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がん治療“第4の柱”「免疫チェックポイント阻害薬」製薬会社がセミナー開催

おたくま経済新聞

ICIによるがん免疫療法のいまとこれから

 新たながん治療の選択肢となった「免疫チェックポイント阻害薬(ICI)」が2014年に国内で承認されてから10年の節目を迎えました。

 これに伴い、小野薬品工業株式会社とブリストル・マイヤーズ スクイブ株式会社は、がん治療に携わる医師100人とがん患者900人を対象に、「免疫チェックポイント阻害薬」を用いた「がん免疫療法」に関する調査を実施。その結果の発表を含むメディアセミナーが7月24日、小野薬品工業本社にて開催されました。

ICIによるがん免疫療法のいまとこれから

 「免疫チェックポイント阻害薬(ICI)」とは、がん細胞が免疫細胞の働きを抑制する「免疫チェックポイント」と呼ばれる仕組みを阻害することで、がん細胞に対する免疫を活性、持続させる治療薬のこと。現在は「オプジーボ」などが承認されています。

 日本国内では2014年7月2日に承認され、手術、放射線、薬物療法と並ぶ“4つ目の柱”として「がん免疫療法」という治療法が生まれました。

 セミナー冒頭、小野薬品工業株式会社 代表取締役会長CEOの相良 暁さんはこの「免疫チェックポイント阻害薬」について、「国内ではこれまで19万人のがん患者さんに使っていただいた」とコメント。

 「臨床試験時は免疫療法に対する理解が得られず、がんの専門家からも『こんな薬が効くわけない』と言われたが、効果が現れたケースが一例ずつ積み重なり、信頼を得られるようになってきた」と、10年の歴史を振り返りました。

■ 「がん免疫療法」医師サイドは高認知・高評価も、患者サイドの認知には課題

 続いて、小野薬品工業株式会社 執行役員/メディカルアフェアーズ統括部長の高井信治さんが登壇。がん治療に携わる医師100人とがん患者900人を対象とした、「免疫チェックポイント阻害薬」を用いた「がん免疫療法」に関する現状の評価と認知の調査結果を発表しました。

 調査によると、医師サイドにおける「免疫チェックポイント阻害薬」への評価は「がん治療の選択肢として地位を築いた」という回答が90%、「さらなる発展を期待したい治療法である」という回答が87%という高い結果に。

 患者サイドにおける評価も「治療の選択肢が増えてうれしい」という回答が68%に達しましたが、その一方で「がん患者にもっと広く知られてほしい」という回答も同じく68%と高かったといいます。

 「免疫チェックポイント阻害薬」を使用したことのないがん患者700名への調査では、「がん免疫療法」に対する認知は63%と高かったものの、「『知っているというほどではないが、名前を聞いたことはある』という認識が大部分を占めていた」と高井さん。

 特に、副作用に対する認知や理解の度合いは26.3%と低く、認知が十分に進んでいない現状が浮き彫りになりました。

 こうした状況に対する危機感は、医師サイドからも挙がっているといいます。

 患者の認知向上に向けた課題を医師100名に尋ねたアンケートでは、全体の40%強が「『がん免疫療法』を称するエビデンスのない情報や医療行為への厳格な監査や措置が必要」と回答。

 「『患者やその家族への啓発が必要』という回答も全体の40%弱あった」と高井さんは述べ、「『がん免疫療法』を正しく理解するための情報発信や啓発活動が求められている」としました。

■ がん細胞の“ガード”を外し、免疫細胞の攻撃をうながす「免疫チェックポイント阻害薬」

 手術、放射線、薬物療法と並ぶ新たながん治療法の柱を担う「がん免疫療法」、具体的にどのような仕組みで働くのでしょうか。引き続き、高井さんが説明します。

 増殖を繰り返すがん細胞に対し、体内の「T細胞」と呼ばれる免疫細胞は「PD-1」と呼ばれる抗体で攻撃を行いますが、がん細胞は「PD-L1」という抗体でこれをガードし、双方が拮抗し合う「免疫チェックポイント」という状況を作り出します。 

 これを阻害するのが「免疫チェックポイント阻害薬」。がん細胞のガードを邪魔することで、免疫細胞ががん細胞を攻撃する状態を保てるようにし、がん細胞を死滅させるというわけです。

 「免疫チェックポイント阻害薬」は、食道がん、乳がん、「メラノーマ」と呼ばれる悪性黒色腫など、内臓や組織にできる20種類の固形がんに対応。これまで治療薬などでは対策の難しかった、発生箇所のわからないがん「原発不明がん」にも効果を発揮するということです。

 ただ、他の治療法同様、この「がん免疫療法」にも副作用が存在するとのこと。この治療法は、免疫細胞ががん細胞を攻撃する働きを活用するものですが、免疫細胞が正常な内臓や組織を攻撃し、心筋炎や間質性肺疾患、1型糖尿病などの症状が現れることがあるといいます。

