういった活動に対して後ろ向きな発言は全くせず、むしろ積極的に取り組んでくれている。
ともすればその時間に練習したいという選手がいてもおかしくないと思っていましたが全くいない。むしろ積極的にやってくれている。意識が変わったんじゃないかと感じましたね。極論を言えば今までは企業チームなので、従業員のためにバレーボール教室やりますというだけで足りていましたが、今後は自治体とタッグを組んで、地域や地元、ファンの皆さんともしっかりコミュニケーションを取らないといけない。興味を持って下さっている地元のスポンサー企業さんもいるので、企業さんとのおつきあいも大切にしていかないといけない」
―ターゲットは拠点の三島市がある静岡県東部だけでなく県内全域ですか?
「そうです。中、西部にも知名度含めて、集客に結びつくような取り組みが必要です。今年は静岡市の小学校にも(バレー教室で)たくさん行っています。9月19日には浜松市とも地域活性化に関する協定を結びました。
静岡県はライバルが多いんですよね。サッカーのJリーグ・クラブが4つ。バスケットのベルテックス静岡さん、卓球の静岡ジェードさん、野球のハヤテさんなど。ただ、ライバルではありますけど、みなさんと対立するより一緒に盛り上げようと思っています」
―ホームゲームの運営が鍵になりますね。
「大型ビジョンを通じて視覚、聴覚に訴えるワクワクするような演出を考えています。初めて来た人がまた行こうという気になってくれるような。
もちろんこれまでのファンの皆さんも大切にしていきます。既に募集を中止していますが、今年はファンクラブのプレミアム会員(10万円)が去年の倍になりました。去年、シーズン終了後に「プレミアムナイト」と題してプレミアム会員の皆さんを対象にホテルで食事会を実施したんです。かなり好評でした。
大きな収入源としてはスポンサーフィー、チケット収入、グッズ、ファンクラブ収入。チームの魅力、応援者を増やしていかないとファンクラブ会員が増えないですし、グッズもそれに応じて伸びるもの。
会場にお客さんが来ないとグッズも伸びない。全てが相乗効果で盛り上がっていくものだと思っています。チームの実力(昨年リーグ3位)はあると信じていますが、強いだけでは駄目で、人気をつくっていけるチームにしたい。実力に人気が付いてくるように、自分たちの価値、ブランド力を高めること。いろんな方に評価していただいて、応援者になっていただけたらと思っています」