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柿澤勇人×矢崎広インタビュー 芝居を愛する二人がWキャストでタッグを組む、ミュージカル『ボニー&クライド』

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(左から)柿澤勇人、矢崎広

1930年代に実在したアメリカのギャングカップル、クライド・バロウとボニー・パーカーの生き様を描いたミュージカル『ボニー&クライド』が、2025年春に上演される。

史実を基に『Bonnie and Clyde』(邦題『俺たちに明日はない』)として1967年に映画化もされ、衝撃のラストシーンは世界中で話題を呼んだ。フランク・ワイルドホーンが音楽を手掛けたミュージカル版は2011年にブロードウェイで世界初演を果たし、その後上演を重ねながらブラッシュアップを経て今に至る。

本作のビジュアル撮影が行われた某日、クライド役Wキャストを務める柿澤勇人と矢崎広に話を聴いた。共に多方面で活躍する二人の根底には、俳優としての芝居への確かな愛が感じられた。

意外な場所での出会い

ーーお二人の最初の出会いはいつですか?

矢崎:映画『すくってごらん』の撮影ですね。本読みのときにお会いして、お話ししたのは撮影現場だったと思います。

柿澤:奈良で2週間くらいずっと撮影をしていて、みんなで飲みに行ってめちゃくちゃ楽しかったのを覚えています(笑)。座長の(尾上)松也くんが撮影中もすごく盛り上げてくれたんですよ。

ーー当時のお互いの印象を教えてください。

柿澤:すごく芝居のことを考えている方だなあという印象です。矢崎くんはどのジャンルでもしっかりとお仕事されているので頼もしいですね。映画では同じシーンはほぼなかったのですが、今回はWキャストとして一緒に頑張りたいなと、楽しみにしています。

矢崎:僕はまるでファンのように「カッキーだ!」という感じで見ていました(笑)。映像の現場で一緒になるとは思っていなかったので、貴重な機会でしたね。お仕事でご一緒するのはそれ以来になります。今回こういう座組でまさか同じ役をやるとは思っていなかったので驚きましたが、カッキーの胸も肩も借りながら頑張りたいと思っています。

ーークライド役として『ボニー&クライド』に出演するにあたって、今どんな想いですか?

矢崎:シアタークリエで主演するのは初めてなので、僕はチャレンジャーな気持ちです。ついにここまで来たなという想いもあるので、その気持ちに負けずに作品を楽しめていけたらいいなと思います。

柿澤:僕にとって、シアタークリエに立つのはミュージカル『ラディアント・ベイビー ~キース・ヘリングの生涯~』の公演中に怪我をしてしまった時以来なんです。今回、いい思い出に塗り替えたいという想いが個人的にはありますね。ワイルドホーンの楽曲はキャッチーでパワフルな曲が多いので、そこも楽しみです。

(左から)柿澤勇人、矢崎広


ワイルドホーンの楽曲とどう向き合っていくか

ーーお二人共ワイルドホーン作品のご経験がありますが、改めて挑戦されることについてどう思われていますか?

柿澤:これまでワイルドホーン作品は『アリス・イン・ワンダーランド』『デスノート The Musical』『ジキル&ハイド』なので、今回で4作目になります。ワイルドホーンの曲は本っ当に疲れるんですよ(笑)。キーも高いし、叫ぶし、1曲1曲がすごくハイカロリー。そういう曲が1作品で何曲もあるんです。僕が「めっちゃしんどい」と言うと、ワイルドホーンは「それが正解だ」って言うんですよ。「イグゾースト(くたくた)の状態になるように僕は曲を書いているから」って。それくらい俳優に課している部分が大きいから、ラクに歌える曲じゃないんだと。だから今回も大変なことになるんじゃないかなって、本当に恐れています(苦笑)。

ーー柿澤さんは『デスノート The Musical』のとき既に「クライド役をやらないか」とワイルドホーンさんからラブコールを受けていたそうですね。

柿澤:『デスノート The Musical』も主人公が犯罪を犯しますから、そこでリンクしたのかもしれませんね(笑)。『ジキル&ハイド』の公演中も“クライド”と呼ばれていて、でもそのとき僕は「疲れる作品にはもう二度と出たくないよ」って冗談で言っていたんですけどね(笑)。

ーー矢崎さんは『ドラキュラ』や『スカーレット・ピンパーネル』でワイルドホーン作品を経験されていますが、いかがでしたか?

