「大学時代に軽く挫折した」からあげのエンジニアとしての原動力の正体【聴くエンジニアtype Vol.53】
聴くエンジニアtype
新しい環境に飛び込むことに不安を感じる人は多いだろう。長年同じ企業でキャリアを築いてきた人であればなおさらだ。
1社目で10年以上働きながら、まったく違う領域に飛び込んだからあげさんには不安はなかったのだろうか?
新しい環境に身を投じた、当時のからあげさんの心境に迫った。
東京大学松尾研究室/株式会社松尾研究所
データサイエンティスト
からあげさん(@karaage0703)
『人気ブロガーからあげ先生のとにかく楽しいAI自作教室』(日経BP)『Jetson Nano超入門』(ソーテック社)を執筆。『ラズパイマガジン』『日経Linux』など多数の商業誌・Webメディアへも記事を寄稿。 個人としてモノづくりを楽しむメイカーとして「Ogaki Mini Maker Faire」をはじめとした複数のメイカー系イベントに出展。好きな食べ物は、からあげ
【MC】
エムスリー株式会社 VPoE
河合俊典(ばんくし)さん(
)
Sansan株式会社、Yahoo! JAPAN、エムスリー株式会社の機械学習エンジニア、チームリーダーの経験を経てCADDiにジョイン。AI LabにてTech Leadとしてチーム立ち上げ、マネジメント、MLOpsやチームの環境整備、プロダクト開発を行う。2023年5月よりエムスリー株式会社3代目VPoEに就任。業務の傍ら、趣味開発チームBolder’sの企画、運営、開発者としての参加や、XGBoostやLightGBMなど機械学習関連OSSのRust wrapperメンテナ等の活動を行っている
「人の役に立つもの」を生むためなら、手段はこだわらない
ばんくし:からあげさんは10年以上勤めた会社を辞めて、転職されてますよね。長年キャリアを築いていて、既にAI領域での知名度もある……となると、あえて転職しなくても新しいことができる状況だったと思うんですよね。新しい環境に飛び出した理由は何なのでしょうか?
からあげ:正直分からないです(笑)。自分の中で新しいことをやりたくなる周期があるみたいで。その背景にはネガティブな要素もゼロではないですが、基本的にはポジティブな理由が多いですね。
新しいことがやりたくなったときって、それができるように「今いる環境を変える」という方法と、今いる場所を飛び出して「違う環境に身を置く」という方法の二つがありますよね。前の会社は規模が大きかったので環境を変える難易度が高かったし、その環境に満足していたり誇りを持っていたりする人もいる中で、自分の意志で変えるなんておこがましいという気持ちもあって。
社内異動を繰り返してはいたのですが、自分の力を発揮できていないというフラストレーションを抱えることが多くなっていきました。だから会社を飛び出して違う環境に身を置くことを選びました。
ばんくし:「俺はまだまだやれる」という気持ちもありましたか?
からあげ:傲慢に言えばそうなりますね。その気持ちは人より強いかもしれないです。
ばんくし:からあげさんの貪欲な側面が垣間見えていいですね。一方で、先ほど「今いる環境を変えてしまうのはおこがましい」という話もされていました。そういう気持ちは当時からあったのですか? それとも今振り返って気付いた感じですか?
からあげ:当時はそこまで考える余裕はなかったですね。いざ転職するとなった時や今振り返ってみて気付きました。
ばんくし:新しいことができるようになったり、知的好奇心が満たされたりするのって楽しいですよね。
からあげ:そうですね。あと、人の役に立つものを作るのが好きだということにも最近気が付きました。
ばんくし:私的には、からあげさんは昔からそういうイメージがありましたよ。特にブログの最初のころは、どちらかというと技術的な話よりも役立つものや楽しいことを発信している人というイメージが強かったです。
からあげ:だからかもしれないですけど、ハードウエアとかソフトウエアとか、そういった種類の違いにこだわりがないんですよね。今AIに従事しているのも、いろいろできて便利だから。「めちゃくちゃプログラミングが好き」という人とは毛色が違うかもしれないです。
ばんくし:「技術が好き」よりも「人に楽しんでもらいたい」「人の役に立ちたい」という欲のほうが強い、と。
からあげ:そのための手段は何でも良い……と言うとこだわりがなさすぎに聞こえるかもしれませんが、逆に言えばどんなことでもわりと楽しめる方だと思います。
ばんくし:「技術」の部分への興味関心は、昔から決して高くはなかったのでしょうか。
からあげ:いえ、子どもの頃からパソコンを触るのは好きでした。と言っても、私が子どもの頃はまだあまりパソコンが普及していなくて、MS-DOSで黒い画面にひたすらコマンドを打つみたいなものしかなかったんですが。
ばんくし:「パソコンが好き」という気持ちから始まって、それがどこかで「人の役に立ちたい」という気持ちに変化したのですね。
からあげ:技術的な部分もすごく好きではあったのですが、大学ですごすぎる人に出会って、「技術一本では闘えない」と軽く挫折したんです。そこで、一つのことにこだわるよりも領域を広げた方がいいんだろうなと気付いて。ハードにもソフトにも手を出したのは、そういうところもあるかもしれないですね。
ばんくし:いろいろな道を模索した結果、今のからあげさんがいるのですね。
AI分野には高学歴で優秀な学生がどんどん入ってきていると思うのですが、今は挫折というよりも刺激を受けるという感じに変わってきていたり?
からあげ:そうですね。刺激を受けっぱなしです。同じ研究室のメンバーに対しても、ライバルというよりAIを社会実装していく仲間という意識が強いです。自分にできないことは協力してもらうことも多いですし。優秀な人と一緒に新しい価値を作っていくのが楽しいです。
ばんくし:競い合うよりも、「一緒に作る」という視点を持つことって、とても大切ですよね。
文/赤池沙希