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「住宅みらい会議」がLGBTQ×住まいのイベントを開催。不動産業界のリーディングカンパニーが関係者への調査を読み解く

LIFULL

LGBTQ×住宅。解決の最前線をリーディングカンパニーと共に考える

社会的弱者の居住課題のなかでも、最も可視化されにくいといわれるLGBTQを取り巻く問題。その背景には、法整備の遅れ、周囲の理解不足、差別や偏見、そしてカミングアウトの難しさなどが複合的に絡み合っているからだ。
また、可視化されにくいことで、課題が共有されにくく、解決に向けた歩みが必然的に遅くなるという苦難もある。

そうした状況下において、人事コンサルティングや企業ダイバーシティ推進を指南する株式会社アカルクと、LGBTsフレンドリーな不動産会社株式会社IRISが、2025年1月、「一般社団法人 住宅みらい会議」(以下、住宅みらい会議)を設立した。
住宅課題の解決には、不動産業界だけでなく、建設業界、金融業界、テクノロジー業界、公共セクター、環境・エネルギー業界、法務・行政書士業界など、多くの分野が連携することが不可欠である。それぞれの業界が持つ専門性を生かし、協力し合うことで、すべての人が安心して暮らせる住環境の実現を目指し、住宅みらい会議はそのHUB的な役割を担う位置づけだ。

2025年7月24日、同法人が設立を記念した第1回イベント「LGBTQ+を取り巻く住宅市場最前線!」を、麹町にあるグロービス経営大学院にて開催。このイベントは、「不動産管理会社」「不動産オーナー」「不動産ファンド」「サブリース業者」「不動産仲介業者」を対象に同法人が行った調査結果を公開する催しで、DE&Iに取り組む企業の担当者と共に調査結果を読み解く、というものだ。

登壇者は、積水ハウス株式会社の祝原英美氏、積水ハウス不動産ホールディングス株式会社の田中龍史氏、大和ハウス工業株式会社の長谷川満子氏、株式会社LIFULLの龔軼群の4名。住宅みらい会議代表理事の須藤啓光氏(株式会社IRIS 代表取締役CEO)と理事の堀川 歩氏(株式会社アカルク 代表取締役社長)がモデレーターを務めた。

見えづらいLGBTQの住宅課題の調査結果ということに加え、不動産業界においてLGBTQに特化したイベントが開催されること自体が極めて少ないという。今回はその貴重な機会をレポートする。

認知度の高さ≠適切な取り組みの実施が如実に

左から、住宅みらい会議代表理事・須藤氏、積水ハウス株式会社・祝原氏、株式会社LIFULL・龔、積水ハウス不動産ホールディングス株式会社・田中氏、大和ハウス工業株式会社・長谷川氏、住宅みらい会議理事・堀川氏

今回登壇した顔ぶれは、不動産賃貸業界のDE&Iを推進する立役者たちといえる。
祝原氏は、積水ハウス株式会社にてLGBTQの施策担当として社内相談窓口対応や事業所と本社の連携を担当。
田中氏は積水ハウス不動産ホールディングス株式会社にてDE&Iの事業推進を担い、3,000を超える提携不動産会社と取り交わす書類の性別欄の削除や研修を行った実績を持つ。
LIFULLの龔はFRIENDLY DOOR事業で住宅弱者にフレンドリーな不動産会社と当事者とのマッチングや企業研修を実施。
大和ハウス工業株式会社の長谷川氏はDE&Iチームの担当課長として、LGBTQ当事者社員の人権課題に対応し、社内研修や相談窓口の設置等を進めている。

登壇者4名の紹介の後、2つのパートで構成された本題へと移る。1つ目のパートSESSION Iは、アンケート調査の結果を基に、各社での対応を紹介する流れで行われた。

■調査目的
1. 不動産業界におけるLGBT当事者への対応実態を明らかにすることで、当事者の住宅課題の状況を
把握するとともに、不動産会社にとってもレピュテーションリスクや機会損失を回避するための機会
を創出すること
2. 入居審査や契約・管理業務において、業界全体としてどのような配慮や取り組みがなされているかを把握し、
標準的な対応レベルと現場における課題を可視化すること
3. 今後の改善施策立案に資するため、課題解決を阻む要因(障壁)についても併せて特定すること

■調査手法
インターネット調査

■調査対象
以下に該当する全国の不動産関連事業者(法人・個人を含む)
・不動産管理会社
・不動産オーナー会社・ファンド(住宅用)
・マスターリース契約を結ぶ企業(サブリース事業者)
・不動産仲介業者
(※地域や規模を問わず抽出)

■サンプルサイズ
665件 (信頼区間99%、許容誤差±5%)

