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コロナ禍から急回復のインバウンド。ただ、私たちは観光戦略に内在する葛藤や矛盾に思いを致さなければなりません。

アットエス

「今だけ、ここだけ、あなただけ」。地方都市が訪日外国人旅行者(インバウンド)を呼び込むキーワードだそうです。通勤途中に聞いたカーラジオの情報番組で識者が語っていました。コロナ禍を脱し、円安もあって訪日観光が急回復。中でも地方での観光体験を求める外国人は着実に増えているそうです。訪問先として選択してもらえるか否かは、いま、そこでしか体験できない独自サービスを提供できるかどうかにかかっているというわけです。

新明解国語辞典(三省堂)によると、観光は「日常の生活から離れて、ふだん接する機会の無い土地の風景や名所などを見物すること」とあります。体験型観光が活発化する中、語釈の「見物すること」はちょっと物足りない印象ですが、「今だけ、ここだけ、あなただけ」のサービスは普段は味わえない観光ならではの心地よさを満喫してもらうおもてなしにほかなりません。だからこそ、地方の観光振興策は葛藤と言いますか、矛盾と言うべきでしょうか、避けられない難題を抱えることになります。

「日常」と「非日常」

みなさんは満足感が高かった観光を振り返るとき何をイメージしますか。ならではの食、文化や風習、歴史的建造物を訪ね歩いたこと、あるいは絶景でしょうか。辞典にあるように「非日常」は観光の原点ですが、観光客が体感することができる非日常の多くは、そこで生活生業を営む人々の暮らしが形作る「日常」によって支えられ、守られているのです。

時流のSDGs(エスディージーズ=持続可能な開発目標)は私たちが抱える「環境・社会・経済」の課題を、誰かを犠牲にしたり取り残したりせずに解決することを目指しています。観光も持続可能性が大切です。観光振興のために、そこで暮らす人の生活の場に大勢の人が土足で踏み込むような事態を招くなら持続可能とは言えません。いわゆるオーバーツーリズムの問題です。観光は域内の経済活動を活発化させ、雇用も生みますが、日常と非日常を巡る葛藤や矛盾への懸念を理解した上で振興策を展開する必要があるのです。

旅行消費は東京、大阪、京都に偏重

観光庁が公表している2024年版観光白書によると、外国人の延べ宿泊者の約7割が三大都市圏(関東、中京、京阪)に集中し、食や買い物、宿泊代などの旅行消費も東京都、大阪府、京都府への偏重がみられます。訪日前に期待していることを挙げてもらうと、ベスト5は「日本食」「ショッピング」「繁華街の街歩き」「自然・景勝地」「日本酒」でした。外国旅行を楽しむ際、まずはその国の定番を楽しみたいと考えるのは自然です。

一方、日米豪など7カ国の年1回以上飛行機を利用して旅する人を対象とした調査では「人里離れた目的地を旅行したい」と「あまり知られていない休暇スポットを見つけたい」がともに7割前後を占めました。同時に「地域コミュニティーを支援する休暇に興味がある」と「地域コミュニティーを支援すると知っていれば休暇にもっとお金を費やしても構わない」と答えた人も7割前後に達しています。

世界の旅行者の一定数は持続可能な観光や地域への貢献に配慮したいとの思いがあるのに、特定のスポットに外国人が押し寄せる弊害が顕在化しています。SNSで注目を集めたスポットが突然観光地化するケースが散見され、旅のトレンドに応じた広範で正確な観光情報を多言語で提供する必要性は論を待ちません。地方は観光客の誘致合戦に勝ち抜かねばなりませんが、PRが成就したとたんオーバーツーリズムの弊害に対応せざるを得ない状況が生じないよう広報戦略を練り上げる必要があります。

函南町で「農泊インバウンド」

政府を挙げたインバウンド促進策で、農林水産省は「農泊インバウンド受入促進重点地域」を指定しました。対象は全国28地域で、静岡県では函南町農泊推進協議会が選定されました。農泊は農山漁村に滞在してもらいながらありのままの生活生業に接する特別な体験を提供します。その土地の魅力をより深く味わうことで「また来たい」「知人に知らせたい」と思ってもらえる観光を目指しています。

多様な一次産業が営まれている静岡県では函南町のほかにも多くの農泊体験が可能で、県観光公式サイト「ハローナビしずおか」で紹介されています。長期滞在でじっくりと味わう観光素材が全国各地にある。そんな情報の発信と仕掛けの構築を政府や自治体と民間が官民共創の視点で推進したい。その取り組みはきっと、そこに暮らす人々が地域の良さを再発見することにつながるでしょう。
 中島 忠男(なかじま・ただお)=SBSプロモーション常務
1962年焼津市生まれ。86年静岡新聞入社。社会部で司法や教育委員会を取材。共同通信社に出向し文部科学省、総務省を担当。清水支局長を務め政治部へ。川勝平太知事を初当選時から取材し、政治部長、ニュースセンター長、論説委員長を経て定年を迎え、2023年6月から現職。

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