渓流エサ釣りはなぜ延べ竿を使うのか? 【選ばれる理由・メリット・デメリットを解説】
毎年2月1日に解禁を迎える渓流釣りの聖地・郡上を皮切りに、各河川や渓流師から「渓流釣り解禁!」の声が聞こえ始める季節となった。今回の記事では、渓流餌釣りで使用される「延べ竿」という竿についてフォーカスしてみたい。
延べ竿ってどんな竿?
延べ竿はリールを用いることなく、竿先に直接糸を結び付けて使用する昔ながらの竿だ。実際にどのような物なのか、詳しくみていこう。
シンプル構造
パッと見は「先細りの長い棒」のような見た目をしているのが延べ竿だ。
糸巻部であるリールをセットする場所はそもそも存在せず、竿先には糸を結び付けるためのリリアンや専用のトップが備え付けられている。
リールを用いないので、当然ラインを通すためのガイドも存在しない。それも相まって、収納している時は(船釣りなどで用いられる)インナーロッド(中通しロッド)にやや似た見た目をしていると言えよう。
延べ竿の素材
我が国に昔から存在する和竿(わかん)と呼ばれる延べ竿の素材には、古くから竹が用いられてきた。実に風情ある見た目で独特なしなり方をするため、現代でもタナゴやヘラ・コイ、ハゼ釣りに使用している熱心なファンも多い。一方渓流釣りでは、現在は軽くて丈夫かつしなやかさを追求した素材であるカーボン(炭素繊維)が主流となっているが、グラス素材(グラスファイバーと樹脂)の物も存在している。
様々な長さ
延べ竿は竿の長さが仕掛けの長さに直結するため、タナゴやテナガエビ釣り用の数十センチの物から、本流・アユ釣り用の10mを超えるものまで、釣り方・川幅に合わせて実に多様な長さが存在する。このうち、渓流釣りで使用される物は4m~6m程度が一般的だ。
渓流餌釣りでは何故延べ竿なのか
では何故、渓流餌釣りではリール竿を使用せずに延べ竿を使用するのか。その理由をみていこう。
仕掛けを自然に流すため
渓流釣りでは川のサイドに立ち、上流側に仕掛けを投入した後、流れを読みながら竿を下流側に動かす事で、川の中を自然にエサが漂ってきたように見せる(流す)のが基本となる。この動作を行う際は、リールが得意とする「近くに寄せてくる動き」は不要となる。ほぼ「真横に流す」様なイメージが近いので、リールは必要ない・・・という訳だ。
軽い仕掛けを操作
渓流釣りではエサをより自然に流すため、非常に軽いガン玉を使用する機会も多い。ちなみに、G5サイズのガン玉(ジンタン)の重さは僅か0.17gしかない。これを5mクラスの竿で操作する場合、リール竿よりも構造がシンプルな延べ竿の方が圧倒的に楽と言えよう。
竿自体が軽量化されている
渓流釣りでは1日に何度も仕掛けを振り込み、長尺な竿を腕で支えて仕掛けを流すため、昨今の竿は大変軽く作られている。リールやガイドが無い分、同じ長さであってもリール竿より圧倒的に軽い。
長い理由は?
海釣りの竿と比べて、渓流竿は長い物が多い。これは先述したように、竿の長さが仕掛けの長さ・リーチに直結するためで、川幅に合わせると必然的に長くなっていく…という側面が大きい。また、対象となる渓魚達は大変警戒心が強いので、やや離れたところからアプローチするためとも言える。
延べ竿のメリット
ここからは、延べ竿を使用する上でのメリットをみていこう。
引きがダイレクト
竿先に直接ラインを結び付けるという構造上、魚が引っ張ると竿がしなる、という非常にシンプルな構図が出来上がる。そのため、魚の引きをダイレクトに感じられるのだ。まさにごまかしが一切存在しない「魚との綱引き」なのだが、これが延べ竿最大のメリットであり魅力と言えるだろう。渓魚は流れの速い場所に棲んでおり、上流に向かって遡上する習性があるので、その引きは強烈だ。
長さ調節機構
渓流で使用される延べ竿の多くは、通称「ズーム」と言われる「長さ調整機構」が備わっている。これにより、釣り場(川幅)の広さ・頭上の木の有無等で、竿自体の長さを調整することが出来るのだ。
操作性
例え大変軽い仕掛けであっても、延べ竿の扱いに慣れてしまえば、竿の反発を利用して竿の長さ分近くまで仕掛けを飛ばすことが出来る。また、シンプルな機構故に竿を僅かに動かすだけで、流速や水深に合わせるといった繊細な釣りが可能となる。初心者の場合であれば、リールが無い分複雑な動作が無く、すぐに釣りを楽しむことが出来るのも魅力だ。
セッティングが速い
竿先に仕掛けを結ぶだけという実に単純な構造なので、仕掛けを用意しておき結び方を覚えていれば、すぐに釣りを開始できる。ガイドへの糸絡み・通し忘れのようなトラブルも当然無い。
コンパクト
6mを超す竿であっても、仕舞寸法は60cmに満たないものも多い。これは「山の中で釣りをする」「釣り歩く(川の中を遡行する)」ために携行性を求めた結果なのだが、収納時に場所を取らないのは、自宅で釣り具を管理するアングラーにとってありがたいポイントなのではないだろうか。
延べ竿のデメリット
ここまで見て頂くとメリットばかりのように感じるが、多少のデメリットも存在する。順にみていこう。
ライン調整が出来ない
リールが無く竿先にラインが結び付けられているため、魚の引きに合わせてラインを出す、といった所謂「ドラグ調整」的な行為は一切行えない。そのため、竿のポテンシャルと釣り人の腕が試されることになる。投入点も「自分の立ち位置から竿+仕掛けの長さ分」に限られてくるため、細目に立ち位置を変える必要がある。時に魚が掛かった後に、川辺を走り回る事もあるだろう…!
重さ
リールが無い分、竿の長さ(+-20cm程度)が仕掛け全長となるため、川幅が広い場所では長尺の竿が必要となる。いくら昨今の竿は軽量化されているとはいえ、6mを超えると風の抵抗も相まって相当な重さだ。こうなってくると、ある程度の筋力と両腕での支えが必要となる。著者の経験上、片腕で支えた状態で普通の釣りが出来るのは、6mクラス・150g程度の竿までだ。
価格
当然ながら、竿は長ければ長いほど重さが増していく。高級竿になるほどその重量は軽くなるのだが、価格は1本数万円~数十万円と、驚くような額になる事も少なくない。この辺りはフトコロ事情と相談してほしい。
深い場所での対応
竿の長さを超すような水深がある場所は、当然対応しにくい。が、渓流ではそれほど深い場所を釣る機会は少ないので、これはそれほど大きなデメリットではないと言えそうだ。
自分の釣り方に合った延べ竿を!
著者は近年渓流釣りがメインの釣り師だが、子供の頃から海・川問わず延べ竿を使用する釣りに親しんできた。4m程度であれば大変軽い物も存在し、構造がシンプルな分、子供であっても大変扱いやすい。そういった点で延べ竿は、ビギナーから玄人まで楽しめる竿と言える。
魚信が手元にダイレクトに伝わるあの感触は、延べ竿でしか体験できない素晴らしいものなので、是非一度延べ竿を持って渓流に出かけてみてほしい。その先にはきっと感動が待っているはずだ。
<荻野祐樹/TSURINEWSライター>