■調査期間
2025年5月16日~2025年5月20日

■調査項目
スクリーニング調査 :5問
本調査 :11問
その他 ・ 匿名回答による自由記述も含む構成で実施

画像1/調査結果発表資料:言葉の認知度
画像2/調査結果発表資料:具体的な取り組み内容・施策

調査結果の冒頭、「言葉の認知度の調査」(画像1)では、“レズビアン”“ゲイ”という言葉に対して、“「言葉」も「意味」も知っている”との回答が80%を超え、認知度が高いことが明らかとなった。「LGBT」という言葉については約2人に1人が知っているという状態である。
しかし、「アウティング」や「SOGI」といった本質に関わる用語については約60~70%の人が「言葉」も「意味」も知らない状態であることがわかった。
厚生労働省が2024年に実施した一般の同様の調査結果と、本調査の数値を比較した際、不動産業界の回答数値が高いことも紹介され、業界でのLGBTQへの理解が促進されている途上ということがいえる、との見解が示された。

「具体的な取り組み内容・施策」についての調査(画像2)では、上位5項目に「差別禁止の明文化」「ハード面の環境や制度(トイレ・更衣室・服装・髪型・通称名)」「社内相談窓口の設置」といった取り組みがなされていると挙がっている。だが、最も多かったのは「いずれの取組も実施していない」の47.7%。つまり、半数は取り組んでいないことが明らかになった。
先の「言葉の認知度の調査」と「具体的な取り組み内容・施策」結果も踏まえると、意識と行動のギャップが浮き彫りとなった。

この流れで、不動産企業内のLGBTQの取り組みについて、祝原氏が自社での活動を紹介。積水ハウス株式会社では、LGBTQへの理解促進を促す社内研修のほか、アライ(LGBTQ+などの性的マイノリティを理解し、支援する人)であることを示すステッカーの配布を行っているそうだ。また、アライネットワーク、『S-Allyサークル』を立ち上げ、グループ内で228名(7月24日時点)が参加する大きな流れが生まれているとも語った。

課題は“知識と理解”の不足。当事者と非当事者の温度差も

画像3/調査結果発表資料:多様性への取り組み×非当事者・当事者の意識の違い

アンケートでは、非当事者・当事者に分けた調査もあり、注目すべきは「多様性への取り組みに対する非当事者・当事者の意識の違い」(画像3)だ。
「勤め先は多様性への取組が十分されていると思うか?」の設問に、「非常にそう思う」と回答した非当事者は、当事者に比べて27.78%高かった一方、当事者の40%は「全くそう思わない」と回答。非当事者と比較すると18.95%も高く、その差は約2倍となっている。
これに関して住宅みらい会議は、LGBTQ当事者のほとんどがより敏感に対策の良しあしを感じ取っていると分析する。

企業のLGBTQへの理解推進はどう行われているのかについて、長谷川氏に話が向けられた。
企業が多様性を取り入れるための組織的な活動に難しさがあることを取り上げつつ、大和ハウス工業株式会社では「やると決めたらやる」という社風と、取り組みを止めるような反対意見が出なかったことでプロジェクトを推進できたと紹介。
また、祝原氏も経営のトップが理解を示し、公にD&Iへの参加を表明したことで、関心の薄い従業員を巻き込むことができたと、取り組みの背景を解説していた。

画像4/調査結果発表資料:対応推進上の障壁・課題
(画像5)調査結果発表資料:管理等している物件内でのアウティング防止策

話題は次の「対応推進上の障壁・課題」(画像4)へと移る。
「取り扱う賃貸物件で、同性カップル等のLGBTQ+当事者に向けた取組を進める際、障壁となる要因は何だと思うか?」の問いに対し、「オーナーや入居者からの反発を懸念」している割合が最も高く26.3%となっていた。次いで、「ノウハウ不足」を掲げる割合は24.1%、「対応ミスによるトラブル懸念」は16.1%、「課題や実態の理解不足」は14.1%となり、情報やノウハウの不足を要因とする声が上位となった。

この結果に際し、積水ハウス不動産ホールディングス株式会社での例を問われた田中氏は、オーナーや入居者とのトラブルはほぼないと説明。ホールディングスとして全国に分散する系列6社を束ね、約70万室を管理するうち、65万室をサブリースして借り上げLGBTQフレンドリーとしているため、問題が生じないのだそうだ。
ただし、オーナーが貸主になる残り5万室の物件にはオーナーの意向が入る余地があること、提携管理会社の担当者のバイアスに課題感を抱いていると吐露した。

LGBTQ当事者にとって、重大な人権侵害に当たる行為である、アウティング。「管理等している物件内でのアウティング防止策」に関しての調査(画像5)では、物件内でのアウティング防止措置(管理人や出入り業者に対する)を講じているかを尋ねる設問では、行っている割合は4.5%。「分からない、不明」「行っていない、検討もしていない」割合は79.1%となった。
この結果、認識は新たになったものの、具体的にどう動いたらよいのか知見が足りていない現状が浮き彫りとなった。

LGBTQフレンドリーな物件・管理会社・不動産仲介会社を紹介するサービスを行うLIFULLの見解として、「アウティングするかどうかは行ってみないとわからない」と龔氏。そのうえで、LIFULLでは、賛同する不動産企業への理解を深めるため、須藤氏が代表を務める株式会社IRISと協働で「LGBTQ接客チェックリスト」を作成した業績を紹介した。

