介護予防は筋力向上だけじゃない!~自信を持った老後生活を送るために~
「人生100年時代」といわれる日本が抱える課題
執筆者/専門家
羽吹 さゆり
https://mynavi-kaigo.jp/media/users/7
最近では、「人生100年時代」という言葉をあちらこちらで耳にするようになりましたね。
老人福祉法が施行された1963年時には100歳の方は日本全国で153人でしたが、2023年には92139人と約600倍の人数になっています。※1
さらに、2023年の平均寿命は男性が81.09歳、女性が87.14歳であり、現在の日本は世界一の超高齢社会かつ長命社会と言えます。※2
※1出典:厚生労働省百歳高齢者表彰の対象者は47107人
※2出典:厚生労働省令和5年簡易生命表の概況
高齢化は止まらないのに、介護サービスの提供がこのままだと危ない
一方で、2024年の介護保険の改正で介護保険サービス事業者の介護報酬が下がったことや、介護職員の人材不足などが原因で、今年の6月には、事業所の倒産数が過去最大を記録しました。
今後、今まで以上に介護保険サービスを利用する方々が増えることも予測できますが、実際には介護サービスを利用するということが厳しくなるかもしれません。
また、政府が2022年7月29日の経済財政諮問会議において、介護を予防するための「介護予防」に力を入れていく方針を明確にしたことからも、地域包括ケアシステムを構築させつつ、いかに「介護」を遠ざけられるように暮らしていけるのかが、これからの高齢者には求められていくのではないでしょうか。
注目される介護保険外サービスや介護予防サービス
そのような中で年々増加しているのが、民間会社の介護保険外サービスや介護予防サービスです。
現在の介護保険サービスでは、介護保険法によって定められたご利用者ごとの厳格な利用基準があります。そのため、介護予防に関連するサービスの中には介護保険が適応されないものも多くあるのです。
また、介護予防サービスにおける「リハビリ」や「フレイル予防」といえば筋トレのような運動のイメージを抱く方が多いと思います。現に、民間のスポーツジムと高齢者施設の連携がメディアに取り上げられているのを見たことがある方もいるかもしれませんね。
筋力低下の予防は、介護予防の代名詞のようなものと言われていますが、実際には、その一歩手前の「心を動かすこと=モチベーションを高めていくこと」から介入することが大切です。
高齢になり失った自信を取り戻すためにも「介護予防」を取り入れましょう
元気なころはご自身で身支度をされ、お洒落を楽しんでいた方が、「こんな高齢になったら、何をしたって仕方ない」と、歳を重ねたことで諦めて、様々な自分らしさを失っていくのを私は多く目の当たりにしました。
また、このように自信を失っていることは、当然、筋力強化など身体を動かす介護予防を続けていくうえでも、大きな障壁となり得ます。
高齢になり、諦めた自分の「もう一度」を叶えていく方法はなんでしょうか。
それには、まず加齢に伴い諦めていく「自分の姿」に改めて向き合い、整えていくことではないでしょうか。そして、我々はそのきっかけを作って差し上げることができるはずです。
以下では、そのきっかけ作りの例として、以下の3つをご紹介します。
1.フットケアを兼ねた爪ケア
2.高齢者のフェイシャルエステ
3.シニアネイル
1.フットケアを兼ねた爪ケア
介護予防サービスの中でも「フットケアを兼ねた爪ケア」にはたくさんの需要があると感じます。高齢になると、屈むことが難しくなったり、目がよく見えなくなったりすることで、足の爪ケアが十分にできなくなります。
そのことによる代表的な爪のトラブルが、足の爪が分厚くなる「肥厚爪」です。加齢と共に、爪は水分を奪われて乾燥し、弾力性を失い、縮み、厚く硬くなっていきますが、加齢のほかにも直接的な原因として以下のようなものが考えられます。
・入浴時にきれいに洗えていない
・爪切りの回数が少ない
・靴が自分の足にあっていない
・深爪の習慣
■入浴時にきれいに洗えていない ・爪切りの回数が少ない
入浴時に爪と皮膚の間をきれいに洗えていない、もしくは爪を切る回数が少なく伸びきっているという場合は、爪と皮膚の間に角質が溜まりやすくなります。
