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「遊ぶように学ぶ」を実践したら1年生の学ぶ意欲が爆増! 公立小学校・山田先生の取り組み

コクリコ

教科の枠にとらわれない「プロジェクト」型授業を実践する、茅ヶ崎市立香川小学校山田剛輔先生の連載第2回。思い切って授業を変革した経緯、最初に実施した2022年度の1年生のクラスの様子、子どもたちの変化などを聞きました。

「強制的な宿題はなし」でも自ら学ぶクラスへ〔子どもの主体性を信じた公立小学校教員の驚きの実践〕

茅ヶ崎市立香川小学校で、教科の枠にとらわれない「リアルな学び」を子どもたちと一緒につくる山田剛輔先生。

探究的な学びやプロジェクト型学習を積極的に取り入れる学校や先生が増えているとはいえ、公立小学校で体験を重視して授業を行う事例は、まだまだ多くありません。

どのようなきっかけで実践を始めたのでしょうか。その経緯、最初に授業を開始した2022年度の1年生の反応、子どもたちの変化などについてうかがいました。

『遊ぶように学ぶ』ために、山田先生がやった「単純なこと」とは?

山田先生が「プロジェクト」型授業を始めた理由

山田先生が2022年から継続して実践する「プロジェクト」。生活に近いテーマに教科の内容を落とし込み、子どもたちが学校内外で行動しながら学びます(詳細は第1回参照)。

2024年度は「香川商店街プロジェクト」にも取り組みました。  写真提供:山田剛輔氏

従来型の授業と比較すると、ずいぶん大胆な変革に感じますが、踏み切った理由を山田先生に尋ねると、「何か特別なきっかけがあったわけではないのですが……」と前置きしたあとに、「幼児教育を学んだ影響が大きかったです」と話します。

ご自身の子どもが生まれたあと、以前から関心のあった幼児教育の勉強を始め、その後も研究論文を読んだり、幼稚園や保育園などの現場を訪問したりしてきました。

そこで見た子どもたちの姿が、強く印象に残っているそう。

「未就学の子どもたちは、当たり前ですけど教科の学習などまったく関係なく、夢中になって対象と向き合って遊んでいます。でも、その活動を詳細に見ていくと、実は数や言葉、自然など、小学校でいう『教科』の学びが含まれています。

そんなふうに教科の枠を意識せず、『遊ぶように学ぶ』のが本来の姿であり、小学校でも目指すべき学びのかたちではないかと思いました」(山田先生)

幼児期は主体的に遊び、周りと関わりながら成長していく一方で、小学校入学後は選択できる範囲が少なく、基本的には教師が決めたことを学びます。しかも、その内容は「教科」という名前で分断されている。こうした違和感を、山田先生は目の前のコーヒーを手に取りながら語ります。

「カップに入っている量が何mlあるかなと考えれば算数だけど、コーヒー豆はどこで生産され、どんな人たちが栽培しているのかを追うと社会、そのおいしさをどう伝えようか、と思案すれば国語かもしれません。

ですが、小学校の学習は、コーヒーにあたる『具体的なもの・こと』がないまま、計算方法や文章の書き方などが、それぞれ独立して教えられるわけです。本来学びの対象になる事象は一つであり、教科はその『視点』や『見方』にすぎないはずなのに……」(山田先生)

小学校でも幼児教育のように、教科にとらわれず子どもたちが「夢中で」「楽しく」学ぶ環境をつくれないか。山田先生はこうした思いを強くしていきます。

そんな中、2022年度に念願だった1年生の担任をすることに。子どもたちが幼児期に遊びの中で学んできたことをいかしながら、小学校でも主体的に学ぶための授業を行う絶好の機会です。

そこで思いついたのが、「教科にとらわれないプロジェクト中心の授業」でした。

子どもの「やってみたい」から始める

小学校入学直後の子どもへの指導は、「自分の席から動かず静かにする」「先生に言われたことだけを黙ってやる」といったものが多く、子どもの主体性を抑える方法になりがちです。

1年生の担任になった山田先生はこれらを採用せず、まずは子どもたちの声を聞くことから授業を始めました

「初めての小学校生活にドキドキしながらやってきた子どもたちに、『学校でどんなことをしたい?』と聞くと、たくさんの希望が出てきます。それらに応えていくと、自然に学習につながる活動が生まれてくるんです」(山田先生)

まずは4月、子どもたちが「学校のいろいろなところへ行ってみたい」と話したことから、学校探検に出かけました。校庭や体育館、特別教室などさまざまな場所に行きましたが、子どもたちは漢字が読めないために、何をするところかわかりません。山田先生が説明しても、ピンときていない様子でした。

そこで後日、先生は子どもたちに、どうしたら教室のことがわかるかを尋ねたところ、「ひらがなで書いてあればわかる」という子どもたち。その答えを受け、先生は過去に卒業生が漢字でつくった教室表示を示し、「これのひらがなバージョンをつくってみない?」と提案します。

