沖縄の高校野球が熱い!【高校野球・夏季沖縄大会展望】センバツ決勝進出の2チームを苦しめた「沖縄尚学&エナジック」が軸。直接対決を分析すると…
沖縄の高校野球が熱い。 けん引するのは甲子園で過去2回の優勝を誇る伝統校の沖縄尚学(以下、沖尚)と、創部4年目の新鋭校であるエナジックスポーツ(以下、エナジック)だ。 両雄は全国から32校が参戦した春の第97回選抜高校野球大会(以下、センバツ)に九州地区代表として出場した。沖縄から2校同時にセンバツ出場を果たすのは11年ぶりで、史上3回目という快挙だった。 結果は両チームとも2回戦で敗退し、ベスト16止まり。ただ、敗れた相手はいずれも決勝に進出した高校(優勝:横浜、準優勝:智弁和歌山)で、準決勝までで最もこの2チームを苦しめたと言っても過言ではない内容だった。 8月にある第107回全国高校野球選手権への出場校を決める沖縄大会は6〜7月に行われる。言うまでもなく、軸となるのは第1シードの沖尚と第2シードのエナジックだ。これまでに行われた4度にわたる公式戦の直接対決などを踏まえ、夏の沖縄大会を展望する。
課題だった「集中打」で優勝校に肉薄 沖縄尚学
本題に入る前に、センバツの結果を振り返りたい。 秋季九州大会の王者として挑んだ沖縄尚学は初戦で青森山田に6ー3で勝利し、2回戦で昨秋の明治神宮大会を制した横浜と対戦した。 先発の新垣有絃が初回で先頭打者を死球で出塁させると、走者を溜めて後続に3点本塁打を浴びた。二回からは初戦で完投した最速150㌔の2年生左腕エース・末吉良丞が継投したが、三回表に2点を追加された。 それでも三回裏の攻撃で4番・比嘉大登、5番・阿波根裕、7番・宜野座恵夢が立て続けに適時打を放って一挙4点を返した。その後、再び4点差まで引き離されたものの、比嘉の適時打や8番・山川大雅のスクイズなどで1点差まで猛追。あと一歩届かずに7ー8で敗れはしたが、「集中打の少なさ」という大会前までの課題を克服し、接戦を演じた。 決勝までに行った5試合の平均得点が6.6点という高い攻撃力を誇った横浜にとって、最少点差での辛勝は沖尚戦のみ。7失点は5試合を通して最多だったことからも、沖尚の底力が垣間見えた試合だった。
1試合で「6盗塁」ノーサイン野球の力発揮 エナジック
一方、2022年4月の創部以来、初めて聖地の土を踏んだエナジック。初戦は最大の特徴であるノーサイン野球と機動力を組み合わせた怒涛の攻撃、エース左腕の久髙颯による好投で至学館(愛知県)に8ー0で完勝し、歴史的な1勝を挙げた。 2回戦では横浜と同じく優勝候補の一角に挙げられていた智弁和歌山とぶつかった。初回から久髙の制球がピリッとせず、打力のある相手に捉えられて毎回失点。四回を終えた時点で2ー8と大差を付けられた。 それでも次の塁を狙う積極性は失わない。終盤の七回裏には、この回だけで三つの盗塁を成功させて1点を返した。4ー9で敗れたはしたものの、試合を通した盗塁数は相手を四つも上回る六つ。ノーサインで選手たち自身が意思決定し、失敗を恐れずにハツラツとプレーするエナジック野球は甲子園に強烈なインパクトを残したはずだ。 智弁和歌山は決勝で横浜に4ー11で大敗したが、投手層が極めて厚く、準決勝までの4試合のうち3試合が零封での勝利だった。全国にその名を轟かせる強豪校に対し、甲子園初出場のチームが自分たちのスタイルを貫き、4点を奪ったことは評価に値する結果だろう。 中でもリードオフマンのイーマン琉海は2試合を合わせて10打数8安打を記録し、そのうち長打が2本。盗塁も二つを決め、大会屈指の選手の一人に数えられる活躍だった。
「初見だと怖いですが…」ドリームマッチで機動力封じた沖尚
