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【レビュー】「デアデビル:ボーン・アゲイン」初回2話、既にマーベル・ドラマ屈指の出来 ─ 旧シリーズから変わらないものと、新しいもの

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そもそもなぜドラマ「デアデビル」が特別で異質な存在なのかという話から始めよう。

10年前。2015年4月にで配信されたドラマ「Marvel デアデビル」は、まだNetflixが黎明期にあった時期に登場した肝入りのシリーズだった。今でこそ毎週のようにオリジナル作品がいくつも配信されるNetflixだが、「デアデビル」の製作が発表されたのは、実はNetflix史上初のオリジナル作品「ハウス・オブ・カード 野望の階段」が登場したのと同じ年のことだった。

当時"黒船"と呼ばれていたNetflixにとって、デアデビルは彼らが送り込む刺客だった。今もそうであるが、とりわけ当時のNetflixがオリジナル作品に賭けたものは相当大きかっただろう。Netflixと「デアデビル」の赤いロゴは、まるで運命共同体であるかのようだった。(※以下はNetflix時代のティザーポスター)

Patrick Harbron/Netflix

これは極めて個人的な、ざっくりとした感覚であるが、現在のマーベル・ドラマは“マーベルが海外ドラマをやっている”。一方「デアデビル」は“海外ドラマが(たまたま)マーベルをやっている”といった印象があった。つまり、まず地に足着いた世界観があり、豊かなキャラクター設計と丁寧なストーリーテリングがあって、それからマーベル・コミックの題材や、シネマティック・ユニバースならではのささやかな楽しみがあるといった意味だ。

ドラマ「デアデビル」が語られる時、暴力的な描写があることや、物語がダークでハードであることが挙げられることが多い。それは大いに共感する意見なのだが、ファンが本当に魅了されたのは実直なストーリーテリングではないか。それぞれのキャラクターが弧を描き、人生を生き、怒ったり、悲しんだりする。ある人は野心に駆られ、ある人は使命感に突き動かされる。日常には喜びがあり、理不尽なことも起こる。ギミックも、派手なVFXもないが、優れたストーリーテリングにそれらは必須項目ではないことを、「デアデビル」は今も思い出させてくれる。

© MARVEL 2024

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製作を旧マーベル・テレビジョン & ABCスタジオからマーベル・スタジオに移したの新作「デアデビル:ボーン・アゲイン」は、完全にNetflix版からの継続だ。細かなサブキャラクターや設定も前シリーズから踏襲されている。

違いがあるとすれば、やや大人びた空気感を纏っている。映像はニューヨークのフッド感に溢れ、街が息づいている様子や、その中にキャラクターの生活があることがわかる。主人公トリオのマット・マードック、フォギー・ネルソン、カレン・ペイジはより成熟し、人生と仕事を楽しんでいる。ときどき学生気分を思い出していた旧シリーズから、彼らはロングコートの似合う、哀愁を知る大人の社会人となった。お馴染みのロケーションや、得意のワンカットアクションが第1話から早速登場すると、ファンは旧シリーズの世界にすぐさま帰ることができる。

© 2025 MARVEL. All Rights Reserved.

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本シリーズはもともと法廷ミステリーを中心とした全18話で構成された。「昔ながらの“事件モノ”めいた要素が入った作品です。必ずしも毎週異なる事件ではなくとも、弁護士マット・マードックを深く掘り下げ、彼の生活がどんなものかを知ることができる」と、主演のチャーリー・コックスは過去版の方針を。「きちんと描ければ、その世界で彼が必死に働く様子を見せられるし、とても面白い作品になると思います。スーパーヒーローの日常生活に時間を費やしてから、彼がスーツを着る瞬間を見せられますよね」。

6話分の撮影が済まされていたところで、2023年のストライキが勃発。製作が強制的に一時停止を食らった間に全面的な見直しが行われ、監督・脚本家を総入れ替えして再制作された。もっとも、当初撮影された素材はスクラップされたわけではなく、大部分が最終版に採用されているという。ショウランナーのダリオ・スカルダパンが米に語ったところによれば、撮影済みだった6話分は「非常にしっかりした」ものであり、撮影のやり直しは旧シリーズからの流れを強化するためだったそうだ。

