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介護事故の種類と防止策 ヒヤリハットから学ぶ対応

「みんなの介護」ニュース

藤野 雅一

介護事故の種類と発生状況

介護事故とは、介護サービスの提供に関連して発生する事故のことを指します。転倒・転落、誤薬、誤嚥、異食などが主な事故の種類です。これらの事故は、利用者の身体的・認知的な特徴に起因することが多く、介護職員は利用者の状態を十分に把握し、適切な支援を行うことが求められます。

介護現場で起こる主な事故の種類と発生頻度について、以下の棒グラフでご覧ください。

出典:『(6)介護老人福祉施設における安全・衛生管理体制等の在り方についての調査研究事業(結果概要)(案)』(介護給付費分科会)の資料を基に作成

このデータから、転倒・転落事故が最も多く、次いで誤薬、誤嚥、異食が高い割合を占めていることがわかります。これらの事故は、利用者の身体的特徴や認知機能の低下などが原因となることが多いです。

例えば、転倒・転落事故は、加齢に伴うバランス能力の低下や環境への不適応が要因となる場合があります。筋力の低下や感覚機能の衰えにより、つまずいたりや滑ったりしやすくなります。また、認知機能の低下により、自分の身体能力を過信したり、環境の危険性を理解できなかったりすることも、転倒・転落のリスクを高めます。

誤薬は、利用者の認知機能の低下により、服薬管理が困難になることが原因の一つです。利用者が薬の種類や用量、服用方法を理解できなかったり、飲み忘れや重複服用が起こったりすることがあります。また、職員の配薬ミスや利用者の誤飲なども誤薬につながります。

誤嚥や異食は、加齢に伴う嚥下機能の低下や認知症による異常行動が関係しています。嚥下機能が低下すると、食べ物や飲み物を上手く飲み込むことができず、誤嚥のリスクが高まります。また、認知症によりさまざまな異常行動が現れる場合があり、異食はその一つです。異食とは、食べられないものを口に入れてしまうことを指し、誤嚥や窒息につながる危険性があります。

介護職員は、これらの事故の特徴と発生メカニズムを理解し、利用者一人ひとりのリスクを適切にアセスメントすることが重要です。そして、リスクに応じた環境調整や見守り、支援方法の工夫などを行い、事故の予防に努めることが求められます。

介護事故のヒヤリハット事例と教訓

ヒヤリハットとは、事故には至らなかったものの、事故につながる可能性があった事例のことを指します。介護現場で実際に起きたヒヤリハット事例を分析し、教訓を得ることは、事故防止に役立ちます。

例えば、ある施設で、利用者が車椅子から立ち上がろうとして転倒しそうになったというヒヤリハット事例がありました。この事例から、車椅子の使用方法や利用者の残存機能に合わせた支援の重要性が再認識されました。具体的には、利用者の下肢筋力や座位バランス能力を適切に評価し、必要に応じて立ち上がりの介助や見守りを行うことが大切だと分かりました。また、車椅子のブレーキの使用方法や座面の高さ調整などにも気を配る必要があります。

別の施設では、職員が利用者の薬を準備する際、同姓の利用者の薬と取り違えるというヒヤリハットがありました。この事例から、薬の管理方法の見直しと職員の注意喚起が行われました。薬の保管場所を利用者ごとに分けたり、名前や写真を貼付したりするなどの工夫が有効です。また、配薬時は利用者の名前を確認し、服薬後の空袋や空包を確認するなど、ダブルチェックを徹底することが重要だと分かりました。

このように、ヒヤリハット事例を分析し、再発防止策を講じることは、介護事故を未然に防ぐために有効です。ヒヤリハット事例は、事故の予兆ととらえることができます。些細なことでも報告・共有し、原因を分析することが大切です。そして、得られた教訓を職員間で共有し、具体的な対策を実践に移すことが求められます。

介護事故が発生した際の適切な対応と報告

介護事故が発生した際、迅速かつ適切な対応を行うことが求められます。介護老人福祉施設に関しては、9割以上の施設が報告対象の範囲を定めているというデータもあります。

出典:『(6)介護老人福祉施設における安全・衛生管理体制等の在り方についての調査研究事業(結果概要)(案)』(介護給付費分科会)の資料を基に作成

事故発生時は、まず利用者の安全を確保し、必要に応じて医療機関への受診や家族への連絡を行います。事故の状況によっては、救急車の手配や応急処置が必要になります。利用者の生命や健康状態を最優先に、適切な判断と行動が求められます。

そして、事故の状況を詳細に記録し、施設内で報告・共有します。事故報告書には、事故発生日時、場所、事故の内容、利用者の状況、事故発生時の対応などを具体的に記載します。また、事故の原因や背景要因についても可能な限り分析し、再発防止策を検討します。

施設から市区町村への報告は、多くの施設で義務化されています。報告する事故の種別は、転倒、転落、誤薬、誤嚥、異食が主なものです。報告の方法や様式は、市区町村ごとに定められていることが多いため、事前に確認しておくことが大切です。

