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我が子の小学校でもやってほしい! 教科横断型「プロジェクト」で教室が変わる! 公立小学校教師の革新的取り組みとは

コクリコ

教科の枠にとらわれない「プロジェクト」型授業を実践する、茅ヶ崎市立香川小学校山田剛輔先生の連載第3回。教科書どおりの内容を「教える」「教えられる」授業をやめたことで変わった、教師と子どもたちの関係性、教室の様子をリポートします。

子どもの主体性は「思わず出ちゃう」もの 「育む」ものでも「引き出す」ものでもない〔ある公立小学校教員の驚きの実践〕

「プロジェクト」に教科を組み込み、生活に関わるリアルなテーマで学習する。公立小学校でこうした授業を実践しているのが、茅ヶ崎市立香川小学校の山田剛輔先生です。

正解がないプロジェクトでは、子どもと先生が一緒に考えることが多くなります。そうした時間が山田先生と子どもたちの関係にも影響し、教室の雰囲気も徐々に変わっていきました。

子どもと山田先生が対等に話し、ともに学びをつくる授業をリポートします。

想定外!「ルワンダの総合学習」が多方面に拡大

子どもたちの行動が広がる「プロジェクト」

子どもの生活に直結したテーマで、行動しながら学ぶ「プロジェクト」。始まり方はさまざまですが、先生の問いかけから子どもたちのアイデアが立ち上がり、大きな活動につながることも多いといいます。

『ルワンダ募金プロジェクト』も、総合学習の授業がきっかけです。

ルワンダで義足をつくる、茅ヶ崎市出身の義肢装具士・ルダシングワ真美さんの来日講演会に僕が携わっていたんです。それで、子どもたちにルワンダの大虐殺について話をし、義肢装具士の仕事内容や真美さんの活動を伝えました。

授業の最後になにげなく、自分たちにできることはあるかな、と聞いてみると、『募金をしたらいいんじゃない?』と声があがりました」(山田先生)

子どもたちはすぐに、複数回の募金活動を計画します。土曜日の「共育参観日」※に募金を呼びかけることに加え、休日には街頭にも立ちました。そして、約10万円ほどの募金を集め、講演会当日に直接ご本人に渡しました。
※共育参観日:香川小学校では、「子どもをともに育てる」「子どもとともに、教師と保護者も育つ」という意味で、授業参観日ではなく「共育参観日」と呼んでいる。

街頭募金を行う子どもたち。  写真提供:山田剛輔氏

真美さんのルワンダ帰国後も交流は続き、現地と教室をオンラインでつないで、実際にどのように義足をつくっているのかを見せてもらったり、現地で働く人がどのような思いで義足をつくっているのかを聞いたりしました。子どもたちは寄付したお金の使われ方を具体的に知って、改めて活動の意義を実感することができたといいます。

真美さん夫婦に募金を渡したあとの記念撮影。  写真提供:山田剛輔氏

さらに、国語の授業でもこの交流がいきることになります。

「ちょうど『伝統工芸品の魅力を伝えよう』という単元があり、子どもたちは工芸品について調べ、文章や写真を使ってまとめる学習に取り組んでいました。せっかくなら、ルワンダの人たちに向けて紹介してはどうか、と子どもたちに提案すると、『いいね』『そうしよう』と盛り上がりました」(山田先生)

工芸品のまとめ方を学ぶ子どもたち。  写真提供:山田剛輔氏

具体的な対象を設定したことで、子どもたちのモチベーションが高まり、学習が効果的に進んだといいます。

「『ルワンダの人たちに伝わる説明になっているか』と立ち戻ることで、何を書いたらいいのか、どう工夫すればいいのかが明確になります。僕も『○○という単語は、ルワンダの人は知らないだろうから説明したほうがいいんじゃないか』といった具合に、具体的に指導できます。『ここはわかりにくいから直して』と先生の基準だけで指摘されるよりも、子どもも納得して考え直しますよね」(山田先生)

実際に子どもが伝統工芸品について解説した作品。  写真提供:山田剛輔氏

当初ルワンダのことを伝えたときには、こんなに多方面に発展するとは考えていなかったと話す山田先生。「子どもたちの関心や熱意で募金活動が実現し、そこから交流が続いて新たな学びにつながる。教師の想像を超える展開になるのが、プロジェクトの醍醐味です」と、笑顔で語ってくれました。

「教える」「教えられる」関係を超えて

立場を問わずアイデアや意見を出し合う「プロジェクト」での学びは、子どもたちと山田先生の関係にも変化をもたらしました。

多くの場合、授業の方向性は先生が決め、それに沿って学習が進みます。正解を知っていてそこに導く教師と、教えられる子ども、という構図です。

しかし、プロジェクトでは、先生自身も次の展開を知りません。どうやって進めるのがスムーズなのか、何をすればうまくいくのかは毎回異なり、いつも何が最適なのか探っています。その結果、「子どもたちと対等でいられる」と山田先生は話します。

取材の日も、プロジェクトのアイデアを練る子どもたちから「え~わからない」「どうしたらいいの~」と相談されると、山田先生は「こんなふうに考えてみるとか……」と子どもたちと一緒に悩んでいました。正しいアドバイスで子どもたちを「指導している」雰囲気はありません。