事業展開の話から、須藤氏は時代とともにLGBTQ当事者をめぐる住宅課題が変化してきていることに言及する。
須藤氏によると、株式会社IRISの業務を通じての肌感として、専用のサービスを用いなくても、当事者が求める物件が見つかるようになってきたそうだ。その一方で、「子育てをしたいから、家を借りたい・購入したい」という方が増えているとのこと。
選択肢の広がりとともに課題が変容し、課題に向き合うことでまた新たなニーズが掘り起こされるという現状と、LGBTQの住宅領域の難しさを語った。

未来の住まいに必要な視点とは? 不動産業界の今後の在り方

左から、住宅みらい会議代表理事・須藤氏、積水ハウス株式会社・祝原氏、株式会社LIFULL・龔

SESSION IIでは先の調査結果を踏まえ、不動産業界に今後どのような施策や配慮などが求められていくか、登壇者それぞれの見解が展開された。

祝原氏は、他社の事例を学びながら各社それぞれができることから始めることが大切と所見を述べた。併せて、イベント開催前の控室で、LGBTQに取り組む企業間での連携の必要性を互いに確認していたことを明かした。

龔からは、企業がDE&Iに関する取り組みをするか否かによって、当事者の住まいの選択肢に影響が出ると指摘。同性カップルが賃貸物件を借りる際にルームシェア物件を勧められることを例に挙げ、2025年7月24日時点で全国の二人入居可物件は55万件あるのに対してルームシェア可物件は5万件しかないと、選択肢の狭まりを例示した。取り組みを行う企業・行わない企業のギャップが存在していることに課題を感じていると語り、先進的な取り組みの成功例を共有し、対応を広げていく必要性を強調していた。

左から、積水ハウス不動産ホールディングス株式会社・田中氏、大和ハウス工業株式会社・長谷川氏、住宅みらい会議理事・堀川氏

田中氏は、賃貸住宅管理会社側がLGBTQ当事者入居に際してオーナーの意向を聞かなければならない、検索条件に“LGBTQフレンドリー”を項目化して区別する、という事態がなくなってほしいと期待を寄せた。そのために一管理会社としてできることをしていきたいと意欲を示した。

続いて長谷川氏は“家族の形の多様化”にも触れる。LGBTQに限らず、家族の形・住まいの形がさまざまある現状を把握することが求められると喚起。住まいは生活の基本であり、すべての人が望む形で住めるようにし続けるためにも、業界を挙げて課題解決に向けて考えていきたいと語った。

自社でとどまらず、不動産業界全体の底上げに意欲的な登壇者たち。多角的なアプローチながら、多様であることをフラットに受け入れる社会を目指す様子に、会場は穏やかに熱を帯びていた。
拍手に包まれるなか、あたたかな雰囲気でイベントは幕を閉じた。

住宅みらい会議代表理事・須藤氏のコメント

イベント終了後、須藤氏は住宅みらい会議の発足と住宅課題の解決に向けた決意を語ってくれた

「株式会社IRISでの取り組みは継続しますが、営利組織では社会貢献と収益性の両立が難しく、対応できる件数にも限界があります。住宅課題の認知を広げ、より大きな社会的インパクトを生むために、一般社団法人住宅みらい会議を設立しました。

特にLGBTQを含む住宅確保要配慮者への理解や支援が、社会全体や不動産業界でまだ十分ではないと感じています。最近の社会的なバックラッシュも踏まえ、『今こそ声を上げるべき』との思いから、このタイミングでイベントを開催するに至りました。

10年前に比べ、住まいの選択肢や社会の理解は広がってきたと感じています。一方で、課題の変化に対する気づきや、認知の広がりにはまだまだ課題が残っていると再認識しました。イベント参加者の多くがアライとして前向きな姿勢で参加してくれており、感謝と希望を感じています。

今後は、『住宅みらい会議』をHUBとして、LGBTQ・外国籍・高齢者など、さまざまな人の住宅課題解決につなげたいと思っています。対話を通じて、企業間・個人間の協力関係を築く場を増やし、社会全体での理解とアクションを促進していきたいです」

■一般社団法人 住宅みらい会議
https://mirakai.net/

■既存記事
東京都パートナーシップ制度をきっかけに考えたい LGBTQの住まいの課題とこれから ~トークイベントレポ ~
https://www.homes.co.jp/cont/press/rent/rent_01267/

【LGBTQ研修×不動産会社】積水ハウスグループが取り組むダイバーシティ&インクルージョンとは
https://www.homes.co.jp/cont/press/rent/rent_01208/

同性カップルが賃貸物件を借りにくいのはなぜ? 課題とこれから
https://www.homes.co.jp/cont/press/rent/rent_01182/

※ LGBTQ=セクシュアルマイノリティの総称の一つ。L(レズビアン:女性同性愛者)・G(ゲイ:男性同性愛者)・B(バイセクシュアル:両性愛者)・T(トランスジェンダー:体の性と心の性が一致しない人)・Q(クエスチョニング:性自認や性的指向が定まっていない人、その他のセクシュアルマイノリティ)を表す。本記事では、あらゆるセクシュアルマイノリティの方が含まれる総称を「LGBTQ」とし、便宜上表記を統一している。

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