【中学受験】「成績が上がるお手伝い」があった! 勉強だけは逆効果? 専門家が語る「思考力」の育て方
中学受験でのケアレスミスは、日常生活に原因があります。専門家がテストのミスと「忘れ物」の共通点を指摘。集中力と注意力を上げる「片づけ」、思考力を養う「お手伝い」、記憶を定着させる「睡眠」など、家庭でできる生活習慣の改善術を解説します。
【▶画像】博士ちゃん厳選!子と楽しむお城3選テストでのケアレスミスは、日常生活の「うっかり忘れ」と同じ原因から生まれています。オンライン個別指導塾代表の野英利香(のえりか)先生は、「忘れ物が多かったり、落ち着きがなかったりするお子さんは、テストでも同様のミスを起こしやすい」と指摘します。
これは逆に言えば、日々の生活習慣を見直すことで勉強のミスも確実に減らせることにつながります。
連載の最終回は、注意力や集中力を育み、ミスを減らす力を養う「生活習慣」について解説します(全3回の第3回)。
忘れ物をなくす注意力の育て方
テストでのケアレスミスは、日常のうっかりミスと同じところから起きています。つまり、忘れ物をする子どもは見直しを忘れたり、問題文を読み飛ばして自分の都合のいいように解釈したりする傾向があります。
「注意力が足りないお子さんは、ぱっと問題を見て、ささっと解いてそれで終わりにしてしまいます。見直しをしていれば、写し間違えなどにも気づけるのに、もうひと押しの確認が足りないのです。
そんなお子さんは忘れ物にも特徴が出ます。たとえば、筆箱は持ってきているのに消しゴムだけ入っていない、といった非常に惜しい状況が見受けられます。
私の塾ではこのタイプのお子さんには、学校や塾へ行く前日に、ご家庭で持ち物チェックをする習慣をつけてもらいました。
加えて塾の授業では、出した答えが本当に合っているか、必ず確認するトレーニングをしました。すると忘れ物がなくなり、テストの見直しも自分でできるようになって、ケアレスミスが激減したのです」(野先生)
授業の様子。ケアレスミスをなくすために、日ごろ気をつけるポイントを指導することも。 写真:野英利香氏提供
持ち物確認は、答えを見直す学習行動と同じ思考プロセスです。生活の中で確認の習慣が身につくと、テストでも最後まで注意を向けられるようになります。勉強以外の場面でも確認を習慣化することが、テストでのケアレスミスを減らすことにつながります。
「忘れ物の多いお子さんはカバンの中がグチャグチャで、必要なものを探すのに時間がかかることもよくあります。そういったお子さんはテストでも、問題文の中から大事な情報を見つけるのが苦手です。頭が混乱して他のものが気になり、集中できずに計算の手順を抜かしたり、書き間違えたりします。
一方で、整理整頓された環境は注意を向ける対象が少なくなり、テスト中の集中力もぐっと高まります」(野先生)
「片づける力」は集中力や注意力とも深くつながっています。空間を整理することは、頭の中の情報を整理する練習にもなり、ケアレスミスを防ぐ土台づくりになるのです。
思考力がアップするお手伝い
受験生には勉強だけをさせがちですが、受験勉強をしている子どもにもぜひやらせてほしいのが、お手伝いだと野先生は話します。
「日常生活の中には実践的に学べることがたくさんあります。たとえば料理は、容積や重さの単位に触れることができます。計量スプーンではcc(シーシー)が、計量カップではml(ミリリットル)とccが、キッチンスケール(はかり)ではg(グラム)がわかり、実際の量も体験することができます。
また、調味料や食材を混ぜたり加熱したりすれば、化学反応がわかる理科の実験につながり、食材の産地を調べて地図帳で照らし合わせれば社会の勉強にもなります。料理のお手伝いだけでも、勉強のポイントがいくつも見つかります」(野先生)
お手伝いすることで興味を広げて考える力が養われる。 写真:Hakase/イメージマート
「最近のお子さんはチャレンジすること自体が怖いのかな、と感じます。失敗して嫌になり思考を停止させてしまったら、そこでおしまいです。自分から進んで何かをすることが少なく、受け身の姿勢の子が増えているからこそ、家でお手伝いをさせて考える力を養ってほしいです」(野先生)
お手伝いは勉強のように正解を探すのではなく、机の上でしか理解していなかったことを「実生活で試す実験場」です。どうやったらできるようになるか、目の前の問題について自分なりに考えて解決するという点では、勉強も普段の生活も同じです。
勉強の時間だけ「ミスをしないように」「よく考えるように」と注力するよりも、遠回りに見えても、積極的にお手伝いをさせてみると子どもの成長が見込めます。
失敗してもどうすればうまくいくか、自分で考える経験を積むことで、思考力や問題解決力が育ちます。その力が、諦めずに考え抜く粘り強さへとつながるでしょう。
質の良い睡眠は脳がよく働いて集中力が増す
脳は睡眠中に昼間の出来事や覚えたことを整理して、必要な情報を記憶として定着させます。睡眠不足になると集中力の低下やケアレスミスを招くだけでなく、勉強してせっかく覚えた内容を忘れやすくします。
特に、夏休みや冬休みなど長期の休み中は生活習慣が乱れがちですが、休みの日でも決まった時間に起きて寝ることは、体を整えることにも、脳を最高の状態に保つことにもつながります。
「できるなら、夜型の生活を思い切って朝型にしてみてください。ぐっすり寝たあとなら頭がクリアになって勉強もはかどり、脳が活発に働く午前中を有効利用できます。
受験当日の朝は、通常より早く起きて出かけます。早起きが苦にならず、テストの時間帯に頭が冴える習慣作りとしても、ケアレスミスを防止するためにも、朝型にチャレンジしてみてはいかがでしょうか」(野先生)
睡眠は脳が情報整理を行う重要な時間です。十分な睡眠をとることで朝の集中力が高まり、ケアレスミスが減って学習効率も上がります。ミスを防ぐには勉強時間を増やすより、よく眠って脳をベストコンディションで働かせることが不可欠といえるでしょう。
ケアレスミスを防ぐために子どもの生活習慣を整えることができるのは、親御さんだけです。忙しくて子どもと多くの時間を共有できない親御さんが増えているからこそ、我が子と向き合う時間を持って、改善策を共有することが大切です。
子どもが自分で取り組めるような仕組みに整えて、受験を上手にサポートしていきましょう。
取材・文/石牟礼ともよ
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◆野 英利香(の えりか)
オンライン全国個別指導塾「E-School☆」代表。中高の数学と理科の教員免許を活かして、家庭教師から口コミで広がった塾の経営は17年目。東京と山形を拠点に勉強を習慣化するためのオンラインスクールを運営し、小学生から高校生まで日本国内外の子どもたちを指導している。塾講師としての経歴は20年を超え、これまで3000人以上の指導実績がある。
著書は「小学生のためのケアレスミスがなくなる本」(すばる舎)、「中学入試 親子で取り組む! ケアレスミスがなくなるドリル」(日本能率協会マネジメントセンター)。