自閉症息子、私立中学に進学。校長の「障害があっても特別扱いはしない」に衝撃…!?
監修:鈴木直光
筑波こどものこころクリニック院長
地域の小学校からただ一人、遠くの中学校に入学
わが家のASD(自閉スペクトラム症)息子タケルは、中学受験をして、少し遠くの静かな山の上の中高一貫校に進学しました。私たちの住んでいた地域では、中学受験は一般的ではなく、小学校からその中学に進学したのもタケルただ一人です。
知り合いが一人もいない新しい環境でのスタートとなったため、最初はなかなかクラスに馴染めず、親しい友達をつくることもなかったようです。
ただ、本人はあまりそのことを気にしているようではありませんでした。「みんな勉強が好きだから、あんまり余計なことしないんだよ。騒がしくする人もいないし楽だ」と言って、毎朝片道2時間の道のりを喜々として通い続けました。
校長先生に「特別扱いはしない」と言われ……
入学式で忘れられない出来事がありました。
小学生の頃は動きがガチャガチャとしていた息子も、中学に入学するころには1時間ほどであれば大人しく座っていられるようになっていました。滞りなく入学式を終え、会場から出るとき、夫が校長先生を見つけました。
「挨拶をしておこう」と夫が言い、追いかけて名前を名乗ると……
にこりともせず、「タケル君のご両親ですね。本人から聞きました。発達障害だそうですね」と言われました。そして、障害があるからと言って特別扱いはしないとはっきりと言われてしまいました。
校長先生が、既に息子と個別に言葉を交わしていたことにも驚きましたが、その遠慮のない言い方にも驚きました。
もしかしたら、障害があることで、既に問題視されていたのか……?
せっかく入った学校だけど、すぐやめることになるかもしれないな……
と、その時は思ったのですが……
「特別扱いはしない」が、「できる限りのことはする」と言っていただきました。
その言葉は本当で、息子が学校で具合が悪くなった時に家まで送ってくれたり、パニックを起こして授業を聞いていなかった時に後日もう一度同じ授業をしてくれたりと、信じられない手厚さで接してくれました。そして、それはほかの生徒さんにも同じだったのです。
そういえば、地元の書店で販売されている学校案内には「大事に育てられた子どもを大事に育てる学校」と評されていました。実際に通ってみて、本当にそうだったなと思ったものです。
「文字って手で書かなくてもいいんだ!」タケル小説を書く
タケルが中学で友達をつくるきっかけとなったのは、趣味で小説を書いている人たちと出会ったことでした。息子はもともと読書が好きで、ライトノベルなどもよく読んでいましたが、自分で文章を書くことには苦手意識を持っていました。
しかし、中学に入ってすぐパソコンでレポートをつくる授業があったことをきっかけに、「文字を手で書かなくてもいいんだ!」と気づき、携帯電話でプチプチとショートショート(短い小説)を書くようになりました。
どうもそれまで「パソコンで文章を書いていいのは大人だけ」と思っていたようです。うちでは家族の誰もが使っていいパソコンがあり、タケルもブラウザゲームなどはしていたので、なぜそういう思い込みを持ったのかは分かりませんが……。
最初は短い文章から始めた息子ですが、少しずつ長い作品にも挑戦するようになり、学校の小説を書いている人たちとも親しくなったようです。
すぐにお小遣いをつぎ込み、書くことに特化した「デジタルメモ」を購入、夏休みになるころには「友達と一緒に学校に文芸部をつくる」と言いだし、一緒に活動する仲間とリレー小説を書き始めました。
文芸部をつくる方は人数が集まらず頓挫しましたが、リレー小説の方は高校を卒業するまで続きました。この経験を通じて、息子は文章を書くことだけでなく、他人と協力して何かをすることの面白さを知ることができたように思います。
その時の友達とは今でも親交があり、時折チャットなどで話している様子を見かけます。
ラッキーが重なった中学、高校時代
息子が通っていた中高一貫校は、難関大学を目指す生徒が多く在籍している学校であり、生徒の保護者にも医療従事者や教育関係者が多く、比較的「発達障害」についての知識や理解を得やすい環境でした。
私としては、「このまま小学校と同じ校区の中学校に通ってもタケルの好きな勉強はできないだろうから、本人がやる気なら受験してみればいいだろう。辞めることになってもそれで元々だ」ぐらいの感覚で受けた学校で、全てを意図していたわけではありませんでしたが、結果的には大変良い選択になりました。
息子が迷惑をかけたり、また余分な仕事が増えたという先生方もいらっしゃったことでしょう。周囲で息子の成長を支えてくださった皆さんには、もう100回土下座しても足りません。
偶然と教育環境に恵まれ、息子は幸せな学校生活を送ることができたと思います。
執筆/寺島ヒロ
(監修:鈴木先生より)
知的障害のないASD(自閉スペクトラム症)のお子さんの場合、中学受験で中高一貫校に入るケースもよく見られます。また、知的障害がない場合診断が出ていないお子さんもいるでしょう。
学校の方針とお子さんの相性が合えば、学力も伸びて希望の大学に進み、希望の仕事に就ける可能性があります。一方で、ASDの特性などによって、職場が合わない環境の場合には苦労する可能性もあります。上司や同僚など、周りの人的な環境が今後重要になってきます。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。