地元食材を生かした瞬発力があり無駄のない料理 オールデーダイニング「Sekki(節気)」
自然派ラグジュアリーを提供するレストランとは何か
「オールデイダイニング Sekki(節気)」は地下2階にあり、自然光が入る心地よい空間だ。
季節の有機野菜やとれたての魚といった素材の味が活きた料理が魅力の「オールデイダイニング Sekki(節気)」。腕を振るう宍倉宏生・総料理長はこれまでフォーシーズンズやハイアット、リッツ・カールトンといったラグジュアリーホテルで料理長などを務めてきた。「『シックスセンシズ』が提供したいサービスはいわゆるラグジュアリーホテルのそれとは異なるし、そもそもオペレーションが全く違う」という。
例えば食材の調達は「お客さまにできるだけ旬を届けるためにシェフが直接農家さんや漁師さんと綿密に連絡を取っている。通常のホテルはキッチン担当者が業者と取引をすることを禁じていることが多い。でも農家さんや漁師さんと共通言語を持っているのはシェフだし、直接話さないといい食材の調達は難しい。魚は5分10分遅れたらいい魚がなくなるでしょう? 瞬間、瞬間を大事にしながら食材を調達してメニューに反映する。シェフやオペレーションは大変だが、そこが『Sekki』の強味でもある。『シックスセンシズ』はその土地の文化を大切にしており、京都の四季や風習をコアに感じてもらいたいから」と語る。穏やかな口調が印象的だ。
宍倉宏生・総料理長。
「これまでさまざまなラグジュアリーホテルで働いてきたけれど、面白いのは冷蔵庫の中身が全く違うこと。『シックスセンシズ』は『次の3カ月間フォアグラをお願い』ということはないし、食材の回転は群を抜いて早い。魚や野菜の鮮度は段違いにいい」。「Sekki」のメニューは仕入れる食材に合わせて約2週間に1度変更し、野菜は2つの農家から週2~3回届く。「直接農家さんや漁師さんと話しながら、季節の食材を回転させることが面白い。先日も普通なら食べないイチジクやオクラの葉、大根の花をもらったので即興で料理に活用した。例えばイチジクの葉は淡白な白身魚に巻いて蒸し焼きにすることで香りを楽しむ料理になる」。
食材は京都・大原のつくだ農園や伏見の山田農園の有機野菜や、宮津港や城崎港で水揚げされる魚など半径160km圏内で調達する。「シックスセンシズ」はプラスチックフリーやごみ削減を目指しているが、調達時のパッケージは「どうしてもプラスチックが入ってくるが、突然切り替えをお願いするのは難しいのも理解している。どちらかがいいではなく、ウィンウィンになるような方法を探っている」と話す。
オリーブオイルやスパイスなど一部の調味料は輸入に頼る部分もあるが、できる限り地産地消を目指している。「温暖化の影響で採れるものが変わってきているので、生産者との連携が欠かせない。あるものでつくるしかないし、それを楽しんではいるが、有機農園からは季節野菜しか手に入らないため、どうしても必要な野菜は中央市場で仕入れるしかない」と気候変動の影響や、100%農家から仕入れることの難しさも指摘する。さらに「シックスセンシズ」で大切にしている食材の一つであるキノコは「京都から160km圏内で手に入れるのが難しい。マッシュルーム農家は見つけたが、キノコのバリエーションが足りない。自家栽培できないものか」とも思案する。
日本の食文化に根付く発酵食にも力を入れる。みそやしょうゆ麹などの調味料のほか、うめやレモンなどさまざまなフルーツの酵素シロップを自家製して提供する。調理になるべく精製糖を使わず、グルテンフリーやヴィーガンにも対応する。
有機農法を隣接する土地で行い生物多様性を保全
隣接する豊国神社の使われていなかった土地を借りて、無農薬栽培で山椒やローズマリー、レモンペッパーやラベンダーといったハーブ類や、九条ネギや伏見とうがらし、万願寺とうがらしやキュウリ、大葉を育てている。収穫後は「Sekki」や「Café Sekki (カフェ節気) 」のほか、提供するアクティビティやワークショップで活用している。「実はもっといろいろ育てたいと思っている。先日訪れたベトナムのニン・ヴァン・ベイは、農園だけではなくオイスターマッシュルームを育てているし、鶏も飼っているので毎朝新鮮な卵を調達できる。発電もしていて自給自足にかなり近い。都市型では難しいことも多いが、さまざまなことにチャレンジしてみたい」。
畑の横に設置したコンポスト施設。
調理は廃棄ゼロを目指している。食材の根や茎を使うほか、野菜ジュースの搾りかすやエビの殻、ヨーグルトをつくる際に出るホエイも料理に活用する。例えばランチの惣菜のクラッカーは搾りかすを伸ばして乾燥させたもので、香ばしく味わい深い。夜提供するパンにも搾りかすを活用する。いずれも人気メニューになっている。
ホエイは、ランチで提供する前菜に活用。自家農園のレモングラスとぬか漬けにした桃、甘えびを合わせ、風味付けの海老のオイルは甘えびの殻を活用した。
食材廃棄ゼロを目指す一環として、社食はキッチンが提供する。「三食、トータルで120~130食をつくる。フォンドボーをつくった後の肉をカレーにしたり、無駄なく循環させることでフードロスをなくしている」。社食は無料で、食事の場がスタッフ同士の交流の場にもなっている。「スタッフが料理にコメントしてくれるのも楽しい」という。
野菜は可食部が多く廃棄部分はほぼないが、廃棄する場合はコンポストする。一方、フルーツは非可食部が4割ほどあるという。「乾燥させて農家に戻して肥料として活用してもらっている」。
ラグジュアリーと廃棄ゼロは親和性が低いようにも感じられるが、宍倉総料理長は「その通りだと思う。5年後10年後を見越してできる限り廃棄ゼロを目指すために地域の人々とつながって挑戦することを重視している。最近ではコーヒーかすを肥料として活用ために京都市内で取り組む人に会ったり、生ごみをよく食べるシマミミズを育てている人に会ったりしている。シマミミズの糞は発酵も促進する。流通には載せられない京野菜の規格外品を野菜チップスにしている人とも会った。こうした取り組みをホテルで生かせないかを考えている」と話す。ラグジュアリーホテルの総料理長の仕事として非常にユニークだ。
こうした一見するとホテル経営には関係がないようなアクションの積み重ねが「シックスセンシズ」の価値を高め、世界中で評価されるようになっている。地球環境に配慮しながら地域とのつながりを重視し、限りある食材を無駄にしないことが豊かさにつながるという彼らの思想や取り組みはヒントになることが多い。
撮影/細倉真弓 取材・執筆/廣田悠子 編集/後藤未央(ELEMINIST編集部)