子どもたちも「いいよ~!」「やりたい!」と応え、こうして「教室表示プロジェクト」がスタートしました。

入学後に生活科の授業で「学校探検」を行うこと自体は一般的ですが、「今から学校探検に行きます」と先生が決めるのがスタンダード。しかし、山田先生はまずは子どもたちに何をしたいか尋ね、その声を受けて実施しました。その後も対話をとおして気づきを促しながら、ひらがなを学ぶという学習につなげていきます

文字を書いた木材をつなげて、教室表示を完成させています。  写真提供:山田剛輔氏

「教室表示プロジェクトは夏休みを挟んで数ヵ月かけて実施しましたが、子どもたちは最後まで目的を忘れることなく、楽しそうに取り組んでいました。僕が勝手に決めて子どもたちにやらせていたら、同じ結果にはならなかったと思います」(山田先生)

プロジェクトは、教科内容を自然な形で学べる

教科学習の観点から「教室表示プロジェクト」を見ると、組み込まれている教科・単元はすでに紹介した生活科(学校探検)、国語(ひらがな・カタカナ)にとどまりません。

教室表示の材料には、校内の木の枝(前年に倒れてしまったもの)を使用しましたが、切った木を数えるときに、算数の単元「20よりも大きい数」を学びました。さらに、完成した教室表示を飾るにあたって、校長先生や特別教室の先生に確認する必要がありました。このとき、国語の「聞く・話す」という単元を使って、教室表示をつくった理由をまとめ、伝えるための言葉を考えました。

子どもたちは教室表示を完成させたあとも、ポスターや校内放送、動画などを使ってその存在を全校児童に知らせるなど、想像以上に積極的に活動しました。

プロジェクトに取り組む子どもたちは、授業だから仕方ない……という『やらされた感』とは無縁のように見えました。『教室表示をつくる』という動機がなければ、ここまでモチベーション高く取り組めなかったと感じます。

やりたいことがあるから熱意を持って学ぶ、という当たり前のことを再確認できました」(山田先生)

次年度の一年生は、教室表示を見て「あっ、ここ保健室だ」と理解できました。教室表示は学習後時間が経過しても、その成果を実感できる活動となりました。  写真提供:山田剛輔氏

子どもたちとつかんだ「確かな手ごたえ」

教室表示プロジェクトのあとも、山田先生は1年生とともに、さまざまなプロジェクトを行いました。どれも子どもたちの声を聞くことから始め、先生が提案しながら教科の内容を落とし込みました。

「最初は、『思い切ってやってみた』というのが正直なところです。うまくいくという確信があったわけではありません。

だけど、実践してみると、子どもたちはとても意欲的に、いきいきと学んでいました。

その姿を見て、確信を得たんです。小学校でも教科の枠にとらわれることなく、リアルな状況の中で学ぶことができると」(山田先生)

こうした1年生での経験が、第1回で紹介した4年生の実践につながっていきます。1年生と4年生では学習内容も量も異なりますが、工夫次第で「具体的な状況」の中で学ぶ授業は十分できる。山田先生はそう自信を持って、実践を継続しています。

4年生が地域の商店街でプロジェクトを行う様子。  写真提供:山田剛輔氏

「届ける先」がある学び

山田先生の実践に伴走し、年間50日以上(2022年度)も授業を見てきた幼児教育専門家の久保寺節子先生(青山学院大学教育人間科学部特任教授)は、「プロジェクト」の意義を次のように語ります。

山田先生の実践には、学んだことを『届ける先』があります。

教科書内の架空の世界ではなく、リアルな現実の中で学びが展開されているからこそ、その対象となる『人』や『こと』が存在する。そして、届けたあとには喜ばれたり、お礼を言われたりといった反応があり、子どもたちは学んだ意味を理解し、やってよかった、などと充実した気持ちを実感できるのです。

教科内容を『教える』授業をしていたら、子どもたちがこうした『手ごたえ』を味わうことは難しいでしょう。

また、山田先生が子どもの気持ちや行動にじっくり向き合い、受け入れ、よいところや成長を認める声かけをしていることも大きいと感じます。そうした環境で、子どもたちはのびのびと学び、臆することなくやりたいことを行動に移していました」(久保寺先生)

教科横断で身近なテーマから学ぶという授業形式だけでなく、子ども自身が感じたことや考えたことを大切に、子どもの視点に立って授業をつくる山田先生の姿勢が、充実した学びにつながっているのです。

第3回は、2024年度に担任した4年生のクラスで起こった変化、変わる子どもと教師の関係性などについてうかがいます。

─◆─◆─◆─◆─◆─◆

【山田剛輔 プロフィール】
茅ヶ崎市立香川小学校総括教諭。2005年に教員になり2024年で20年目。2018年から香川小学校に勤務。2024年9月『時間割から子どもと一緒につくることにしてみた。』(学事出版/共著)を出版。神奈川県「第1回いのちの授業大賞」優秀賞受賞。

山田先生の共著『時間割から子どもと一緒につくることにしてみた。』(学事出版)には、プロジェクトの実践内容が詳しく紹介されています。

取材・文 川崎ちづる

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