第1~2話を観る限り、刷新前のバージョンが目指した意図も見てとることができる。マット・マードックは弁護士として案件仕事をこなしたり、新たな出会いを経験したりする。セットはよりモダンになった。旧シリーズは夜間の場面が多く、『ダークナイト』譲りのハードボイルドさが感じられたが、今回はニューヨークが舞台のリーガル・ドラマとしてアップデート。弁護士として活動する昼間のシーンがより爽やかに描かれている。

© MARVEL 2024

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目新しさとしては、ウィルソン・フィスク(得意料理:オムレツ)が政治ドラマに足を踏み入れている点だ。かつてニューヨークの裏社会で犯罪王として君臨した"キングピン"ことフィスクは表舞台に返り咲き、ニューヨーク市長選にまさかの出馬。初回2話では、フィスクが新たな市長として駆け上がる様が、それこそ「ハウス・オブ・カード」さながらに描かれる。マーベル・スタジオのではレッドハルクと化して暴走する米大統領が描かれたが、「デアデビル:ボーン・アゲイン」のウィルソン・フィスクもまた現職の米大統領と比較されることになるだろう。

© 2025 MARVEL. All Rights Reserved.

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前シリーズからスタントコーディネーターが続投しているとあって、生々しいアクションシーンは当時のまま。MCUらしいスペクタクルも加わっており、デアデビルはよりMCUヒーローらしい身のこなしを見せるようになった。海外のレビューでは「VFXが粗い」との指摘も散見され、確かにその通りではあるが、視聴体験を損なうほどではない(現実的なトーンであるだけに、VFXが悪目立ちしているといった具合だ)。

© MARVEL 2024

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企画刷新前の名残か、第2話ではアクションシーンがごくわずかしか登場しないが、物足りなさを感じる視聴者は少ないだろう。このバランスが成立している理由は二つあり、その一つは、作品自体がアクションのみに頼ることなく確かな土台を築いているからだ。たとえば、第2話ではフィスクが強力な存在感を放っており、ヴィンセント・ドノフリオの迫力は黙って座っているだけで小手先のアクションシーンを凌駕している。

もう一つは、アクションを通じた感情表現が巧みである点。ミュージカル映画における歌唱やダンスが、キャラクターの心情や物語展開を代弁するものであるように、優れたアクションシーンとは単なる眠気覚ましに挿入されるものではなく、何らかの感情を帯びてこそ機能するものである。第1〜2話で繰り広げられるアクションは、物語性とスタントが絶妙に混じり合った手本のようなシークエンス。これらのエピソードでは、格闘シーンがあくまでのストーリーの一部、キャラクターの感情の一部として表現されている。ここぞとばかりに暴力的な演出が飛び出し、そこには理由がある。

© 2025 MARVEL. All Rights Reserved.

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初回2話を観た限り、ディズニープラスに登場したマーベル・ドラマの中でも明らかに屈指の出来。と言いつつ、やはり「デアデビル」作品は、もはやマーベル・ドラマという枠に収めるべきではない。先に書いたようにこの作品は、たまたま題材がマーベル・コミックであるというだけで、本質的にはエミー賞の候補となるようなシリーズと同列で語られるべきだと思うからだ。シーズン1の全9話がこの好調子で進むのなら、マーベル・ドラマ初のエミー賞作品賞も十分狙えるのではないか。

(c) 2025 Marvel

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というわけで初回2話、久々にモニターの前で何度も声をあげて夢中で鑑賞しました。旧シリーズのファンは安心してほしいし、初めて見るファンはマーベル・ユニバースの幅の広さに驚いてほしい。「デアデビル:ボーン・アゲイン」は2025年3月5日よりディズニープラスにて初回2話独占配信。全9話で。

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