伝統、世代、思いつなぐ「釜石まつり」 神輿・曳き船 勇壮、華やかに練る
釜石市の尾崎神社(浜町)と日本製鉄北日本製鉄所釜石地区山神社(桜木町)合同の「釜石まつり」(同実行委主催)は17日から3日間にわたって行われ、秋の気配を感じるまちに華やかな色彩を加えた。18日は呼び物の「曳(ひ)き船まつり」が釜石湾内で繰り広げられ、最終19日は神輿(みこし)が市中心部を練り歩いた。沿道は多くの見物人でにぎわい、主催者によると、18、19の2日間で約1万3000人の人出があった。
曳き船まつりは、尾崎神社の神輿が海上を渡御する伝統神事。尾崎半島青出浜の同神社奥宮で神輿にご神体を迎えた16隻の船団が港に戻ると、神楽や虎舞などの郷土芸能団体が威勢のいいかけ声、太鼓や笛の音を響かせ歓迎した。色鮮やかな大漁旗を掲げた船団は湾内を3周。海上安全や豊漁などを祈願した。
釜石市出身でまつり見物のため里帰りした静岡県在住の德原まりのさん(31)は「おはやしを聞けば胸が高鳴る」と楽しむ。子どもの頃、南部藩壽松院年行司支配太神楽のメンバーとしてまつりに参加していたといい、「海から見ていた景色を初めて浜から見た。新鮮だった」とにっこり。夫正伸さん(34)や2人の子どもたちは初見で、「船が(海上を)練り歩くのに感動した」と、目を大きくした。
昨年は悪天候で中止になったため2年ぶりの開催だった。今年は乗船する人数が限られ、芸能団体の演舞はおはやしが中心となり、「寂しいな」との声も。それでも、まつりは人が集まるきっかけにもなり、市内の野澤晴美さん(58)は「子や孫と3世代で楽しめた。また来年も」と願った。
合同神輿渡御には郷土芸能15団体を含む約1500人が参加。鈴子町のシープラザ釜石西側駐車場で合同祭の神事を行った後、魚河岸までの目抜き通りを2基の神輿が練り歩いた。先導した各団体が、途中の「御旅所」や大町のお祭り広場で神楽や虎舞、鹿踊りなどを披露。沿道の見物客から盛んな拍手を受けた。
大町から只越町の目抜き通りで、2基の神輿は並んでゆっくりと進んだ。出迎えた市民らはさい銭をあげて神輿に手を合わせ、地域の守り神に感謝。80代の女性はこれまで子どもの成長や地域の安寧などを願ってきたというが、今年は自身の思いを祈りに込めた。「来年も(守り神に)会えるよう、元気でいるから」。神輿を見送り、「歳をとると一年は貴重なの」と柔らかな笑顔を見せた。
尾崎神社の神輿担ぎ手団体「輿衆(よしゅう)会」は、近隣の大槌町などからの助っ人と声を合わせ六角大神輿を担ぎ上げた。メンバーで岩手県職員の伊藤満さん(49)=大船渡市在住=は「重みが肩にずっしり。大変だけど、みんなで力を合わせられるのがいい」と笑みをこぼす。東日本大震災前に当時の会長から誘われ参加し、「何となく担いでいた」。その人は震災の津波で帰らぬ人に。まつり継続への思いを引き継ぎ、「地域振興につながるよう、できることを続ける」と熱を込めた。
釜石製鉄所に勤務する村上洋平さん(27)は「歴史あるまつりを継承する一役を担う」と気持ちを込め、山神社の神輿を肩にのせた。釜石シーウェイブス(SW)RFCに所属するラグビー選手でもあり、チームメート7人とともに参加。3カ月前に合流したオーストラリア出身のルル・パエアさん(22)ら海外出身選手が「新鮮で、めっちゃおもしろい」と楽しむ様子を見つめ、「日本の伝統文化に触れ、地域になじんでもらえたら」と期待する。声を出しチームを盛り上げるスクラムハーフ(SH)の村上さん。「勝利へエナジー、パッションを与えていく」と顔を上げた。
さい銭を首から下げ、まつり行列に参加した二村沙羅さん(22)は、神奈川県在住の大学生。「ありがとうございます」と言葉を交わし、見物人と交流した。釜石市のお試し移住制度を活用し滞在中で、地元とは違った文化に触れる機会を満喫。「若い人たちが声を出して盛り上げているのがいい。朝から活動ができ、健康的な生活ができる」と、街の印象を話した。
行列が魚市場御旅所に到着すると、神楽、虎舞の6団体が最後の踊りを奉納。尾崎神社の神輿はご神体を奥宮にかえすため船にのせられ、各団体がはやし立てる中、岸壁を離れた。見送りは船が見えなくなるまで続いた。