関係人口が紡ぐ、地域とWeb3の未来
現在、日本の多くの地域で人口減少、高齢化、若者の流出といった課題が一層深刻化しています。その象徴的な例として、全国1,729の自治体のうち約4割にあたる744の自治体が「消滅可能性自治体」とされ、消滅の危機に直面しています。このデータが示すのは、「地域存続の危機がいよいよ現実的な問題となりつつある」ということかと思います。ただの未来の懸念ではなく、現在進行形の課題であることを改めて実感させられます。このような状況の中で、地域はどのような未来を描けるのでしょうか。暮らしや文化を守りながら、持続可能な地域を築くには何が必要でしょうか。
地域が抱える複雑な課題
地域が抱えるあらゆる問題は、そこにある経済活動や自治体運営に深刻な影響を及ぼし、伝統文化やコミュニティの存続すら危ぶまれる状況を生んでいます。その中でも、人口減少、高齢化、若者の流出による過疎化といった問題は、地域の風景や文化を大きく揺るがしています。さらに、市町村合併が進む中で、自治や伝統の一部が失われ、多くの地域が「地域活性化」という複雑な課題に取り組まざるを得ない状況にあります。この現実は、単純な解決策では対応しきれない複雑さを伴っています。
移住の推進は一つの方策として広がりを見せていますが、定住先としての地域のハードルは高いままです。気候や交通、仕事の有無といった生活条件が満たされても、新しい環境で安心して暮らすためには多くの時間や支援が必要かと思います。この現実を踏まえ、注目されているのが「移住」に代わる「関係人口※1」という新しい関わり方です。このアプローチは、定住に限らず柔軟な地域との関係構築を目指しています。
この文脈において、関係人口は地域にとって重要な役割を担っています。居住を前提とせず、地域と外部の人々が多様な形でつながる関係を築くことは、地域の「孤立」問題を緩和する可能性を秘めています。地域と外部との柔軟なつながりは、物理的な距離を超えた支援や交流を生み出し、新たな価値を地域にもたらすきっかけとなり得ると思っています。
※1関係人口とは、地域外に拠点を持ちながらも、地域や地域の人と継続的に関わる第3の人口を指します。
立ち止まる以外の選択肢を探して
Nishikigoi NFTの発祥地である新潟県山古志地域(旧山古志村)を例にご紹介します。山古志も、「限界集落※2」の一つとして、今なお存続の危機に直面しています。人口減少が著しく進み、とりわけ若年層の減少が深刻です。象徴的な例として、山古志の小学校では小学3年生以下の在籍者がすでに0名となり、来年度の新入生も0名が見込まれています。このままでは2027年3月に休校が予定されており、地域の教育機関だけでなく、地域そのものの将来にも暗い影を落としています。
学校がなくなることは、地域コミュニティの中心が弱まり、地域振興の取り組みがさらに難しくなる悪循環に陥る恐れがあります。子どもがいない地域に家族世帯が移住する可能性は低くなり、移住促進の試みも大きな壁に直面します。実際、山古志では数多くの移住支援策が実施されてきましたが、結果は非常に厳しいものでした。
そんな中、山古志が挑んだのがNishikigoi NFTプロジェクトでした。山古志では、「内向きではなく、地域を外に開き、多様なつながりを生む」「移住を目指すよりも、つながりを広げることを優先する」という新たな視点に舵を切りました。
※2限界集落とは、地域人口の50%以上が65歳以上の集落のことを指します。
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地域を守る、その理由を考える
そもそも、なぜ地域の存続が重要なのでしょうか。それにはいくつかの理由が考えられるかと思います。ただ、地域という存在は、単に地理的な存在ではなく、日本の文化や自然、そして社会を支える大切な基盤でもあります。それぞれの地域で受け継がれてきた伝統や技術、独自の生活の知恵は、日本全体の多様性や豊かさを形づくっています。こうした財産は、単に過去の遺産ではなく、未来に繋げていきたい大切な要素です。
また、地域には都市生活を支える自然資源があります。水や森林、農地など、私たちの暮らしに欠かせない要素の多くに依存しています。この視点を持つことで、地域が日々の生活にどれほど密接に関わっているかが改めて見えてきます。
