映画『十一人の賊軍』―名もなき罪人たちはなぜ命を賭したか! 戊辰戦争の史実を下に描かれた壮大なる時代劇エンターテインメント
大政奉還の翌年、明治元年(1868年)。江戸幕府第15代将軍徳川慶喜は政権を朝廷に返上したものの、旧幕府軍(賊軍)と薩摩・長州藩を中心とした新政府軍(官軍)の間で勃発した武力衝突、いわゆる鳥羽伏見の戦いを皮切りに内戦は拡大する。この戦いに勝利した官軍は長岡藩へ進軍、北越戦争にも勝利し箱館戦争の終結まで約一年の内乱は、戊辰戦争として歴史に刻まれている。そんな中、旧幕府軍にくみする奥羽越列藩同盟軍を裏切ったとされる新発田藩。官軍の進攻に対して捕らえていた10人の罪人に砦を守らせる、という奇略をめぐらしたのは、幼少の藩主を支える家老、溝口内匠(阿部サダヲ)。
下命を受けたのは、侍殺しの罪で捕まった駕籠かき人足の政(まさ=山田孝之)、共に戦うのは、あらゆる悪事を犯した10人の罪人たちだ。武士を騙して大金を巻き上げたイカサマ師(赤丹=尾上右近)、男を恨んで火をつけた新発田の女郎(なつ=鞘師里保)、ノロと綽名されている知的障害の少年の罪状は脱獄幇助(佐久本宝)、女犯数多で死罪が決まっている坊主(引導=千原せいじ)、おろしや(ロシア)への密航を企てた医師の倅(おろしや=岡山天音)、一家心中で死に損なった貧乏な百姓(三途=松浦祐也)、侍の女房と禁忌を犯して死罪となる新発田の二枚目(一ノ瀬颯)、新発田の村人無差別殺害の大悪党(辻斬り=小柳亮太)、長州出身ながら新発田で地主を殺害した剣術家(爺っつぁん=本山力)総計10人の悪党罪人、加えて同盟軍にありながら官軍と戦おうとしない藩に苛立つ鷲尾兵士郎(仲野太賀)、家老より砦の護衛作戦を命じられる。勝てば無罪放免、負ければ死が待っている都合11人の賊軍。果たして、彼らは生きて帰ることができるのか――。日本の命運を左右した内戦・戊辰戦争の真っただ中で繰り広げられるリアリティ溢れるアクションシーンが演出される。これは壮大な時代劇エンターテインメントではある。
かつて東映の誇ってきた集団抗争劇ともいえる本作は、映画『日本侠客伝』、『仁義なき戦い』、『総長賭博』等々を手がけた名脚本家・笠原和夫(02年没)が遺した幻の物語であった。60年以上前に書き下ろされ眠っていた脚本が、『孤狼の血』シリーズの監督・白石和彌の手によって新たな時代劇として世に問うことになった。白石作品のアグレッシブさは本作でもとことん描かれているが、笠原が書き上げた脚本では全員討ち死にという終わり方に疑問を呈され、お蔵入りとなったと聞く。
白石和彌監督は言う。
「この映画の主人公たちは名もなき罪人たち。声なき人たちの声をすくい上げるという視点も、この映画のテーマの一つです。……本作の企画が立ち上がった頃にロシア・ククライナ戦争が始まり、撮影の前後にイスラエルがパレスチナのガザ地区を攻撃、ガザ地区をまっさらにしようとしているんじゃないかと思うほどの虐殺をニュースで目にしました。戦争によって罪のない人々が犠牲になる――いま世界で起きていることと、この映画で描かれていることが重なったこともあり、(中略)鎖国の時代が終わり、侍の時代か終わり、日本が変わろうとしている時代に、誰が生き残って、その先の未来を見ていくのか。いまの時代につくる時代劇だからこそ、生き残る、弱き者が生き残って力強く生きていく、そんなメッセージを込めたかった」と。
『十一人の賊軍』
2024年11月1日(金)全国公開
出演:山田孝之 仲野太賀
尾上右近 鞘師里保 佐久本宝 千原せいじ 岡山天音 松浦祐也 一ノ瀬颯 小柳亮太 本山力
野村周平 田中俊介 松尾論 音尾琢真 / 柴崎楓雅 佐藤五郎 吉沢悠 / 駿河太郎 松角洋平
浅香航大 佐野和真 安藤ヒロキオ 佐野岳 ナダル / 木竜麻生 長井恵里 西田尚美
玉木宏 / 阿部サダヲ
監督:白石和彌 原案:笠原和夫
脚本:池上純哉 音楽:松隈ケンタ
©2024「十一人の賊軍」製作委員会
配給:東映
公式 HP https://11 zokugun.com/