声調がなかなか覚えられません。中国語ネイティブのみなさんは、どうやって身につけるのでしょうか?【トール先生の中国語相談室】
「中国語!ナビ」番組出演中の講師、加藤徹先生こと「トール先生」が、中国語の勉強“以前”のソボクな疑問に答えます。
中国語学習の入り口でつまずいている人向けに、これからも学習を継続するためのアドバイスを掲載。ぜひ参考にしてみてください!
※本連載は、「中国語!ナビ」テキスト編集部に寄せられた読者のみなさまの中国語にかんする質問をもとに作成しています。月に1回程度更新予定。
ネイティブの発音も辞書と違う?
質問:声調がなかなか覚えられません。中国語ネイティブのみなさんは、どうやって身につけるのでしょうか?
答え:
日本人と同じです。幼いころから音を耳で聞き、学校にあがる前までには発音を自然と身につけます。
日本人の中国語学習者のように、ピンインの声調記号を目で見て声調を学ぶわけではありません。
ですので、ネイティブが喋る中国語の声調は、実はけっこうテキトーです。
ネイティブの口語を聞くと「あれ? 辞書に載っている声調と違う」と感じることも多い。例えば、
漢字 ピンイン 口語(誤読) 意味
主意 zhǔyi zhúyi アイディア
着急 zháojí zhāojí あわてる
鼹鼠 yǎnshǔ yànshǔ モグラ
などは、アナウンサーはきちんと正しい声調で発音しますが、一般の人たちの口語ではよく「誤読」を聞きます。
例えば、テキスト5月号に登場した “好主意!”(いいアイデアだ!)のピンインは“Hǎo zhǔyi!”です。テキストの脚注にもあるとおり、ネイティブの会話では“Hǎo zhúyi!”のほうが普通です。“主”の発音は第3声。第2声に読むのは間違い。なのに、なぜ、ネイティブはあえて“zhúyi”と誤読するのか?
「だって“主意”を“zhǔyi”と発音すると、“主义”zhǔyì(主義)とまぎらわしいでしょ」と、あるネイティブは言います。なるほど。
日本語でも「私立」「市立」は同じシリツですが、口語ではそれぞれ「わたくしりつ」「いちりつ」と「誤読」しますよね。それと同じです。
「誤読」にも理由がある
では“别着急!”Bié zháojí!(あわてるな)を“Bié zhāojí”と間違えて発音する理由は? “招嫉”zhāojí(嫉妬を招く。ねたまれる)という同音の言葉もあります。かえって混乱するのでは?
あるネイティブにきくと「“着”という漢字は読み方がたくさんあって、ネイティブもいちいち深く考えませんよ。ま、許容範囲でしょ」
では“鼹鼠” yǎnshǔ(モグラ)を“yànshǔ”と誤読する理由は?
「え? “鼹”の発音は第3声なの? “晏” yànは第4声なので、てっきり “鼹”も第4声だと思ってた」。日本人も、難しい漢字を読むとき、見慣れた漢字から音を類推してテキトーに読んでしまうことがあります。
このほか、軽声についても、庶民の口語はかなりテキトーです。本来の声調を半分くらい残した軽声にするか、それとも完全な軽声にするか。気分やTPOによって微妙に変わります。
日本人の中国語学習者はまじめです。声調に神経をすり減らします。間違えるとテストで減点されてしまうからです。
でも実は、日本語でも中国語でも、アナウンサーなどプロ以外のネイティブの発音は、けっこうテキトーなのです。それが自然体だからです。
加藤 徹(かとう・とおる)
明治大学教授。著書に『漢文で知る中国 名言が教える人生の知恵』(NHK出版)、『漢文力』(中公文庫)、『貝と羊の中国人』(新潮新書)、『後宮 殷から唐・五代十国まで』『後宮 宋から清末まで』(角川新書)など。2025年度「中国語!ナビ」講師。
◆『中国語!ナビ』2025年12月号より
◆文:加藤徹
◆トップ写真:Shutterstock