報告書の作成においては、客観的な事実を正確に記載するようにしましょう。事故の経緯や利用者の状態、職員の対応などを時系列に沿って詳しく説明します。また、事故の原因分析や再発防止策についても記載し、事故を風化させないための取り組みを示します。

また、事故報告は、施設の質の向上や職員の教育・指導に活かされます。報告された事故事例は、施設内で共有・分析され、事故防止のための具体的な対策となるのです。また、市区町村や都道府県は、報告を受けた事故事例を集計・分析し、地域全体の介護サービスの質の向上に役立てています。

介護事故の防止策 - リスクマネジメントと職員教育

介護事故を防止するためには、リスクマネジメントの徹底と職員教育が欠かせません。以下は、介護事故防止の取り組み状況に関する事業所アンケート結果です。

出典:『(6)介護老人福祉施設における安全・衛生管理体制等の在り方についての調査研究事業(結果概要)(案)』(介護給付費分科会)の資料を基に作成

アンケート結果から、多くの事業所で事故防止のための指針やマニュアルの整備・見直しが行われていることがわかります。指針やマニュアルは、事故防止の基本的な考え方や具体的な手順を示すものです。定期的に内容を見直し、現場の実情に合わせて改訂していくことが大切です。

一方で、約2割の事業所では指針の見直しが行われておらず、改善の余地があります。指針やマニュアルは、形骸化させてはいけません。職員全員が内容を理解し、日々の実践に活かせるよう、周知・徹底を図ることが求められます。

事故防止のためのリスクマネジメントでは、事故の要因分析、マニュアルの整備、ヒヤリハット報告の活用などが重要です。リスクマネジメントのPDCAサイクルを回し、継続的な改善を図ることが求められます。

Plan(計画)では、リスクの洗い出しと評価、対策の立案。Do(実行)では、計画に基づいた対策を実践。Check(評価)では、対策の効果を検証し、課題を明らかにする。Act(改善)では、課題に基づいて計画を見直し、より効果的な対策を立案します。このサイクルを繰り返し、事故防止の取り組みを進化させていくことが大切です。

職員教育においては、事故防止の意識を高め、適切な知識と技術を身につけることが求められます。研修内容としては、事故の種類と原因、リスクアセスメント、事故発生時の対応、報告の方法などが挙げられます。座学だけでなく、グループワークやロールプレイングなどの参加型の研修を取り入れることで、実践的な学びを得ることができるでしょう。

また、日常的なOJT(On-the-Job Training)も重要です。先輩職員が手本を示し、後輩職員に指導・助言を行うことで、知識や技術の定着を図ることができます。事故防止の観点から、日々の介護場面での気づきを共有し、互いに学び合う職場文化を醸成することが大切です。

介護事故に備える - 損害賠償責任と保険の重要性

介護事故が発生した場合、損害賠償責任が生じる可能性があります。民法上、事業者には利用者の生命・身体・財産を守る安全配慮義務があります。この義務に違反し、利用者に損害が生じた場合、損害賠償責任を負うことになります。

事業者の損害賠償責任は、主に以下の2つに分けられます。

使用者責任

事業者は、職員の不法行為によって利用者に損害が生じた場合、使用者責任を負います。選任監督義務を怠ったと認められる場合、事業者は職員の行為について責任を問われます。

債務不履行責任

事業者と利用者の間には、介護サービス契約という債権債務関係があります。事業者がサービス提供義務を怠ったり、不十分な履行をしたりした場合、債務不履行責任を負う可能性があります。

また、職員個人も、故意または重大な過失により事故を引き起こした場合、責任を問われる可能性があります。

事業者目線に立つと、損害賠償責任保険への加入は重要だといえるでしょう。損害賠償責任保険は、事故発生時の損害賠償金や弁護士費用などを補償してくれます。施設賠償責任保険、受託者賠償責任保険、専門職業人賠償責任保険などが代表的です。

その際は事業所の規模や事故リスクに合わせて、適切な保険を選ぶことが大切です。補償内容や補償限度額、免責金額などを確認し、不足がないか検討しましょう。また、保険料負担と事故発生時の対応方法について、職員への周知を図ることも重要です。

まとめ - 介護事故を防ぐための心構えと体制づくり

介護事故を防ぐためには、一人ひとりの職員が高い安全意識を持ち、利用者の尊厳を守るという使命感を持つことが大切です。事故防止は、特別な取り組みではなく、日常の介護実践の中に組み込まれるべきものです。

そのためには、まず自分自身の介護観を見つめ直すことが重要です。利用者の気持ちに寄り添い、尊重することを第一に考えましょう。利用者の残存能力を引き出し、自立を支援するという視点も欠かせません。

また、チームワークの醸成も大切です。職員間のコミュニケーションを活発にし、情報共有を図ることが求められます。気づきや疑問を言い合える関係性を築き、問題意識を共有しましょう。

事業所全体では、事故防止の体制を整え、継続的な改善と学びを積み重ねていくことが求められます。事故防止の取り組みは、一朝一夕にはできません。地道な努力を重ね、安全文化を醸成していくことが重要です。利用者の笑顔を守るために、一歩ずつ、前進していきましょう。

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