さらに、気候変動や災害が頻発する現代では、都市への過度な集中にリスクが伴います。ローカルが元気であることは、災害時の受け皿となるだけでなく、多様で持続可能な社会の構築に役立ちます。都市と地域がバランスよく補い合うことで、私たちはより安定した未来を作れる可能性が広がると感じます。
Web3の可能性とローカルの未来
関係人口を増やすためには、観光振興やイベント開催を超えた、持続可能なつながりをもつことが重要だと思います。ここで、デジタル技術、特にWeb3※3やブロックチェーン技術を活用した取り組みは、地域の価値を再発見し、それを国内外の人々と共有する新しい方法として大きな可能性があります。その中で、私たちが新潟県山古志で展開をした「Nishikigoi NFT」がその一例です。このようなデジタルツールの活用は、今、地域の魅力を広げるだけでなく、外部の人々との双方向の関係を築くための基盤ともなっています。
もちろん、Web3の技術を導入したからといって、地域にすぐに劇的な変化をもたらすわけではありません。しかし、こうした取り組みが、地域の未来にどのような影響を及ぼすのかは非常に興味深いものだと思います。Nishikigoi NFTにおいても、その展開を見守りながら、地域がどのように変化していくのかを私たちも共に考えていきたいと思っています。
※3Web3とは、次世代のインターネット(分散型インターネット)を意味する新しい概念です。NFTやメタバースなど近年注目されている技術もWeb3の一部として関連しています。
地域を応援する、もう一つのアプローチ
移住という選択肢は、興味があっても多くの人にとって現実的ではないかもしれません。それでも、「ローカルには興味があるけれど、住むのは難しい。でも何らかの形で関わりを持ちたい」と感じる人が少なくないのではないでしょうか。そんな思いを大切にしたいと考えています。
そこで私たちは、NFTを「デジタル住民票」として位置付けることで、実際に移住せずとも地域を応援し、つながりを持てるようにしました。最初は試行錯誤の連続で、発行当初は期待通りの成果を得られませんでしたが、その後の第二弾のNishikigoi NFTをきっかけに、少しずつデジタル村民が増加。現在では1,700名を超える方々がデジタル村民として関わりを持ち、さらに海外からの参加者も増えています。その中で、700名以上の方々が実際に山古志を訪れてくださいました。
デジタル村民というアイディアそのものが、直接的に人口減少や高齢化といった問題解決にはならないかもしれませんが、こうした広がりは、地域を支えたいという共通の想いがデジタルの力で形になった証だと感じています。
関係人口が作る新しい地域の形
Nishikigoi NFTは、最初の発行から3年が経とうとしています。この間、山古志ではデジタル村民と地域住民の交流が深まり、山古志に帰省したデジタル村民の数は700名を超えるまでになりました。こうしたデジタル村民の存在は、地域に新たな活力をもたらしています。
たとえば、山古志は「特別豪雪地帯」に指定されており、毎年2メートル以上の雪壁が道路脇に積もる厳しい環境です。この環境の中での雪かきは非常に厳しく、特に高齢者にとっては体力的に大きな負担です。そんな中、デジタル村民が駆けつけて雪かきイベントを実施するなど、地域を支える活動が行われています。
さらに、中越地震の復興イベントへの参加や、山古志の伝統文化である牛の角突きのファンクラブの設立、ポッドキャストの立ち上げなど、私たちがプロジェクト開始当初には想像もしなかった出来事が次々と生まれています。注目すべきは、これらの動きが「自発的」に、コミュニティの中から自然に生まれている点です。まさに「DAO(分散型自律組織)」的な取り組みが形になっていると言えるのではないでしょうか。
Nishikigoi NFTを通じて、私たちの想像を超える出来事が次々と起こり、ローカルとWeb3の相性の良さを実感しています。そして、山古志に続いて、新たなLocal DAOの拠点として、天龍峡(長野県)と椎葉(宮崎県)が仲間入りを果たしました。これから、これらの地域でどのような新しい物語が紡がれるのか、その瞬間を皆さんと共有しながら楽しんでいけたらと思います。
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text by Crypto Village