 「免疫療法だから副作用がない、ということではなく、メカニズムの違いによって副作用の種類が異なる、ということ」と高井さん。

 「こうした知識を正しく知っていただくことで、患者さんが治療方法を医師と相談して決める際、判断材料として共有できる」とし、これからも「がん免疫療法」の正しい理解促進に向け、啓発サイトなどの運営を通じて情報発信に取り組んでいくと語りました。

■ 抗がん剤や放射線治療との併用で「がん細胞に“とどめを刺す”」

 「免疫チェックポイント阻害薬」によって、がん細胞はどのように影響を受け、具体的にどのような効果が現れているのでしょうか。実際の治療現場における事例について、近畿大学医学部 内科学腫瘍内科部門 主任教授の林 秀敏さんが解説します。

 例として挙げられたのは、肺がんが肝臓に転移した患者のケース。

 2週間に1回ペースで「免疫チェックポイント阻害薬」を点滴したところ、いったん腫瘍が大きくなる傾向が見られたものの、がんの進行とともに増加する生体物質「腫瘍マーカー」の値が劇的に低下。その1ヶ月半後には、腫瘍が大幅に縮小したといいます。

 「がん細胞を抜き取って検査する『生検』を行ったところ、免疫をつかさどるリンパ球が大量に集結し、がん細胞を食べている様子が観測できた」と林さん。

 当初見られた腫瘍の拡大も、このリンパ球の増加に伴うものであったことがわかり、「『チェックポイント阻害薬』が患者さんの免疫を利用して、がんをやっつけているのだと実感した」といいます。

 「私が研修医だった20年前は、進行期にあたるステージ4の肺がん患者さんが1年以上生きる可能性は高くありませんでした。しかし今は『チェックポイント阻害薬』の登場によって、1年どころか2年、3年、5年と生きておられる方がいくらでもいらっしゃる。これは臨床医から見ても大きな変化です」

 「免疫チェックポイント阻害薬」には抗がん剤や放射線治療と併用する方法もあり、実際にさまざまな患者さんに使われているといいます。

 「ステージ4まで達していないがんの場合、放射線治療で腫瘍に対する免疫が活性化している状況で『免疫チェックポイント阻害薬』を使用すれば根治できる可能性もある」と林さん。複数の治療法と併用することにより、「がん細胞に対して“とどめを刺す”使い方もできる」と語りました。

■ ステージ4告知から“寛解”も 「免疫チェックポイント阻害薬」使用者が経験語る

 「免疫チェックポイント阻害薬」を使用することで、ステージ4のがんと診断されながらも、長年にわたって日常生活を送り続けられているがん患者さんがいます。

 セミナー後半は、自身もがんサバイバーであり、現在がん経験者へのインタビューなどを発信する「がんノート」代表理事を務める岸田徹さん司会のもと、2名のがん患者さんが自身の経験を語りました。

 車椅子ダンサーとして活動する36歳の女性、林美穂さんは、0歳で小児がんの一種である神経芽腫を発症し、31歳で腎細胞がんと診断。ステージ4の告知を受けましたが、手術や抗がん剤と並行して「免疫チェックポイント阻害薬」による治療を3年続けており、告知から5年が経過した現在も精力的に活動しています。

 「担当医師からは『5年、10年前だったら、もう助からないレベル』という言葉を聞きましたが、この新たな薬が加わったことで『まだ助かる道があるかもしれない』と希望を持てたことは大きなインパクトでした。使用から数か月で、起き上がるのも辛かったほどの痛みもなくなり、周りからは『本当に闘病中なの?』と驚かれるほど元気になりました」

 社会保険労務士として働く47歳の男性、清水公一さんは、35歳で肺がんのステージ4と診断されるも、手術、放射線治療、抗がん剤と並行して「免疫チェックポイント阻害薬」による治療を受けたことで、がんが寛解。告知から12年経つ現在も健康な生活を続けています。

 「『かなり厳しい状態です。時間を大事にしてください』と医師から告げられ、当時は新薬であった『免疫チェックポイント阻害薬』を使うことにしました。副作用として口内炎や皮膚の発疹などが出た時期もありましたが、自分の場合は我慢できる程度で済みました。使用から2ヶ月で腫瘍がかなり小さくなり、半年後に寛解することができました」

 2人の話を受け、「常識が変わっていくところを目の当たりにしている」岸田さん。

 「原発不明がんなど、明確な治療法がない状態で絶望の中にあった患者さんたちにとって、『免疫チェックポイント阻害薬』は大きな光になっているところもあると思う」といい、「日本から世界を変えていけるような形になっていったら」と期待を述べました。

 セミナーの最後には、ブリストル・マイヤーズ スクイブ株式会社 代表取締役社長のスティーブ・スギノさんが挨拶。

 「小野薬品工業と当社とのパートナーシップにより生まれた『がん免疫療法』で、がん治療ありかたに革命を起こすことができた」とし、「数えきれない患者さんの生存率延長に繋がる治療の選択肢を提供できることを誇りに思っています」と締めくくりました。

取材協力:小野薬品工業株式会社・ブリストル・マイヤーズ スクイブ株式会社

(取材:天谷窓大)

Publisher By おたくま経済新聞 | Edited By 天谷窓大 | 記事元URL https://otakuma.net/archives/2024072903.html

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