こうした時間の積み重ねが、子どもたちと先生の距離感を「独特」なものにしています。

教室での山田先生の振る舞いは、ある意味で「先生らしくない」ともいえます。少しザワザワしても「静かにしなさい」と大きな声でその場を制すことはせず、必要なときに「○○さんが話しているから、みんな聞こう」などと伝えます。

その理由を尋ねると、山田先生は少し考えたあと、「『先生に言われたから静かにする』ということ自体、ちょっと変だと思いませんか」と切り出しました。

「本当は、子どもたちは自分で周りの様子を見て、人との関わりの中で考え、今は静かにしたほうがいいなと判断できるんです。だけど、担任が先に言ってしまうと、自分で考える機会を奪ってしまう。

僕は子どもたち自身に考えて、行動してほしいと思っています。なので、指摘するときはできるだけ、なぜ今しゃべってはいけないのかなど、理由も合わせて説明することを心がけています」(山田先生)

山田先生が、子どもを「一人の自立した存在」ととらえていることがよくわかります。

「嫌だ」と言える教室

学校では当たり前となっている「先生の言うことには無条件に従う」という前提に、強い抵抗を感じるという山田先生。教室が子どもたちにとって「自分の意見を言える場所」であることも、大切にしています。

「僕が『これをやらない?』と問いかけても、やりたくなければ『嫌だ』と言っていいと思っています。

それは必ずしも、『嫌なことはすべてやらなくていい』ということではありませんが、気持ちを話してもらえばその理由を聞き、対話しながら最善の方法を考えることができます」(山田先生)

取材中、山田先生からの提案について、「自分はしたくない」と意思表示した子が数人いました。先生はその子たちの話を聞き、子どもたちが許容できる方向性を探っていました。

学校、クラス、授業のつくり手は子どもたちです。僕も参加者の一人ですが、中心ではありません。学校生活をよりよくするためにはどうしたらいいのかを、常に子どもたちと一緒に考えることが重要だと思っています」(山田先生)

子どもの「うねり」に向き合う

子どもたちの興味や好奇心を大切に、リアルなテーマで学ぶ山田先生の授業。子どもたちの学習意欲は高いといいますが、いつも順調に進むわけではありません。

「プロジェクトメンバーごとに進めていくための時間をとっても、話が逸れてしまったり、意見がまとまらなかったりすることもあります。でも、そうした経験をすることもまた、学びだと思っています。

前回の話し合いはうまくいかなかった、じゃあ次はどうしたらいいか、など考える材料にしながら、一歩一歩活動を進めています」(山田先生)

それぞれが自分の担当するプロジェクトを進行中。  写真:川崎ちづる

2022年から山田先生の授業に伴走する久保寺節子先生(青山学院大学教育人間科学部特任教授)は、「すべての子が朝から午後3時ごろまでずっと集中して取り組むなんて、普通に考えて難しいですよね。しかも、子どもたち全員が同じリズムで、均一的に学ぶということはありえないと思います」と話します。

久保寺先生は、こうした前提を踏まえて山田先生の実践を次のように評価します。

「授業の中である子はすごく前向きに取り組むけれど、気持ちが乗らない子もいます。ですが、子どもの意欲は1時間(日・週)の中でも変化し、気持ちが乗らなかった子が真剣に取り組む姿があります。そのような一人ひとりの気持ちの「うねり」※が、学級の1時間・1日の中で急にぐっと凝縮されたように集中するときがあります。

※佐藤学氏(東京大学名誉教授)は、「学びという経験の時間は、本来、うねりのある個人的で質的な時間であり、可逆的で循環的な時間である」と述べている。佐藤学「学びの対話的実践へ」佐伯胖・藤田英典・佐藤学編『学びへの誘い(シリーズ学びと文化①)』東京大学出版会、1995年、p76

そのときの子どもたちが学びに向かう集中力は、本物です。誰かに指示されたからではなく、一人ひとりの「うねり」が互いに連鎖し、学級全体で響き合う関係から立ち昇ってくるのです。そこで学ぶ心地よさを味わった子どもたちは、次により深く学ぼうとするでしょう。

山田先生は子どもたちの『うねり』を尊重します。積極的になれなかったり、集中できなかったりするときの子どもの声に向き合い、対話しながら一緒に学びをつくっています。

大人の予想をはるかに超えた学びが生まれるのは、そうした山田先生の子どもを心から信頼するまなざしがあるからではないでしょうか」(久保寺先生)

第4回は、「プロジェクト」における評価のあり方、子どもの意欲につながる評価方法を模索する山田先生の取り組みについてうかがいます。

─◆─◆─◆─◆─◆─◆

【山田剛輔 プロフィール】
茅ヶ崎市立香川小学校総括教諭。2005年に教員になり2024年で20年目。2018年から香川小学校に勤務。2024年9月『時間割から子どもと一緒につくることにしてみた。』(学事出版/共著)を出版。神奈川県「第1回いのちの授業大賞」優秀賞受賞。

山田先生の共著『時間割から子どもと一緒につくることにしてみた。』(学事出版)には、プロジェクトの実践内容が詳しく紹介されています。

取材・文 川崎ちづる

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