奇才・濱田禎二の考えるナチュラルなルアーとは?リアルを超えるためにあえて“非リアル”を混ぜるルアーデザイン術
ルアーにおける「ナチュラル」とは何か?「ゾーイ」をはじめとしたリアル系ルアーでヒットを飛ばすT.H.タックルの濱田禎二さん。彼のルアーデザインにおける「紆余曲折」と、今なお追い求める「さらなるナチュラルへの挑戦」を覗いてみよう。
写真と文◎編集部
「ナチュラル」なルアーを追い求める濱田禎二
幼少期より釣りに親しんだ濱田少年の初バスは津久井湖。小もの釣りをしていると、練りエサでブラックバスが釣れた。
ルアーフィッシングに開眼したのは、年上のアングラーが投げていたオレンジのジョイントラパラを見たとき。水面をうねうねと泳ぐラパラに強く心惹かれた。
高校では釣りから離れたが、大学では林圭一さんや小野俊郎さんらを輩出した名門「チャートリュース」がある日本大学へ進学。活動のメインがバストーナメントであり、部員のスキルも高く、ここでバスフィッシングに一気にのめり込む。実はそれより前から、泉和摩さんによるハンドメイドルアーの本を読み、見様見真似でミノーを作ったりもしていた。
名作「ハマクル」で全国区へ
卒業後はダイワ精工(現グローブライド)に入社したが、妻の実家の釣具屋を継ぐために数年で退社。その後、加藤誠司さんと小野俊郎さんに声をかけられ、ジャッカルのスタッフとしてルアー開発を一部任されることに。そうして生まれたのが、名作「ハマクル」。
ハマクル(ジャッカル):濱田さんがイチから手がけ、初めて製品化したルアー。多連結のなまめかしい動きが特徴。従来のむき出しのヒートン同士のジョイントではなく、連結部が見えない構造だった
多連結構造で水面をヘビのように身をくねらせながら泳ぐさまは、まさにナチュラルそのものだった。
濱田「当時はバスバブルでして、釣りとは何の関係もない会社が業界に次々と参入してきてたんです。実はハマクルも新規参入の会社が立ち上げたルアー部門で発売するために作ったルアーなんですけど、製品化する前にその会社が急に業界から手を引いちゃいまして(苦笑)。行き場を失ったハマクルでしたが、ジャッカルさんに『ウチから出そうか?』と声をかけてもらって、無事日の目を見ることができました。初めて自分で手掛けたルアーがハマクルのようなジョイントタイプだったのは、すでにあるほかのルアーと差別化をしたかったから。それに、そのころはまだデキのいいジョイントルアーってほとんど世になかったんですよ。もしかしたら、子どものころに見たジョイントラパラの鮮烈な印象が脳裏にあったのかもしれません」
その後、フラットボーンクリッカーやマイキーなど、ジョイント系でヒットを連発。濱田禎二の名は一気に全国区になった。
フラットボーンクリッカー(ジャッカル):首振りやただ巻きはもちろん、デッドスティッキングでもよく釣れた名作ジョイントビッグベイト。近年、後継となる「ブラストボーン」が誕生
ウレタン樹脂へ活路を見出す
その後、濱田さんは勝負に出る。家業の釣具店を畳み、「T.H.タックル」の屋号でオリジナルルアーの制作をスタートしたのだ。処女作はジョイント構造のグライドベイト「セナー」。しかし、売れ行きは芳しくなかったうえ、切実な問題があった。
濱田「製作のコストですね。組み立てやパッケージングなどはすべて奥さんとやっていたのでいいとして、金型代がすごくかかる。ルアーを作っても、売れたらやっと金型代がペイできるような状態。
これはしんどいぞとなり、別の方法を模索する必要がありました」
そこで、濱田さんが目を付けたのがウレタン樹脂によるルアー製作だった。プラスチックのインジェクションと違い、金型ではなくシリコン型を用いるため金型代が大幅に節約でき、なにより「実際の魚からそのまま型が取れる」というメリットがあった。
濱田「フォルムを実際のエサそのものにできるというのはもちろん、鱗なんかの細かいディティールまで再現できるのがウレタン樹脂の強みです。こういった複雑な形状は、設計図をもとにしかデザインができないCADでのルアー製作では真似ができません。また、空気室を設けるためにボディーを厚めに……という機能上の制約からも解放されるため、実際のギルのように薄いボディーにできるんです。このシルエットの違いは、バスにルアーを食わせるうえで大きな差になると考えています」
ジョイントによるナチュラルの限界
濱田さんは子供と近所の野池で釣ったブルーギルから、サイズやフォルムがよい個体を厳選。それを型にとり、出来上がったルアーが多連結系のギル型ビッグベイト「ギルギル」だった。ジョイントルアーで一時代を築いた濱田さんらしいルアーだが……次第にその限界も見えてきた。
濱田「ジョイントルアーは、たしかにパッと見では魚みたいになまめかしく、ナチュラルに泳いでくれます。しかし、実際の魚の背骨はもっと細かく、途方もない数の関節(ジョイント)でできている。であるかぎり、ジョイント構造で表現できるナチュラルには限界があるんです。ルアーは、見た目のうえでは限りなくリアルに作ることは可能です。しかし、動きまで実際のベイトに似せるのは無理がある」
あえて動かさない「ゾーイ」が誕生
ならばどうするか。濱田さんが出した答えはこうだった。
「見た目はホンモノでもアクションさせるとニセモノだとバレてしまう。ならいっそ、動かさなければいい」そうして生まれたのが「ゾーイ」だ。ギルギルと同じく実際のブルーギルから型取ったルアーではあるが、こちらは放置&I字引きが基本。テール部のスカートや両サイドのフェザーフックも、パラシュートやスタビライザーのような効果でボディーが動きすぎるのを防ぐためのものだ。