3月30日に閉幕したセンバツの余韻が残る中、沖尚とエナジックは4月12日、夏の沖縄大会の第1シード、第2シードを決めるドリームマッチを行った。 両校とも好機で一打が出ず、五回までスコアボードにゼロが並んだ。先行したのは沖尚。六回裏にシュアなバッティングでエナジックの先発・久髙を攻め立て、犠打を挟んだ4連打などで一気に4点を挙げた。 対するエナジックは七回表に四球と2連打で1点を返すのがやっと。沖尚はエースの末吉が「状態が良くなかった」(比嘉公也監督)と登板機会がなかったものの、右腕の新垣有絋と左腕の久高大瑚が継投し、最少失点に抑えた。 名手で知られる遊撃手の眞喜志拓斗キャプテンが珍しく二つの失策を記録するなど課題こそあれど、攻撃では甲子園でも見せた集中打で1回に大量点を奪い、比嘉監督は「打線の繋がり、個々の能力は上がったと思います。横浜戦で追い付けなかった悔しさがあり、あの一戦があったからだと感じます」と手応えを口にした。 中でも勝負を分けた大きなポイントはエナジックの機動力を封じたことだ。それが顕著に表れたのが、三回と四回の守備だった。いずれも先頭バッターを被安打とエラーで出したが、両回とも捕手の宜野座が盗塁を刺してチャンスを作らせず。この試合、エナジックを盗塁ゼロ、犠打飛1に抑えた。 今の代になり、公式戦における直接対決の結果は沖尚の3勝1敗。1戦目の県新人中央大会決勝こそ1ー3で敗れたが、県秋季大会決勝は8ー5、秋季九州地区大会決勝も6ー2で快勝している。 機動力を駆使して攻めるエナジックの勢いに飲まれるチームが多い中、眞喜志は「初見だとエナジックのような野球は怖いですが、一昨年くらいから出てきているチームなので、自分たちは戦いながら対策を積み重ねています。そういう意味では、ある程度戦い方が分かってきている面はあると思います」と自信をのぞかせる。 ただ、もちろん慢心はない。「エナジックは秋も春も自分たちに負けているので、夏はさらに本気になって戦ってくると思います。それに負けないように練習をして、夏に必ず優勝をしたいです」と気持ちを新たにしていた。
春季九州で2度の逆転勝ち「勢い」維持するエナジック
沖縄尚学に3連敗を喫してはいるものの、短期間で沖縄の強豪の一角にのし上がったエナジックの勢いが本物であることは間違いない。 ドリームマッチ後に出場した春季九州地区大会では初戦の創成館(長崎県)戦を2ー1、準々決勝の東海大熊本星翔戦を4ー3と立て続けに接戦を制し、いずれも先行を許しながらの逆転勝ちだった。準決勝の西日本短大付(福岡県)戦は延長十二回タイブレークの末に6ー7で惜敗したものの、センバツ8強の強豪に対しても1点差の好ゲームを演じた。 6得点を挙げた西日本短大付戦はドリームマッチと同じく盗塁ゼロ。それでも8安打に4四球4犠打2犠飛を絡め、確実に好機を広げてスコアを重ねた。 沖尚戦後、神谷監督は「夏は各チームにさらにマークされるだろうし、相手のバッテリーが良ければ盗塁も容易にはできなくなります。走れない時にどう攻めるかは課題です」と口にしていたが、それに対する答えが見えてきているかもしれない。 夏に沖尚と再戦するとすれば、沖縄大会決勝の舞台のみ。これまでの直接対決4戦では沖尚のエース末吉とあまり対峙していないため、彼を打ち崩せるかも勝敗を分けるポイントになるだろう。指揮官は「夏が楽しみ。何回負けても、最後に勝てばいいんです」と不敵に笑っていた。 1枚のみの甲子園切符を手にするのは、攻守に安定感と粘りが増してきた沖尚か、独自のスタイルで勢いを維持するエナジックか。それとも、21年ぶりに県春季大会を制した宜野座、好投手を抱える興南、打線が武器のウェルネス沖縄などの有力校が双璧を崩し、頂点をかっさらうのか。 ハイレベルが戦いが繰り広げられるであろう熱い夏が、今から楽しみだ。