「かちかち」「きいきい」「くしゃくしゃ」…K音のオノマトペのイメージとは? 言語学者・秋田喜美さんが日本語のオノマトペを徹底解剖!【NHK俳句】
「K音」で始まるオノマトペのイメージとは?
秋田喜美さんの解説を紹介!
アフリカ中央部で話されるアイキ語という言語には、「コドン」と「ワル」ということばがあります。一方は〈柔らかい〉、他方は〈硬い〉という意味です。さて、どちらがどちらでしょう?
2024年度『NHK俳句』テキストに掲載の「オノマトペ解剖辞典」は、新書大賞2024(中央公論新社主催)で大賞を受賞した『言語の本質』の共著者で言語学者の秋田喜美さんによる連載です。
オノマトペは「ふんわり」「ひらひら」など擬態語や擬音語の総称です。
様々なオノマトペを俳句とともに徹底解剖するこの連載で、日本語への興味を深め、俳句作りのヒントも学んでみましょう。
今回は『NHK俳句』テキスト2024年7月号から、「K音」のオノマトペに宿る「硬さ」についての解説を一部公開します。
阻害音 K音で始まるオノマトペ
本連載は、硬い響きを持つ子音である「阻害音」(P、T、K、S、H、B、D、G、Z)から入り、柔らかい響きを持つ子音である「共鳴音」(M、N、R、Y、W)、そして母音(A、I、U、E、O)へと進む予定です。今回はK音(タ行)で始まるオノマトペを解剖します。
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アフリカ中央部で話されるアイキ語という言語には、「コドン」と「ワル」ということばがあります。一方は〈柔らかい〉、他方は〈硬い〉という意味です。さて、どちらがどちらでしょう?
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正解は、「コドン=硬い」で「ワル=柔らかい」。多くの読者が正解されたのではないかと期待します。というのも、世界の言語を見渡してみると、偶然を超える確率で、硬さを表すことばにK音が入っているためです。日本語の「かたい」もそうですね。そして、この「硬さ」というのは、今回取り上げるカ行で始まるオノマトペに宿る意味でもあります。
句例を見てみましょう。「からん」と鳴る種や「こき」と嚙む貝は、たしかに硬めです。一方、芋茎が柔らかい様子を表す「くたくた」は、一見反例に思えます。ただ、「とろとろ」「どろどろ」「ふにゃふにゃ」といった柔らかさを表す他のオノマトペと比べてみると、「くたくた」は〈元の形を保ちつつも柔らかくなった状態〉を指すという点で、やはり硬めといえそうです。
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さて、「K音=硬い」という等式は多くの言語に成り立ちますが、普遍的な規則ではないという点も重要です。最近私の研究チームが行った実験によると、日本語や中国語の話者には「K音=硬い」という感覚が見られますが、英語や韓国語の話者にはむしろ「T音=硬い」という傾向が見られます。実際、「こつこつ」や「こんこん」は「タップ」という英単語で訳されることがあり、韓国語でも〈硬い〉は「タッタッカダ」というT音始まりのことばで表します。第三回で見たように、日本語のT音は「とろとろ」のように緩みと結びつくので、不思議に思えますね。
『NHK俳句』テキストでは、触覚感覚から比喩的な感覚や感情まで広く及ぶ、オノマトペの守備範囲についての解説なども紹介しています。
講師
秋田喜美(あきた・きみ)
1982年、愛知県生まれ。名古屋大学文学部准教授。専門は認知・心理言語学。著書・編書に『オノマトペの認知科学』『言語の本質――ことばはどう生まれ進化したか』、Ideophones Mimetics and Expressives など。
※掲載時の情報です
◆『NHK俳句』2024年7月号より「オノマトペ解剖辞典」
◆イラスト:川村 易
◆参考文献:『現代俳句擬音・擬態語辞典』(水庭進編・博友社)/『擬音語・擬態語辞典』(山口仲美編・講談社学術文庫)/『日本語のオノマトペ:音象徴と構造』(浜野祥子著・くろしお出版)
/Akita K. McLean B. Park J. & Thompson A. L.(2024). Iconicity mediates semantic networks of sound symbolism. The Journal of the Acoustical Society of America. / Erben Johansson N. Anikin A. Carling G. & Holmer A. (2020). The typology of sound symbolism: Defining macro-concepts via their semantic and phonetic features. Linguistic Typology 24 253–310.