「店ぬい」は街で活躍する店員さん。ごめさんに伺う、店番として働くぬいぐるみたちの人間味
熊に鳥に、企業キャラクター。街を歩いていると時折、店先や店内にぬいぐるみがディスプレイされていることがある。ごめさんはそんなぬいぐるみたちを「店番をするぬいぐるみ(通称:店ぬい)」と呼んで、観察を続けている。
ごめ
店番をするぬいぐるみマニア。のんびり働く「店ぬい」たちを写真に収めたり観察することが日々の楽しみ。好きが高じてグッズや冊子を制作したり、SNSでは出会った店ぬい写真をアップしている。本業はグラフィックデザイナー。(X:@misenui)
イメージとは違う姿に心を掴まれた
「8年ほど前、散歩中にふとハンバーガー屋さんの前にいたクマのぬいぐるみに目が止まったんです。
首から宣伝のための看板を下げて椅子に座っていたんですが、体が傾いていて、うたた寝しているように見えて。
『ふわふわしてかわいい』みたいなぬいぐるみのイメージとは全く違うゆるい姿に、すっかり心をつかまれてしまいました。
そこから、お店に置かれたぬいぐるみを意識して追いかけるようになりました」
お店とぬいぐるみとの物語
それ以来、2000枚以上もの店ぬいを撮影してきたごめさん。
街でよく見かける店ぬい・5タイプを教えていただいた。
「まずは①オーソドックス系。
『OPEN』や『Welcome』といった看板を掲げて、店員として真面目に働いているタイプです」
「次に②お店とリンク系。
店名に由来した動物やお店の公式キャラクターのぬいぐるみが飾られているタイプです」
「個人的に好きなのは③おしゃれ系。
クリスマスやハロウィンなど、季節ごとにこまめに衣装が変わって、お店の人の愛を感じます。
コロナ禍ではマスクを付けたぬいぐるみがいたりと、世の中の動向も感じられます」
「もう一つは④ファミリー系。
家族や仲間のように、ぬいぐるみが何体も並んでいるタイプです。
同じ種類の場合もあれば、いろんな種類のぬいぐるみが並んでいることも。
おなじみの有名キャラクターが一緒に並ぶ様子は、ぬいぐるみじゃないとなかなか見られないのでテンションが上がりますね(笑)」
「最後は⑤マイペース系。
ちゃんと座っていなかったり、ぐでーっと寝ていたりと、自由すぎる姿でそこにいるタイプです。人間味を感じます」
商店街に、ショッピングモール。どんな街でも大小さまざまなお店で出会える、店ぬい。
その様子から、ぬいぐるみを愛でる店員さんの様子が垣間見えてくる。
「お洋服を着せてもらったり、季節のイベントに合わせて装飾されたりと、かわいがられている様子を見ると、店員さんとの関係性を想像してほっこりできるところが店ぬいの魅力です。
ぬいぐるみが身につけている手作りアイテムは、わざわざ飾ろうと思わなければ存在しないもの。
極端に言えば、なくてもいいものですよね。それがあるのはうれしいし、店員さんの愛やこだわりを感じて、温かい気持ちになります」
一期一会の表情が楽しい
ぬいぐるみ自体の表情やシチュエーションとの掛け合わせで、店ぬいが醸す世界観は唯一無二。
お気に入りの店ぬいは、定点観測で様子を見守ることも。
「店ぬいたちとの一期一会を大事にしています。
一度出会えたらそれでいいやというのではなく、その後も通るたびにチェックしています。見るたびにポーズやディスプレイ、衣装が変わっていたりすると、同じ道を歩いているはずなのに、違う景色に見えてテンションが上がります。
同じ種類のぬいぐるみであっても、働くお店が違うと全然違うのも、また楽しいです。同じ出身地の子がいろんな場所で頑張っている、みたいな感じですね。心の中で『頑張れ』って応援しています」
店ぬい観察では、あくまで宝探しのように、偶然の出会いを大事にしている。
「店ぬいに注目するようになったことで、普段何気なく歩いていた街への解像度が上がりました。
車で走っていて『あ、今美容室の前にいたな』と発見したり、ショーケースの後ろに隠れた店ぬいを遠目で見つけたりと、店ぬい限定で視力が良くなったように思います(笑)」
よく行く街や住んでいる街でも気づいていないだけで、もしかしたら店ぬいたちは至る所で活躍しているのかもしれない。
取材・構成=村田あやこ ※記事内の写真はすべてごめさん提供
『散歩の達人』2025年4月号より
村田 あやこ
路上園芸鑑賞家/ライター
福岡生まれ。街角の園芸活動や植物に魅了され、「路上園芸学会」を名乗り撮影・記録。書籍やウェブマガジンへのコラム寄稿やイベントなどを通し、魅力の発信を続ける。著書に『たのしい路上園芸観察』(グラフィック社)。寄稿書籍に『街角図鑑』『街角図鑑 街と境界編』(ともに三土たつお編著/実業之日本社)。