岩手3世界遺産(平泉・橋野鉄鉱山・御所野遺跡)を同時発信 登録10周年の釜石でまつり
国内最多、鹿児島、奈良両県と並んで3つの世界遺産を有する岩手県。その価値を一堂に発信し、理解や誘客につなげようと、県主催の「いわて世界遺産まつり」が今年も開かれた。会場となったのは、登録から10周年を迎えた「橋野鉄鉱山」がある釜石市。11、12の両日、同市大町の市民ホールTETTOで開催され、来場者が講話やディスカッション、展示で遺産への理解を深めるとともに、民俗芸能や音楽ライブを楽しんだ。
本県の世界遺産は2011年登録の「平泉(の文化遺産)」、15年登録の「橋野鉄鉱山」、21年登録の「御所野遺跡(一戸町)」の3つ。橋野鉄鉱山は「明治日本の産業革命遺産(8県11市23資産)」、御所野遺跡は「北海道・北東北の縄文遺跡群(4道県13市町17資産)」の構成資産として登録された。同まつりは22年から始まり4回目の開催。釜石が会場となるのは23年以来2回目となる。
12日のイベントではオープンスクールとして、平泉と橋野鉄鉱山の概要などを学べる講話があった。平泉町世界遺産推進室長補佐の島原弘征さんは、奥州藤原氏が目指した仏国土(仏の教えによる平和な理想社会)について「(世界遺産になった)中尊寺金色堂や毛越寺の浄土庭園は平和の理念を当時の人々に分かりやすく伝えるためのもの。最先端の技術を使い、文化レベルの高さを示すことで、朝廷(京都)と対等な関係を築こうとした」と解説。池の形や道路の位置など当時の地形、風景が状態よく残っていたことも評価のポイントに挙げた。
釜石市教委文化財課世界遺産室長の森一欽さんは、明治日本の産業革命遺産について「イギリス、フランスでは約200年かかった産業革命を、日本では60年ぐらいで成し遂げている」と、その価値を示した。同遺産は「製鉄・製鋼」「造船」「石炭」の3分野を基盤に急速な発展を遂げていく過程を3段階で示す。①試行錯誤の挑戦…萩や韮山の反射炉建設、大島高任が蘭学書を頼りに釜石で高炉を建設し、鉄鉱石からの鉄づくりに成功した時期。②西洋の科学技術の導入…外国人技術者の招へいによって西洋の科学技術導入が進み、長崎の造船、石炭産業が発展していく時期。③産業基盤の確立…釜石のコークス炉の技術を導入した官営八幡製鉄所が成功。長崎(端島)、三池の石炭産業が近代化され、日本が国際水準に達していく時期。森さんは釜石と他の遺産エリアとのつながりも紹介。製鉄では「近代製鉄発祥は釜石。達成は八幡」と覚えやすいフレーズを残した。
会場では岩手の世界遺産に関係したものづくりのワークショップを開催。御所野は組紐、橋野は鋳造、平泉は絵付け体験などを実施。県内高校生による民俗芸能公演もあった。音楽ライブには奥州市出身の鶴田流薩摩琵琶演奏家千山ユキさん、大槌町出身の大久保正人さんを中心に結成する音楽集団「和美東(わびとう)」が出演した。千山さんは源氏物語をテーマにした「春の宴」、奥州藤原氏初代清衡の平和への願いを込めたオリジナル曲「修羅と浄土」を披露。和美東は、自然や神への思いを込めた「光る海」「涙の糸」など4曲を演奏。両者のコラボで「祇園精舎」、宮沢賢治作品「ポラーノ広場」の中の歌曲も披露した。
母親と訪れた市内の小学生菊池芽生さん(10)は来場とともに体験コーナーへ。スズを溶かして鋳造するキーホルダーづくりを楽しんだ。干支の“羊”をかたどり、「(出来栄えは)まあ、いいほうかな」とにっこり。県内の世界遺産は「橋野と平泉は知っていた。3つもあるのはすごいと思う」。歴史が好きで大河ドラマも視聴。行ってみたい世界遺産を聞いてみると「清水寺(古都京都の文化財、1994年登録)」との答えが返ってきた。
県文化スポーツ部文化振興課の和田英子総括課長は「世界遺産は価値の普及が大事。保存の必要性を知り、世界の宝としてみんなで守り、引き継いでいく姿勢が必要」と話す。3遺産は地理的距離があり、「県外の方は1回で回るのは難しいと思うので、先々でのさまざまな観光も楽しみに何回も足を運んでもらえれば」と期待する。