サガン鳥栖のMF西澤健太が清水エスパルスを飛び出して新たな環境での挑戦を選んだ理由
J2鳥栖の西澤「自分の気持に正直になった時に…」
【サッカージャーナリスト・河治良幸】
サガン鳥栖への完全移籍を決断した西澤健太は、中高の6年間を清水エスパルスのアカデミーで育ち、筑波大を経てプロ入りから6年間、清水と苦楽を共に過ごしてきた。しかし、夏前に怪我も経験した昨年は復帰後もなかなか主力のポジションをつかみ取れず、14試合の出場にとどまり、J2優勝、J1昇格という目標を成し遂げたチームにあって、大きく貢献するシーズンにはできなかった。
「僕もプロ入りした時は清水でキャリアを終えて、清水のために生活していくことをイメージしてました。そこに対して全力で取り組んでいたつもりではあります。ただ、なかなか自分の理想通りとはいかない時間も多かった。その中でいろんな自分のキャリアとか、子供も生まれて家族のこととかを考えて…。結局、自分の気持ちに正直になった時に、もう1回自分の力を試したい、証明したいというところは燃えているものがあって…」
西澤がプロのサッカー選手として、もう一度可能性にチャレンジしたいと考えた時に選択したのは、慣れ親しんだ清水の環境ではなく、一度外に出て、自分を一から知ってもらう場所での挑戦だった。
「そういうタイミングで鳥栖さんからオファーいただいて、ものすごく熱意を持って、僕に向かってきてくださった。それに対して僕は応えるだけでした」と西澤は語る。
「必要とされる存在になりたい」
西澤はプロ入りしてから清水での思い出を「もちろん最初からうまくいっていたわけではないですし、最初の監督の時にはほぼほぼ出られませんでした。監督が替わってチャンスをもらって、全てがうまくいっていた訳ではなかったですけど、その中でも清水のために貢献できた部分だったり、自分がやって、今も形として残っている部分の実感はあったりするので、そこは誇りに思っています」と振り返る。
それでも、ここから新たなものを築いていける場所で一人のサッカー選手として頑張りたいという気持ちが西澤を動かした。
「きっと清水にいて、本当に清水の人に応援してもらいながらキャリアを終えるというのも、一つの選択肢としてあったのかもしれないですけど、もう1回この胸の中にあるものをちゃんとピッチの中で表現して、必要とされる存在になってというところは考えています」
小菊監督の熱意「本当にうれしかった」
鳥栖はセレッソ大阪から就任した小菊昭雄新監督が直接、西澤に熱意を伝えたという。西澤は「僕としては必要とされているということが本当に嬉しかった。本当に熱意を持って接してくださって、それが一番大きかった」と語る。
小菊監督に聞くと「私ができるのは熱意を伝えることと、どうあなたを見ているか。どういうチームを作っていきたいか。そこを選手は聞きたいと思うので」と答えてくれた。実際に西澤の率先した行動やリーダーシップを早くも頼もしく感じているという。
J2に降格した鳥栖は選手の過半数が入れ替わり、ほぼ新しいチームと言ってもおかしくないメンバー構成となる。西澤も「本当にみんな初めましての選手も多かったですし、お互い本当に探り合いながらの数日間もあった」というが、1月19日に沖縄キャンプを取材した時には、ランニングメニュー一つ取っても、在籍4年目となる32歳のMF堀米勇輝や4年ぶりの鳥栖復帰となったFW酒井宣福と一緒に先頭を走る姿が見られた。
もちろん年齢や経験の立ち位置を考えても、リーダー的な振る舞いは求められてくる。「1点の重み、1失点の重み、勝ち点1の重みを身にしみて感じている」と本人も強調するように、これまでの貴重な経験や意識を一つ一つのプレーに注入していきたいという。「そういう思いをプレーで表現できれば、きっと観ている人たちにも“魂込めてるな”と思ってもらえる」
キックに対する自負
その一方で、やはりこだわっているのはキックで違いを見せることだ。
「もうそれで僕はキャリアを築いてきたと思ってますし、キックで生き残ってきたという自負がある。そこはもう、全てこのチームのために捧げたい」
まさしく心身ともに、鳥栖を引っ張る存在として、J1昇格を目指していく西澤にあらためて清水に対する思いを聞いてみた。
西澤は「もう正直、今は清水のことは全く考えてないので、勝手にJ1で勝ってくれるだろうと思ってます」とジョーク交じりに切り出しながら、少し間を置いて「本当、頑張ってほしいというのが正直なところ・・・。北川も宮本もいますし、僕はもうそこにおまかせっていう感じで」と答えてくれた。
「清水にはJ1にいてもらって、僕らは1年で戻って…。来年のシーズンはJ1で戦って、僕個人としてはぶちのめしたいと思ってるので(笑)。そういったイメージを持ちながらやってます」
鳥栖がJ2をどう戦い、昇格という目標にどう向かっていくのか。激しいシーズンになっていくことは間違いないが、「本当に楽しみな若手が多い」というチームの中で西澤がしっかりと輝きを放っていくことを期待して観ていきたい。