きょうだい児の妹、小3から困りごとが増え…特別支援学級に転籍、自閉症の診断、手帳取得までの道のり
監修:初川久美子
臨床心理士・公認心理師/東京都公立学校スクールカウンセラー/発達研修ユニットみつばち
こんなに違う!ASD(自閉スペクトラム症)きょうだいの幼少期
幼い頃の娘は、私にとって「子どもらしい子ども」のようでした。たとえば息子は道端で癇癪を起こしている小さな子どもを見ると「嫌だな、恥ずかしいな」と感じるタイプで、同年代と比べてもかなりおとなしい子どもでした。しかし、障害の特性が少しずつ目立ってくるにつれて、息子自身も同じように癇癪を起こすようになり、そのことをとても嫌がり、かと言ってしんどい気持ちは止めることはできずに、さらにパニック状態に陥るようになりました。
一方、娘はスーパーで「お菓子買って!」と床にひっくり返ったり、公園にいくと「帰りたくない!まだ遊びたい!」と泣いたりしました。私から離れるのを極端に嫌がったり、節分の鬼が怖いからとその日だけ登園拒否をしたりする繊細さはありましたが、集団行動にも適応できていたし、すぐに仲のいい友だちもでき、楽しく幼稚園生活を送っていました。息子がパニックを起こした際は、冷たい飲み物を飲むと落ち着くことがあったので、対応している私の代わりにお茶を取りに走ってくれたりなどしっかりとした一面もあり、娘の成長は私にとって大きな慰めでもありました。
結果はグレーゾーン、特別支援学級へ
そんな娘の様子が少しずつ変わってきたのは、小学3年生の頃でした。かつての息子と同じように、漢字ノートに書いた字を「汚い。これじゃダメだ」と何度も消しては書き直すようになりました。連絡帳も書けていないことが多くなり、クラスメイトのお母さんに内容を聞いたりと、学校生活の困りごとがどんどん増えてきました。私はすぐに息子の通う児童精神科に予約を取りました。心理検査の結果、娘は「グレーゾーン」と診断されました。
担任の先生も娘の異変に気づいていたようで、書く負担が少ない指導に切り替えてくださり、3学期から特別支援学級へと転籍することにしました。その躊躇も迷いもない決断に、学校の先生方は「もう少し様子を見てもいいのでは……?」と驚いていましたが、私が迅速に決断できたのは息子の時の経験があったからです。
Q:発達障害グレーゾーンとはなんでしょうか?
A:発達障害のいくつかの症状はあるけれども診断基準に満たないものをグレーゾーンといっています。母集団的には、発達障害に診断がある人よりも発達障害未診断の人のほうが多いと言われています。診断基準には満たないものの、困難な部分のいくつかは発達障害のある子どもと共通の原因で起こっている可能性があるため、環境的な工夫や、問題行動を解決するスキルの学習など、発達障害の特性に合わせた同様の支援が有効です。https://h-navi.jp/column/article/35029805
息子のように常時支援が必要な状態ではありませんでしたが、それでも私たち親子は困り果てることになりました。学童保育も集団がつらいということで行けなくなり、預け先も相談先も何もないのです。時短勤務で入った職場も残業が多く、特別支援学級在籍が決まった際には辞めざるを得ませんでした。できるだけ近所で理解のある職場を探しました。
習い事先にも事情をお伝えしました。本来は4〜5人での授業をする学習塾だったのですが、先生がたまたま特別支援学校教諭の資格をお持ちだったため、空いている時間に個別授業という形を取ってくださることになりました。感謝しかありませんでした。
息子の時には受けられなかった支援を、娘にはできる限り受けてもらいたいと、私は必死でした。
揺れる気持ちと体調と…学校がどんどんキライな場所に
こうして特別支援学級在籍となった娘ですが、「学校に行けば文字を無理やり書かされる」とのことで、学校への足はだんだん重くなっていきました。門に入った途端、「もうイヤだ!やっぱり行かない!」となることもしばしば。そうした時、助け舟を出してくださったのは保健室にいる養護の先生でした。校門から近いところにある保健室から、娘の声を聞いて出てきてくださり、保健室で一旦気持ちを落ち着かせてくれました。この養護の先生には、息子の時も大変お世話になった方で、私も信頼できる先生でした。
また、気持ちの揺れが体調にも現れるようになってきました。「お腹が痛い」「先生の声が聞こえない」「黒板の字が見えづらい時がある」などの症状が現れるたびに病院で検査を受けましたが、いずれも心理面からくるものでした。娘があまりに気が進まないようなら学校を休むようにしました。以前は、体調不良以外の理由で学校を休ませることに抵抗を感じていた学校側も、コロナ禍で状況が変わり、心の問題で学校を休む児童が増えたこともあり、娘の状況を理解してくれました。
そうやってなんとか綱渡りの学校生活を送っていたのですが、変化の時が訪れました。次年度から通級指導学級が設置されることなり、特別支援学級には精神障害者保健福祉手帳もしくは療育手帳を所持している児童しか在籍できなくなってしまった(※)のです。
