子どもと外で遊びたくない先生が、子どもを笑顔にした方法
スタジオパーソル編集部が、世に発信されているさまざまな個人のはたらき方ストーリーの中から、気になる記事をピックアップ。今回は、周りと違うはたらき方を選んだ先生の話をご紹介します。
小学校の先生としてはたらく碧魚まりさんは、昼休みに子どもと外で遊ぶのが好きではなく、どうすればいいか悩んでいたそうです。それでも「若いうちは子どもと遊んだほうがいい」と言われて続けていましたが、ある日思わぬトラブルが起き、思い切った決断をします。その決断により子どもたちとの関係やはたらき方がどう変わったか、noteに投稿しました。
※本記事の引用部分は、ご本人承諾のもと、投稿記事「子どもと外で遊ぶのをやめたら。」から抜粋したものです。
昼休みに子どもと外で遊びたくない先生
新卒で小学校の先生になった碧魚まりさんは、あることに悩んでいました。それは、昼休みに子どもと外で遊ばなければならないことです。
義務ではなかったものの、先輩の先生から「若いうちは子どもと遊んで関係性を作った方がいいよ」と何度も言われ、半ば強制的に外で鬼ごっこをしていました。もともと走ることが好きではない碧魚まりさんは、子どもたちとの鬼ごっこが嫌で仕方なかったと言います。
子どもたちの「楽しかった~!」という笑顔を見るのはうれしい。しかし食後の昼休みに太陽の下、走り続けなければならないということがただただ、しんどいのだ。そしてしんどいのは体力的なものだけではなかった。ああ、20分の昼休みでさっき集めた国語ノートチェックが、出来たのにな。さっきのテストの採点、放課後かなあ。20分という短くとも貴重な時間を外に出ることに費やすことで、放課後の仕事量の負担が頭をかすめてしまう。
「子どもと外で遊ぶのをやめたら。」より
また、もう1つ引っかかることがありました。せっかく外で遊んでも、その後に子どものトラブルや問題行動があると「折角、遊んであげたのに」と不満を感じてしまうことです。
一緒に遊んだからと言って、すぐに心の安定や信頼関係構築につながるものではないとわかっていても、そんな思いが生まれてしまう自分も嫌だったと言います。
子どもとの外遊びは、そんな風に思っていてもしなきゃいけない若手の先生の義務なのか。そこまでして、子どもとの外遊びは大切なものなんだろうか。
「子どもと外で遊ぶのをやめたら。」より
そんなモヤモヤが膨らんでいたある日、ある出来事が起こりました。いつものように子どもたちとの鬼ごっこを終え、道徳の授業で子どもたちに問いを投げかけようとした瞬間、目の前がちかちかと白くなったのです。
「立ちくらみだ」と気づいたものの、しゃがみ込んだら子どもたちがびっくりするだろうと思い、教卓に手をついてやり過ごします。
深呼吸しているうちに立ちくらみは収まりましたが、せっかく前日の夜遅くまで準備して臨んだ道徳の授業は散々でした。
昼休み、思いっきり走らなかったらこんな風に立ちくらみを起こさなかったはず…。年間、道徳の時間は35回あるとはいえ、この教材で子どもたちが学べるのは、今日このたった1回。わたしが原因でつまらない授業にしてしまったことが、すごくすごく悔しかった。
「子どもと外で遊ぶのをやめたら。」より
深く後悔した碧魚まりさんは、子どもたちと外で遊ばなくては、彼らの人間関係が掴めないのか?子どもたちと外で遊ばなくては、彼らとの信頼関係を結べないのか?と自問します。
考えた末に出した答えはNOでした。昼休みに子どもたちと外遊びをしなくても、自分なりのやり方で信頼関係はつくれるはず、と考えたのです。
それから、特別なときは除いて、昼休みの外遊びには参加しなくなりました。
選ぶ勇気も、選ばない勇気も大事
自分で決めたこととはいえ、しばらくはほかの先生が外遊びをしている様子を見て後ろめたく感じたり、「なんで碧魚先生は、昼休みに外で子どもたちと遊んであげないんだろう」と思われているのではないか、と引け目を感じたりしていたそうです。
その一方で、新しく2つのことをするようになりました。
まず一つ目。一緒に遊んでいなくても、子どもたちは今誰と仲が良いのか、どんな遊び方をしているのか、把握しようと努めること。
「子どもと外で遊ぶのをやめたら。」より
窓から様子を見て「お〜○○めちゃくちゃ足速いな〜」「うわ!○○転けた!大丈夫かなあ」と実況中継したり、教室に戻ってきた子どもたちに「○○、増え鬼で最後まで残ってて、すごかったなー!」と声をかけたりすると、子どもたちは「え、なんで知ってんの〜?」とうれしそうな表情を浮かべます。
さらに戻ってきた子どもたちの顔を注意深く観察することで、トラブルやケンカが起きていないかを確認し、何かあれば子どもたち自身に対策を考えさせました。
そして二つ目。一緒に身体を動かしてのコミュニケーションができないなら、わたしはわたしなりの強みを活かすこと。楽しんで学びに向かえる子が、増えて欲しい。そう考え、授業の中での子どもたちのやり取りを増やした。
「子どもと外で遊ぶのをやめたら。」より
外で遊ばなくなった昼休みは、子どもたちのノートをじっくりチェックして、細かなフィードバックをする時間になりました。「しっかり考えられているね」「そんなことにまで気づけるなんてすごい!」といったコメントを書いたり、その子が好きなキャラクターのハンコを押したり、手描きのイラストを添えたり……。
教室に戻ってきた子どもたちは、そのノートを開くなり「うわ、炭治郎おる!」「いえーい!スペシャル判子、ゲット!」と喜んでいました。
これらの小さく密なコミュニケーションは、外で遊んでいたらできなかったことです。また、ノートのチェックやフィードバックは好きなことだったので、鬼ごっこと違って苦になりませんでした。
最初は周りの先生と違う選択に「これでよかったのか」と悩んだものの、意外にも周りの先生からは何も言われず、子どもたちは笑顔になり、はたらきやすくなりました。そして「自分が先生として大事にしたいことは何なのか」という大事な根本を見つめ直し、“選ばない勇気”を持つきっかけになったそうです。
人生は選択の連続で、何かを選べば何かを選ばないことになります。人と違う選択肢を選ぶとなると、当たり前の選択肢を選ばないことへの勇気がいりますが、自分自身の工夫と行動でどの選択も正解にできるはず。碧魚まりさんの「昼休みに外で遊ばない」選択は、そんな新しい可能性に気づかせてくれます。
<ご紹介した記事>子どもと外で遊ぶのをやめたら。【プロフィール】碧魚 まり小学校の先生。食べることと読書と喫茶店が好き。子どもたちのこと、食べもののことなど気ままなエッセイを綴ります。子どもたちの瞳がきらきらする瞬間を引き出すために奮闘中。 note公式コンテスト受賞#わたしだけかもしれないレア体験 #どこでも住めるとしたら