矢崎:カッキーが言うとおり、楽曲やばいですよ(笑)。そういう意味でも僕にとって今回はチャレンジなんです。ワイルドホーンさんの楽曲とどう向き合っていくかというのは役者としてひとつの課題。1、2公演だったら頑張れるかもしれないけれど、長い公演を続けていくためにどう向き合っていくかを考えていかないといけませんね。

ーーワイルドホーンさんとのエピソードはありますか?

矢崎:御本人はすごく気さくで役者にも寄り添ってくれる方です。彼から声もかけてくれるし、話しに行けばあたたかく対応してくれる人。僕はあまり出会ったことがないおおらかなオーラを持った作曲家さんという印象です。『ドラキュラ』も『スカーレット・ピンパーネル』も本当にすべて素晴らしくて、今でも家で口ずさんでしまうような曲ばかり。日本人の琴線に触れる素晴らしい曲を書かれる方ですね。大好きな作曲家さんです。

柿澤:彼は楽譜通りに歌うことがすべてという作曲家じゃないんです。例えば「ここはフェイクでもっと上のキーにいきたいなら全然いっていい」と。作曲家によっては一音も変えないでという人もいると思いますが、ワイルドホーンは俳優の心の動きに従って歌ってほしいというタイプ。歌唱指導の先生にも「楽譜通りにやらなくていいから」と話していたのを覚えています。歌う方としてはリスクを取りたくないと思う時もあるんですが、そういうのはあまり許してくれないイメージがありますね。

「犯罪者ではあるけれど、決してそれ一色にはなりたくない」(柿澤)

ーー作品そのものの印象も聞かせてください。

矢崎:まず史実の物語がある中で、このミュージカルではボニーとクライドがなぜそうなってしまったのかというところに焦点を当てているんです。なので時代背景も含めて勉強しつつ表現していきたいなと考えています。ミュージカルとしては本当にキャッチーな曲が多くて、明るく楽しんでいただけるナンバーもたくさんあります。その辺りのバランスがすごく難しいなと思いながら台本を読ませてもらいました。クライドもボニーもいろいろあって、時代に揉まれた彼らが唯一わかり合えている部分があって、それが恋なのか、愛なのか、それともそれ以上のものなのか……みたいなところを表現していけたらいいなあと。

柿澤:僕は映画を観たんですけれど、映画では二人がなぜその道を歩んだのかという背景はあまり描かれていなかったんです。ものすごくセンセーショナルな作品だったんだろうなと感じましたし、動物的というか、男女のエネルギーみたいなものがとても印象的でした。この映画をミュージカルにするのは難しいところもあるんじゃないかなと思っていたんですけど、映画をそのままミュージカル化しているわけではないですしね。

(左から)矢崎広、柿澤勇人

矢崎:映画を基に、さらに史実の出来事を入れているんだと思います。

柿澤:登場人物のパーソナルなことも描いているよね。映画だといきなり出会ってキスして強盗しよう! みたいな印象(笑)。

矢崎:舞台ではボニーとクライドが出会ったあとに、クライドが刑務所に入るところも描かれているんです。そこでの出来事がクライドにとって大事なポイント。そこで、大ナンバーがやってきます。しかもこの大ナンバー、割と何回も歌います。

柿澤:頑張らないとなあ〜!

ーー現段階で、ご自身が演じるクライドという役柄をどう捉えていらっしゃいますか?