(※)自治体によって条件・状況は異なります
ASD(自閉スペクトラム症)と診断、精神障害者保健福祉手帳を取得
当時、娘は障害者手帳を持っていませんでした。教頭先生から「適応障害だとしても理由が弱すぎます。障害者手帳がない以上は通常学級に戻ってもらうしかないんです」と言われたため、私はもう一度児童精神科の受診を決意し、すぐに病院を探し始めました。息子の通う児童精神科は大きな病院でしたがかなり遠い上に予約が取りづらく、娘を定期的に連れていくのは厳しそうでした。そこで「自転車で通える」「思春期を迎えるし、女性の医師のほうが気持ちを話しやすいのでは」という条件で病院を探し続け、なんとか児童精神科の予約を取りました。
以前よりも障害特性が強くなっていたためか、今度は「ASD(自閉スペクトラム症)」と診断されました。精神障害者保健福祉手帳を取得するため、その病院に通院を続けることに決め、学校にも報告しました。そして、障害等級2級と判断され、娘は次年度も特別支援学級に無事に残れることになりました。
こうして現在は、特別支援学級で適切な支援を受け、先生方に見守られながら、特別支援学級のお友だちと自分のペースで過ごしています。
厚生労働省|障害者手帳
精神障害者保健福祉手帳は、一定程度の精神障害の状態にあることを認定するものです。精神障害者の自立と社会参加の促進を図るため、手帳を持っている方々には、様々な支援策が講じられています。精神障害者保健福祉手帳の等級は、精神疾患の状態と能力障害の状態の両面から総合的に判断され、1級から3級まであります。申請は、市町村の担当窓口を経由して、都道府県知事又は指定都市市長に行います。https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/techou.html
変わりゆく特別支援教室と、子どもたちの今
息子と娘は、4歳の年齢差があります。この4年の間に、二人の在籍する特別支援学級の環境は大きく変わりました。息子が在籍していた頃は、たった一人で特別支援学級に残されることが多かったり、特別支援に詳しくない先生に適切ではない対応をされることもあり、学校に行けなくなってしまいました。しかし、娘が在籍する頃には当時の先生方は誰もおらず、代わりに特別支援学校教諭の資格を持った先生が来てくださり、特別支援学級の教員の数も増え、乱雑だった教室も綺麗に整頓されて、まるで違う学校に生まれ変わったようでした。
娘が現在学校で受けている支援は、あの頃の息子にあればよかったなというものばかりです。そのことに歯痒さや悔しさを感じることもありますが、今の娘が少しでも心穏やかに学校で過ごしてくれることで、救われている気がします。特別支援学級の先生も、時折娘のお迎えに同行してくれる息子に対して「息子くんもいつでも来てくれていいよ。ここは息子くんの場所でもあるんやで」と言ってくれます。娘の支援を通して、また私たち家族もサポートしていただいていると感じています。
執筆/花森はな
(監修:初川先生より)
娘さんの小学校生活やその中での困難、支援につながっていく経緯などについてのシェアをありがとうございます。息子くんに比べると“子どもらしい子”だった娘さんが小学校生活の中でこだわりやパニックを呈するようになったり、学校が苦手になったりという経緯を経て、特別支援学級へと移られたのですね。そして、特別支援学級の条件が途中で変わり、手帳取得を急がれたとのこと。このあたりはお住まいの自治体によってさまざまなので、気になる方はお住まいの自治体にご確認ください。
お子さんが学校を苦手に感じ、そのつらさが身体症状にも表れるほどであると、保護者としてはとてもご心配されたことと思います。また、ご自身のお仕事のことや生活のことなど気がかりなことがたくさんあられたのだろうと想像します。特別支援学級が娘さんにとって居場所となっていること、よかったと感じます。また、受診によって診断を受けたことも、支援やサポートを受けるにあたってはよかったですね。診断を受けたことで衝撃を感じたり、悲しまれたりする方もいらっしゃいますが、そのお気持ちはその通りだと思いますが、しかし、お子さんへのサポートを充実させたり福祉的なサービスを活用するという意味ではメリットがあります。お子さんにとって、困っている状況・つらい状態がある場合には受診するのは1つの手立てです。
特別支援学級に行けば絶対にうまくいく、というほどシンプルな話ではなく、お子さんにとってその環境が成長促進的であるかどうかはさまざまな要素の掛け合わせでもたらされるものだと感じます。花森さんや保護者の方がお子さんのためにさまざま奔走されたときに、よき支援者とつながっていけたこと、また、環境が整っていくことが適ったことは何よりだと感じます。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。