濱田「見た目のリアルさの重要性を確信できる出来事もありました。いつかリザーバーで釣りをしているとき、ゾーイがオイルフェンスに根掛かりしてしまった。それを取りに行こうとボートを寄せている途中に、バスがゾーイにバイトしたんですよ。全く動いていないルアーなわけですから、リアルでないとただのゴミにしか映らないはず。それでも食われたということは、見た目さえリアルであれば全くアクションしなくてもバイトは引き出せるということです。
そして、ウレタン樹脂はこの『動かない』というアクションとも相性がいいんですよ。プラスチックのように『空気室+ウエイト』で比重を調整するルアーは、重心が1ヵ所に集中することによって、そこを支点にボディーが動きやすくなってしまうんですね。クランクベイトであればそれがキビキビした動きに繋がるわけですが、ボディー全体を均一な比重にできる樹脂なら、その逆のことが起きる。つまり、ボディーが動きづらくなるんです。比重の重いシダーウッドのクランクがキビキビではなくヌメヌメ泳ぐのと同じですね」
ゾーイ(T.H.タックル):本物のブルーギルから型を取ったリアル系ビッグベイト。ゆっくりとしたただ巻きでも驚くべき集魚力を発揮。藤田京弥さんや梶原智寛さんらトッププロも愛用している。フェザーフック、ブレード、スカートなどのパーツにはすべてに意図があり、「リアル+余計に動かない+わずかなアピール」という濱田式ナチュラルの方程式を満たしたルアー
リアルを超える“もう一工夫”
見た目は徹底的にリアルに。反面、アクションには余計な動きを入れない……。しかし、ここで満足することなく、もうひとスパイスを加えるところが濱田さんの真骨頂だ。たとえば、ゾーイにセットされた小さい金属ブレード。
濱田「リアルな見た目に、動かないボディー。これだけでもバスの反応は良かったんですが、放置とかI字って、バスにバイトのキッカケは与えづらいんですよね。だから、ほんの一部だけ、バスに訴えかける要素を足したかったんです。リアルなマネキンの全身が動いたらニセモノだとすぐにわかるけど、指だけが少し動いたら生きていると錯覚しませんか?そんなイメージです。なので、あくまでブレードのサイズは極小さく、ボディーのアクションにも影響を与えない大きさにしました。
結果として、スカートやフェザーフック、ブレードなど、エサっぽさからは程遠いパーツを付けたほうが釣れるルアーになったということも大きな発見でした。つまり、究極のナチュラルのためにはリアルな見た目も重要だけど、それだけでは足りないということです」
藤田京弥さんもかなりのゾーイ・フリーク。ボートデッキにゾーイを結んだタックルを常備している(写真は2021年の芦ノ湖)
ゾーイで得た知見を元に作られたのが、玄人の間でもシークレット的に使われている表層系ルアー「ボブルヘッド」だ。サイズごとに西湖と相模湖のワカサギからそれぞれ型取り。極めてリアルな表層を漂うワカサギを模しつつ、ヘッド付近にわずかに稼働するジョイントを持ってくることで、「静」のなかのわずかな「動」を表現。ジョイント部の内側は赤く塗り出血したエラを模すこだわりぶりだ。
ボブルヘッド(T.H.タックル):ワカサギから型を取ったリアル表層系ルアー。基本は水面放置で使用。エラの位置にジョイントを設けることで、ステイ中にもわずかにアクションしてアピール。ジョイント部はエラのように赤く塗る手の込み方!
トレブルフックを用いない画期的なハードルアー
「なまめかしいジョイントアクション」に始まり、「リアルでほとんど動かさない」という形に至った濱田さんのナチュラル論。しかし近年、濱田さんはまた新たなナチュラルを模索している。それが、トレブルフックを用いないハードルアーの開発である。
濱田「見た目のリアルを追求すると、最終、どうしてもトレブルフックの存在がネックになる。ほかにもトレブルフックを避けたい理由があります。それは、軽量な表層系ルアーなどでは、背負えるフックのサイズに限界があること。デカいバスが来たときに、フックが華奢では伸ばされてしまう。そういう意味でもシングルフックで使えるハードルアーがほしかった。もちろん、ワーム禁止の芦ノ湖、河口湖、西湖などで使用できるというメリットもあります」
マスバリ&シングルフックの仕様を前提に生まれたのが「MFブライス」と「ジャケットミノー」だ。
前者はマスバリを通し刺しして表層で、後者はジグヘッドをセットしてミドストで使用する。
MFブライス(T.H.タックル):マスバリを通し刺しして使用できる表層系ルアー。トレブルフックを排除することで見た目のリアルさを極限まで高めるだけでなく、大型のバスにフックを伸ばされる心配もない。トレブルフックのルアーに比べてバスが警戒しないのか、バイトが深くなる傾向があるという
濱田「〝奇才〞なんて言われることもありますけど、自分としては奇をてらったものを作ろうという意識はないんですよね。純粋にどうすれば釣れるルアーができるのかを考えて、試行錯誤した結果として他にはないようなルアーが出来上がっているだけなんです」
ジャケットミノー(T.H.タックル):ジグヘッドを装着してミドストで使用できるハードルアー。こちらもトレブルフックを排除することで見た目の違和感をなくすことができるほか、そもそもトレブルフックがぶら下がっていては実現できなかったロールアクションが可能になっている
※このページは『Basser 2025年7月号』を再編集したものです。