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【インタビュー】金子扶生(英国ロイヤル・バレエ団プリンシパル)が語る“新しい私をお見せしたい!” ~〈バレエ・スプリーム〉出演によせて~

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金子扶生

今や世界の名門バレエ団でも日本人の活躍が珍しくなくなってきているが、バレエファンならずともその耳目を集めている数少ないダンサーの一人が金子扶生(英国ロイヤル・バレエ団プリンシパル)だろう。今夏に開催される英国ロイヤル・バレエ団とパリ・オペラ座バレエ団の合同公演というなんともゴージャスな公演に“ロイヤル代表”と出演する金子に、出演にあたっての想いを聞いた。


■ロイヤル・オペラ・ハウスは私にとって第二の家

今や英国ロイヤル・バレエ団の中心的なダンサーとして確固たる地位を築き、日本人離れしたスケールの大きな踊りと華やかな存在感を放つ金子扶生。先日は『オネーギン』のタチヤーナ役のデビューを成功裏に終え、3月に主演した『ロミオとジュリエット』が日本各地の映画館で上映されたばかりだ。

まだプリンシパルになって4年という金子だが、「プリンシパルになるまで10年以上かかり、本当に長い道のりだった」とこれまでを振り返る。

現在の心境を尋ねたところ「怪我やリハビリで長く舞台にたてない期間がありました。その長く辛い過程で積み上げてきたものがあったからこそ、様々な学びもあり、自信も出てきました。今、この場でこうして踊らせていただけることに心から感謝しています。毎日のようにロイヤル・オペラ・ハウスへ通うと言うことは毎日ご飯を食べたり歯を磨くというような習慣と同じような感覚で、私にとって第二の家です」と謙虚にほほ笑む。

それではプリンシパル昇進後、一番変わった点は一体なんだろうか?

ソリストの役をあまり踊らなくなりますので、主役に集中できる時間が多くなります。役作りについて深く思考したり、自己管理のために時間を使えるのは私にとってはとても贅沢なことなんです」と嬉しそうに語る。

Fumi Kaneko as Princess Aurora in The Sleeping Beauty, The Royal Ballet (C)2019 ROH. Photograph by Andrej Uspenski



■常に“新しい私をお見せしたい!”と思っています

そんな金子は、今夏〈バレエ・スプリーム〉出演のために一時帰国をする。本公演はパリ・オペラ座バレエ団と英国ロイヤル・バレエ団の精鋭ダンサーだけによる合同公演で、Aプログラムで『海賊』と『アポロ』を踊ることが発表されている。日本では『ロミオとジュリエット』のジュリエット、『マノン』のパ・ド・ドゥなどの役柄を披露してきたこれまでの金子とはだいぶキャラクターの異なる演目だ。今回の演目を選んだ理由を聞いてみた。

外部の公演に出演する際は“この演目を踊ってほしい”と、具体的な作品を含めてご提案いただくことが多いんです。ただ、私自身としては“新しい役に挑戦したい!”という想いがあるんです。すでに何度も経験していて自信をもって踊れる役も良いとは思うのですが、せっかくのチャンス、新しい私をお見せしたいと思っています

まずは常にフレッシュな自分をみせたいと強調したあとに言葉を続けた。

『海賊』のパ・ド・ドゥは日本公演の直前にある韓国ツアーでワディム(ムンタギロフ)と踊ります。以前別の公演でも挑戦したことはあるのですが、その時はあまり練習時間がなく、私の中では少し悔いが残っています。今回はアレクサンダー・アガジャノフというシルヴィ・ギエムやダーシー・バッセルを教えていたコーチについて、しっかりと準備しています。彼は普段マリアネラ(ヌニェス)、ワディム(ムンタギロフ)、ナタリア(オシポワ)を教えることが多く、大変知識のある方です。日本のお客様に自信をもってお見せできるようにつとめています」と練習への手ごたえを語る。

