釜石が誇る「鉄の歴史」 一年の学びを発信 栗林小児童「先人の熱い思い、つなぐ」
釜石市の児童・生徒による鉄の学習発表会が9日、同市大町の市民ホールTETTOであった。同時開催された「海と希望の学園祭」(市、東京大の連携イベント)のプログラムとして実施。栗林小(同市栗林町、八木澤江利子校長、児童30人)の代表児童4人が近代製鉄の歴史や先人の思いに触れる学びの中で感じた気持ちを素直に伝えた。
世界遺産・橋野鉄鉱山が学区内にある同校では、総合的な学習として隔年で鉄の学習に取り組む。今年度は5、6年生(13人)が市世界遺産室による座学、鉄の歴史館や橋野鉄鉱山の見学などで「鉄の町」の歴史に理解を深めてきた。夏には世界遺産を有する岩手県内3地域の児童交流会が釜石であり、学びを生かしてガイド役を担当。クイズなどで分かりやすく伝える工夫をし、古里の魅力を発信、学ぶ楽しさを共有した。
一年の総まとめとして、民営釜石鉱山田中製鉄所時代の1886年に連続出銑を成功させた功労者の田中長兵衛、横山久太郎、高橋亦助らに焦点を当てた劇を作って同校の学習発表会「栗っ子祭り」(10月)で上演した。その物語のフィナーレ部分を放映し、「何度失敗しても、49回目での成功を迎えるまでの釜石の職工たちの努力や、夢に向かって諦めずに立ち向かうことの大切さを伝えられた」と成果を報告した。
発表者の中平栞愛さんと遠野姫瑠さん(ともに5年)、藤原大叶さんと小國怜義さん(同6年)は学習を通し、先人たちの心の強さや粘り強さ、目標や自分で決めたことに向かって進む姿勢が強く印象に残ったと紹介。日本の原動力になった鉄づくりの歴史が続く地域のすばらしさを改めて感じたようで、「釜石には自慢がたくさんある。頑張る人を支えたり、熱い思いを持った人がいたことも誇り。自分たちの生活にも生かし、つなげていきたい」と声を合わせた。
同発表会は例年、「鉄の記念日」(12月1日)を含む「鉄の週間」の関連イベントとして実施。今回は、同学園祭への子どもの参画促進を狙って組み込まれた。市民のほか、大学教授や日本製鉄の関係者らも聴講。終了後には、「先人たちから今に続くチャレンジを調べてくれてうれしい」「地域に伝える活動も学びの成果だ」などと感想を児童に伝えた。釜石市の高橋勝教育長は「地域資源を生かしたり、苦労しても知恵を出し合い工夫しながら学ぶことは今も同じ。考え続けていこう」と声をかけていた。
子どもたちの学習を支える市世界遺産室の森一欽室長による講話もあった。鉄の町になった要因について地質や世界との関わりなどの視点を交えて解説。日本と釜石の鉄産業の近代化にも触れ、「皆さんは何回まで失敗できますか?…数回ならいいけど、10回だったらヤバいと思いますよね。釜石では48回失敗しても、やった。そのおかげで鉄の歴史が今なお続く」と強調した。
釜石の鉄の歴史は「ストーリーとして把握し、なぜそうなったのか、自分ならどうするかを考える学び」と森室長。製鉄所や鉱山の坑道などの見学、たたら製鉄体験、鉄の検定など多彩な体験メニューで、学び考える機会を提供していることを紹介した。世界遺産やジオなどのつながりを生かした他自治体との連携事業も推進。さらに、2025年は橋野鉄鉱山を含む「明治日本の産業革命遺産」が世界遺産登録10周年を迎える。翌26年には近代製鉄の父・大島高任生誕200周年、27年は釜石鉱山発見300年と続き、周年事業を計画中。「広く釜石のことを伝え、来てもらうネタを考えていきたい」と展望した。