矢崎:1930年代の世界恐慌の時代のアメリカ南部、大勢の人が職を一斉に失っていく中で7人兄弟の5番目に生まれたのがクライド。テント生活をしていたような時期もあるくらい貧しくて、ろくに教育も受けていない。今でいうめちゃくちゃ不良のアウトローですね。海軍に入るという夢も持っていたらしいのですが、それまでの生活のこともあり健康診断で引っかかって叶えることができなかったんです。それで拍車がかかってどんどん悪に目覚めていく。彼なりにちゃんと生きようとしていたのに、時代や世の中のせいで真っ当に進むことができなかった。だから世の中への不満がすごく溜まっているんでしょうね。なんで俺はこんな運命なんだ、と。ただのならず者じゃなくて、何に対して怒っているのかをクライドと向き合いながら一つひとつ理解していきたいなと思っています。

柿澤:僕、矢崎くんからすごく勉強させてもらっている感じになっています(笑)。僕は映画の印象が強いんですけど、セクシーでワイルドで男らしい人。犯罪が好きでやりまくっているわけじゃなく、何か抱えているものもある。一方で茶目っ気もあって、人を自然と引き寄せていっちゃうような魅力も持ち合わせている。ひとりの男として憧れのようなものはありますね。犯罪者ではあるけれど、決してそれ一色にはなりたくないなと思っています。

矢崎:めちゃくちゃカッキーで想像できる役ですよ。

柿澤:なんで僕、犯罪系なんだろう(笑)。顔ですかね?(苦笑)

ーーワイルドホーンさんからも“クライド”と呼ばれていたくらいですしね。

矢崎:それがすべてな気がする(笑)。

(左から)柿澤勇人、矢崎広


頼りになるカンパニーの仲間たち

ーークライドにとって相手役となるボニーの存在はどう捉えていますか?

矢崎:実はボニーって、クライドになびかなそうな生い立ちなんですよ。勉強も頑張っていて真面目で大人しくて、女優を夢見る女の子だったんです。そんなボニーがクライドと出会い、何か惹かれるものがあって恋に落ちる。クライドにとってボニーは、自分にはない洗練されたものを持っている女性だったのかなと思います。どうしようもない人生を送ってきた自分を癒やしてくれるような妹であり、姉であり、母親のように感じていたんじゃないかなって。現段階での予想ですけどね。

柿澤:映画冒頭のちょっと気だるそうなあの表情がすごく印象に残っていて。クライドと出会った瞬間にパズルのピースが合致するような感じも含めて、とても動物的だなと思ったんです。肌が触れ合った瞬間、同じ空気を吸った瞬間に一気に同じベクトルへ向かっていくような。言葉では説明できないシンパシーがあったから、二人は運命共同体になっちゃったんじゃないかなって。今回は桜井玲香さんと海乃美月さんがボニー役(Wキャスト)ですが、二人の印象は全く違うので、きっと個性の異なるボニーになるんじゃないかなと楽しみにしています。

ーークライドのお兄さんであるバック役の小西遼生さんとは、どちらもご縁がありますね。

矢崎:今まで共演したこにたん(小西さん)は真面目な役が多かったので、はしゃいでいる姿が想像できないんです(笑)。バックはバロウギャングとしてクライドと「イエーイ!」ってはしゃいでいるイメージがあるので、そんなこにたんを一番近くで見れるのが楽しみ(笑)。それに、こにたんは舞台俳優の道を開拓してきてくれたイメージもあり、きっと僕よりも先にいろんな大変な思いをしてきたんだろうなあって。相談にも乗ってくれる頼もしい存在なので、今回お兄ちゃん役としていてくれるのは心強いですね。

柿澤:頼もしいですよね。何と言っても“芝居バカ”ですし。稽古のときはどうやったらうまくいくのかをすごく考える人。共演した『フランケンシュタイン』のときもそうでしたね。すごく頼もしい。稽古や本番のあとに飲みに行くと、単なるバカになっちゃうところもまたかわいらしいんです(笑)。かっこいいし、キレイだし、お茶目なところや飲んでバカになっちゃうところとか、いろんな面を持っていますよね。今回も一緒に作品を楽しみながらつくりたいです。

ーー今回は新演出ということで、瀬戸山美咲さんが演出を務められます。

柿澤:僕は初めましてになりますが、とても楽しみです。稽古場ではまっさらな状態で会って、いい出会いになるといいなあと。稽古も本番も長いですから、その中でお話ししながらお互いに腹を割って話せるようになったらいいなと思います。

