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「空気神社」で「空気まつり」開催。ご神体「空気」を御開帳する年に一度の神秘!【山形県朝日町】

ローカリティ!

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山形県朝日町にある「空気神社」で今月初め、空気への感謝を込めた年に一度の「空気まつり」が3日間に渡って開催された。神社の本殿が公開される貴重な機会とあって、県内外から多くの来場者が訪れた。“見えない神”を祭る世界でも類を見ないこの神社で、人々は自然の尊さと、空気のありがたみを五感で味わった。

 朝日町は、人口約6,300人。日本百名山のひとつ、大朝日岳(1,870メートル)をはじめとする山々に囲まれた自然豊かな町だ。同町では6月5日の「世界環境デー」を「朝日町空気の日」と定め、空気神社の本殿を一般に公開するなど、自然との共生を感じられる行事が毎年行われている。

筆者が訪れたのは8日。梅雨入り前の爽やかな空気が漂う会場には、県内のみならず、宮城や福島など他県からの車も数多く並んでいた。目に見えない「空気」を祭るという一風変わった発想に大いに好奇心をそそられた。だが、参道に一歩足を踏み入れた瞬間、その澄んだ空気に思わず深呼吸したくなる──そんな感覚に包まれた。

空気神社は、「空気とそれを生み出す自然に感謝を」という願いのもと、町民の白川千代雄氏が1973年に提唱し、地域の寄付によって1990年に建立された。空気神社は環境をテーマにしたモニュメントで宗教法人ではないが、本殿は地下にあり、地上には青空や森を映し出す5メートル四方のステンレス鏡板が静かに佇む。周囲の自然と溶け合う姿は、まさに“空気そのもの”を象徴している。2018年、韓国・ソウルで催された世界空気フォーラムで、朝日町は「空気神社建立など環境保全を目指した活動を推進した」として、「グッドエアーシティ認定書」を授与されている。

神社の参道は徒歩約10分。エアーピローで作られた空気鳥居をくぐり、ブナやナラの林に囲まれた参道を進むと「木・火・土・金・水」の五行を象徴するモニュメントが並んでいた。空気があらゆる要素をつなぐ存在であることを視覚的に表現している。歩くだけでも自然哲学の世界に触れるような、奥深い時間だ。

空気まつりでは、神事とともに、町のにぎわいも共存。鏡面板の上では、地元の小学生が巫女(みこ)装束で「みこの舞」を奉納し、幻想的な雰囲気を演出。

まつりの会場では御朱印や特製手ぬぐいの販売のほか、茶会、エコ体験、チェーンソーアートなどが開催され、家族連れの笑顔があふれていた。空気を封じた風船“エアーピロー”の無料配布も、遊び心にあふれた演出だ。

巫女の舞のあと、筆者は鏡板の下にある本殿へ。はしごを伝い、3メートル下の神域へと降り立つと、四季を象徴する4本の柱と、1月から12月の空気を封じた素焼きの甕(かめ)が整然と並んでいた。四方に張られたしめ縄は「空気に正面はない」という思想を表し、どの方向からでも参拝できるつくりになっている。

、本殿での参拝方法も独特だ。二礼、四季を表す4回のかしわ手、そして両手をV字に広げて空を仰ぎながら深呼吸──最後に一礼。この“V字深呼吸”こそが空気神社の象徴的作法であり、胸いっぱいに森の空気を吸い込むことで、心まで透き通っていくような感覚を覚える。

あいにく長くは滞在できなかったが、空気神社の本殿は「空気まつり」のときしか入れない特別な場所。その不思議な空気感が心残った。

特に印象的だったのは、訪れた人々が皆、自然と天を仰ぎ、空気に意識を向けていたこと。普段は無意識に行っている呼吸が、この場では尊い儀式のように感じられる。空気は見えない。でも、確かにそこにある──その工夫が随所に施されていて、五感で感じさせてくれる場所がここにはあった。

さらに、町の人々の温かさも忘れがたい。子どもたちが舞を捧げ、大人たちが心を込めて迎える姿に、このまつりが単なる観光イベントではなく、「町の誇り」であることを実感した。空気神社は、朝日町に生きる人々の思いを未来へつなぐ場所なのだ。

もしもこの記事を読んで「空気を神とするなんて奇妙だ」と思ったなら、ぜひ一度、朝日町に足を運んでみてほしい。目に見えないけれど、たしかにそこにある「恵み」に、きっと気づけるはずだ。

参考:広報あさひまち(2018年11月号)

昆愛

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