端切れからアイデア商品 泉フィルター 名張
マリンスポーツで着用するウェットスーツの生地の端切れから新しく生み出された置物やポーチ。三重県名張市瀬古口の泉フィルター株式会社の女性技術者によるアイデア商品だ。17の開発目標があるSDGsの12番は「つくる責任 つかう責任」。
同社は1983年にウェットスーツの専門メーカーとして創業した。その後、総合商社の泉株式会社(本社・大阪市)の100%子会社として現在は名張と青山(伊賀市下神戸)の2工場で、パートを中心に計40人が働いている。
同社のウェットスーツはユーザーの体型に合わせて型紙を起こして作るオーダーメイド商品。厚さ2から5ミリもあるゴム製の「原反」を熟練の女性作業者がカットし、各パーツを接着剤で接合、工業用ミシンで縫製して仕上げている。
東日本大震災でマリンスポーツのメッカだった神奈川県や千葉県の専業メーカーが大打撃を受けて業界から撤退したことや、コロナ禍でマリンスポーツ人口が減少したことで需要は急減。また、東南アジアなど海外の低価格商品の台頭もあり、高付加価値の同社商品の生産額も伸び悩んでいるという。
SDGsの目標達成が進む中、「つくる責任」の一環として、今まで捨てていたウェットスーツの端切れに従業員が注目。有効利用を始めた。
従業員の一人、福本千佳さんは「原反は黒だけでなく何十種類もの色がある。端切れの形状も皆違うので、それぞれの色と形からアイデアを出し合ってサンショウウオやパンダ、犬など動物の置物、ポーチの他、ファスナーを付けてティッシュボックスなどを考案した。大阪のおばちゃんっぽく、ヒョウ柄の模様をあしらったかばんも含め全て、他にはない一点もの」と笑顔で語る。これらの作品は、とれたて名張交流館(同市希央台)に納品し、販売されている。
「従業員が知恵を出し、作業の無駄を省きながら新しい商品を企画する努力を続けている」と工場長の清水誠さん(49)が話す通り、コロナ禍で全国的にマスクが不足していたころには、日焼け防止用に販売しているジャケットの生地を使い、自分たちで型を起こして「柄入りマスク」を生産販売した。最近では、ウェットスーツの伸縮しやすい生地の特性を生かして、高齢者のかみ砕きを補助するための「あごキャップ」を製造し、介護施設などから好評を得ている。
ウェットスーツの需要低迷に対応して同社は現在、生産の約8割を産業用集じん機に使うフィルターにシフトしている。能力を高めるために不織布をジャバラ状に加工し、成形しており、「コンパクトで取り換えが簡単なカートリッジ式フィルター」として好評。集じん機メーカーなどに納品している。
清水さんは「フィルターは工場や発電所などから出る排気を奇麗にする環境改善に役立つ商品で、SDGsの目標にも合致する。創業以来のウェットスーツの生産も大切にしつつ、このフィルターの生産に力を入れていきたい」と話している。
2024年6月8日付869号10面から