矢崎:僕は10年ぶりくらい。芝居はがむしゃらに頑張れば結果がついてくると思っていた20代前半の頃(笑)、『アルテノのパン』という作品で、瀬戸山さん自身も演出家としてやっていこうと力を入れていくタイミングだったと思います。物腰が柔らかい方で、でも言いたいことも伝えてくれるし、セッションもしてくださるありがたい演出家さんでしたね。今回のカンパニーにインティマシーコーディネーター(※)が入っているところも、瀬戸山さんの現場っぽいなと思うんです。周りを見て役者のケアも考えてくださる方だと思うので、久しぶりにお会いするのが楽しみです。

(※)主に映像の現場において、ヌードや性的描写があった際に俳優が安心・安全に演じることができるよう、制作と俳優の間に入ってコーディネートするスタッフ

(左から)柿澤勇人、矢崎広


「歌と芝居がもっと一体になってほしいという願いがある」(矢崎)

ーーお二人共、最近は映像やストレートプレイでのご活躍が続いていたので久しぶりのミュージカルになりますね。

柿澤:僕は芝居や表現そのものが好きなので、ミュージカル一色になりたくないんです。矢崎くんもミュージカルだけではなく映像やストレートプレイにも出るので、彼が同じジャンルの仕事をしているのは刺激になります。そういえば去年、韓国の俳優ヤン・ジュンモさんが日本にいらっしゃったときにワークショップを開催していたんです。そこに矢崎くんもいたんですよ。ワークショップというのは、少しでもステップアップしたいという向上心があるから受けるんです。映画で共演したときにも感じましたが、矢崎くんとは同じ匂いがするなあって。今回一緒に仕事ができるのはすごく嬉しいし、勉強になると思います。

矢崎:なんだか意図せず褒められてちょっと嬉しいです(笑)。僕こそ、例えば仕事を選ぶときに「カッキーだったらどうするかな」ってよく考えるんですよ。

ーーお二人は同い年(1987年生まれ)ですしね。

矢崎:らしいですね。

柿澤:え、そうなんだ!? じゃあなんで“カッキーさん”って呼んでたの!?(笑)

矢崎:僕より先にいろいろやられているから、最初はてっきり先輩だと思っていて(笑)。映画で共演したときも松也さんとすごく親しく話していたから、松也さんくらいなのかなって。あとから同い年だって気付いたけれど、だからといって僕のカッキーへの尊敬の念は変わりません。

今、舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』という作品に出演しているのですが、そこにはいろんなジャンルの方が集まっています。そういうとき、“自分は何を大事にしているのか”ということに向き合う瞬間があるんですね。そこで僕は「心を動かして行動したい」「芝居としてすべてを見てもらいたい」という想いが強くなってきたんです。ミュージカルはもちろん歌が大事ですが、歌と芝居をもっと一体にしたいという気持ちがあります。

柿澤:映像だろうとストレートプレイだろうと、根本は一緒だと僕は思います。ただミュージカルとなると、どうしても歌の技術が絶対に必要なんです。でもやっぱり“何で歌うのか”というのが一番大事なところだと思います。そういうところで僕らは繋がっているんじゃないかな。

ーーお話をうかがっていると、お二人の仕事に対する想いには通ずるものがありますね。

矢崎:カッキーはジャンルに囚われていないんですよね。どのジャンルでも第一線の力を発揮して活躍しているところを尊敬していますし、それは僕が本来目指しているところでもあるんです。オールラウンダーとしていろんな現場で楽しく仕事をしていきたいなと思っているのですが、カッキーはそれを真っ先に実行して道を切り開いてくれる俳優なんですよ。

柿澤:できているかどうかはわからないけれど、それがまさに目指しているところです。ジャンルに囚われずどれも面白くやっている人ってかっこいいし、理想ですね。こうして同じ想いを持つ同世代の俳優もなかなかいないので、今回一緒にクライド役に挑めるのを楽しみにしています。

(左から)柿澤勇人、矢崎広

取材・文 = 松村 蘭(らんねえ)     撮影=中田智章

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