一方の『アポロ』は今回初挑戦の演目だという。

どうもサラ(ラム)が提案してくれたようなのですが、自分では絶対に思いつかなかった作品ですね。この3月にはバランシンの作品だけを集めたトリプルビルの上演があり、私は『シンフォニー・インC』と『放蕩息子』の2作品に出演しました。他には『セレナーデ』の上演もあったのですが、改めてバランシン作品の奥深さに圧倒されました。特に『放蕩息子』は100年近く前の作品で、他の2作品とは“色”が全然違うんです。今回はパトリシア・ニアリーに指導していただきましたが、実はコーチを引退するとのことで、彼女にとってはこれがロイヤル・バレエ団との最後の仕事になりました。彼女の指導の中では「大きく動かすように」とヒップの使い方を注意されることが多かったです。それにバランシンの作品は細かな角度まで厳密に決まっていることが多いのですが、彼女の指導をうけ、伝統の継承ということを改めて感じました

世界バレエフェスティヴァル2021「マノン」より 金子扶生、ワディム・ムンタギロフ (photo:Kiyonori Hasegawa)



■全員が1つになることで生まれる英国ロイヤル・バレエ団の舞台

そして今回初挑戦となる2つ目の演目がパリ・オペラ座バレエ団と合同で上演する『ラ・バヤデール』(抜粋版)のニキヤだ。Bプログラムでワディム・ムンタギロフと披露する。

私は“影の王国”からヴェールのパ・ド・ドゥを踊ります。ロイヤルではまだ踊ったことがない役なので私自身本当に楽しみです! 新しい私を日本のお客様に観ていただけたら。それにパリ・オペラ座バレエ団との合同公演であることにすごくワクワクしているんです。他のバレエ団の方と同じ舞台にたてる機会は少ないので、リハーサルなどを拝見すると「このような仕事の方法があるのか!」と大きなインスピレーションをいただけます。他の方が踊るソロルやガムザッティを拝見することも楽しみですし、オペラ座の皆さんはとても練習熱心ですから、皆で力をあわせて良い舞台にしていけたら

ではそんなパリ・オペラ座バレエ団と比べたとき、英国ロイヤル・バレエ団としてのアイデンティティはどのような点に感じるのだろうか?

英国ロイヤル・バレエ団に入団して、初めて舞台に立ったときの衝撃は今でも覚えています。皆さんの演技力が素晴らしすぎて……イギリスは“演劇の国”とも言われますが、全員がひとつになるからこそ生まれる素晴らしさがロイヤルにはあります。どれだけ主役が素晴らしく踊ったとしても、みんながサポートしてひとつにならなければ舞台に魔法はかかりません。例えば『ロミオとジュリエット』(今回はBプロでパ・ド・ドゥを披露)であればジュリエットと父との関わり、ティボルトとの関わり、全てにドラマがあり、仕草1つだけでも物語を伝えなければなりませんし、そうすることでお客様に演技をとおして物語をお伝えすることができます。本当に個性豊かなカンパニーだと思います

金子扶生のさらに深化したジュリエットに加え、『海賊』、『アポロ』は粒揃いのダンサーたちが集う〈バレエ・スプリーム〉の中でもひと際大きな輝きを放つに違いない。

いつかはバランシンの『ダイヤモンド』を踊ることが夢なんです」と目を輝かせて語る金子は「私にとっても大きな挑戦となる演目を日本の皆様に観ていただけるのを心待ちにしています。少しでも多くの方に観ていただきたいし、私も舞台を通して多くの方にお会いしたいと思っています」と締めくくり、今日も舞台へと向かっていった。

今や“世界で活躍する日本人”の枠をこえ、“世界でも有数のバレエダンサー”へのステップを着実にのぼっていると感じさせる金子扶生。今度の舞台では一体どのような舞をみせてくれるのか、期待は高まるばかりだ。

オンラインにて取材に応じる金子扶生。ロイヤル・オペラ・ハウスより。

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