その影響で、水虫が発生し、水疱や皮膚が詰まって爪の周囲が厚くなってしまうことがあります。
■靴が自分の足にあっていない
自分の足に合っていない靴を履き続けると、靴の圧迫により爪が伸びにくくなり、その分厚く硬くなってしまいます。
■深爪の習慣
深く爪を切る習慣がある方は、指先のやわらかい部分(肉)が地面から圧力を受けやすくなります。
その結果、皮膚が徐々に盛り上がり、爪の成長が妨害されて爪の下に新たな爪が生まれ、層状に爪が厚くなってしまうことがあります。
—爪のケアは、身体を支えるための足のケアに繋がる
これらのような原因から爪が厚くなると、自分で爪を切ることがより大変になります。また、皮膚科へ相談に行くと、処置はされず、爪切りの指導のみがされるという話も耳にします。そのような循環の悪さによって、余計に爪が厚くなり、靴がさらに合わなくなり、中には、外出する機会が減ってきたという方も少なくありません。
また、合わない靴で外出した結果、転倒して骨折する方もいます。足の爪は体を支える基底面積の足底部分も担っているのです。これらを理解できると、ただの爪切りではなく「身体を支えるための足のケア」につながっていきます。
2.高齢者のフェイシャルエステ
—たるみ改善は眼瞼下垂の予防効果も期待できる
高齢者のフェイシャルエステも介護予防として効果があるのではないかと思います。
エステのマッサージ効果は手技によって違ってくると思われますが、加齢に伴い、上瞼を上げる筋肉の力が低下し瞼が重く感じ、上瞼が下がってくるなどの症状の眼瞼下垂で悩まれる方がいます。ひどい方は目が開かない状況になり形成外科等で手術を受ける方もいます。
若い方が若いうちから、アンチエイジングのためにフェイシャルエステへ通い、顔のたるみ等を予防するのであれば、高齢者がフェイシャルエステを行うのは若い方より、本来ならニーズがあっても良いものではないかと思うところです。
ー口周りのマッサージは口腔ケアや誤嚥防止の効果が期待できる
さらに、加齢によって唾液腺が萎縮したり筋肉が衰えたりすることで、唾液の量が減少してしまい誤嚥を引き起こす原因となっている方もいます。
高齢者のフェイシャルエステでは、誤嚥防止を期待できる方法として、唾液腺マッサージを行う場合もあります。こちらは、口の中に複数ある唾液腺を刺激することで唾液の分泌を促し誤嚥予防効果を発揮します。誤嚥予防のみならず、口腔内の自浄作用や乾燥の予防効果も期待ができるのです。
3.シニアネイル
ーポジティブな気持ちの創出は社会参加の促進になる
最後に、高齢者のシニアネイルについてです。
手の爪は足の爪と同様、加齢と共に乾燥していきますが、手の爪は圧迫されることがないため、肥厚爪にはなりません。ネイルをすることは身体機能面の介護予防に直接はつながりませんが、ネイルはカラフルな色使いが直接目に飛び込んできます。
それ故に、高齢者自身の気持ちや感情に、直接働きかけてくれます。「綺麗」「可愛い」「美しい」など非常にポジティブな感情が湧き、幸福感を感じ「自分のご機嫌を取る」役割を果たしてくれます。
但しネイルを爪に直接塗りますので、乾燥しやすい高齢者には商材等で配慮が必要です。
気持ちの面で自然とポジティブな感情が湧いてくることが期待できるシニアネイルは、外出等の機会を作り社会参加に促していければ、最終的に介護予防へと繋がります。
最後に:介護予防は継続することが大切です!
「介護予防」を特別なトレーニングをするようなイメージで行うと、楽しくなかったりして、長続きできない場合も多いようです。結局やめてしまったということになれば、元も子もありません。そのため、やり続けることができるようなものを探していくことも必要です。
ただし、爪ケアやフェイシャルエステやシニアネイル等を通じて、介護予防の視点で効果をしっかり発揮するためには、高齢者の身体や、病気、医療的な分野も十分に学ぶ必要があります。実施する際は、高齢者の身体に直接触れるため、リスクがあるものとしてしっかり勉強をしましょう。
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