【静岡市東海道広重美術館の企画展「タテ派 vs ヨコ派」】 縦構図の「五十三次名所圖會」は富士山が頻出
静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は静岡市清水区の静岡市東海道広重美術館で開かれている企画展「タテ派 vs ヨコ派」を題材に。
NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」の影響もあろうか。広重美術館には多くの人が集まっていた。江戸時代の「出版プロデューサー」として多くの浮世絵師を世に送り出した蔦重は1797年に亡くなった。
歌川広重はくしくもその年に生まれた。ちなみに歌川国芳と同年である。広重と蔦重の接点はどんなだろう、と思って訪れたが、館内の年表で二人は「すれ違い」だったと知った。
企画展は同館所蔵の東海道を描いた二つの揃物(作品)を宿ごとに見比べる。縦構図の「五十三次名所圖會」と横判の「東海道」(蔦屋版東海道)。日本橋を出発点に現在の東京都、神奈川県を抜け、静岡県の袋井宿まで。
浮世絵にはさまざまなモチーフがあるが、風景画は横の構図が多いようだ。確かに縦の構図といえば、役者絵や美人画のイメージがある。「五十三次名所圖會」の縦に切り取られた五十三次の風景はとても新鮮だ。映画で言えば、画角が縦に広いIMAXシアターで鑑賞している気分に近い。
遠景の情報をたくさん入れ込めるから、山の描写が多くなる。必然的に富士山の登場頻度が高い。1枚目の「日本橋」では、夜の明けきらない空の下、シルエットに近い形で富士山の形が浮かび上がる。
また、全体的に目の位置が高い。「東海道」よりも「神の目線」の度合いが強い、と言うと言い過ぎか。面白いのは、静岡県内に入ると目の位置がグラウンドレベルに下がるところ。「三島」では三島大社の鳥居を左に置き、右には2階建ての旅籠屋が並んでいる。2階から身を乗り出す男女を下から見上げる構図だ。
次の「沼津」は雪景色の中、みのを着た二人が黄瀬川にかかる板橋をわたる場面。続く「原」「吉原」も地上から描写する。ところが「蒲原」「由井」ではまた目の位置が上がる。ここから先は仮設でしかないが、富士山との距離が関係しているのではないか。広重か版元かは分からないが「富士山を入れ込みたい」という要請が、こうした目の位置の変化をもたらしているような気がする。
日本橋~袋井の展示は2月24日で終了。2月26日から見附~京の作品が展示される。
(は)
<DATA>
■静岡市東海道広重美術館「タテ派 vs ヨコ派」
住所:静岡市清水区由比297-1
開館:午前9時~午後5時(月曜休館、祝日の場合は翌日休館)
観覧料(当日):一般520円、大学生・高校生310円、小中学生130円
会期:3月30 日(日)まで