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Nothing's Carved In Stoneが30曲超えの圧巻セットリストで挑んだ、15周年イヤー締めくくりの武道館ワンマン

SPICE

Nothing's Carved In Stone

Nothing's Carved In Stone 15th Anniversary Live at BUDOKAN 2024.2.24. 日本武道館

場内が暗転すると、ステージ後方のスクリーンにムービーが流れ出した。バンド始動時点から現在へ向かって1年ずつ西暦をカウントアップしながら、ライブ映像やMV、ジャケット写真などが映し出されていく。映像が2018年に差し掛かり、初の武道館ワンマンの様子が映し出されたところでメンバーが登場。盛大な歓声と拍手が出迎える中を映像はさらに進み、いまこの瞬間へと到達。次の瞬間、唐突に鳴り響いた空間ごと切り裂くような生形真一(Gt)のピックスクラッチ。赤く染め上がるステージで村松拓(Vo/Gt)が叫ぶ。「準備できてるか! 声、聞かせてくれよ!」。そうきたか。いきなりの「Out of Control」で、Nothing's Carved In Stone(以下、ナッシングス)にとって2度目の日本武道館ワンマンライブは幕を開けた。

前回の武道館から5年半弱。あっという間な気がするが、思い返せば多くの出来事や変化のあった5年間でもある。バンドは独立&自主レーベルの設立を果たしたし、コロナ禍が活動に影響を及ぼした期間も長かった。一昨年から昨年にかけては、凄まじいペースで活動を続けてきた彼らにとっては初めて、制作やライブのペースを落としていた時期もあった。5年の歳月と経験はバンドにどんな影響を及ぼし、何をもたらしたのか──。この日のライブはその回答たり得る、ナッシングスの進化と真価を示すものだった。

Nothing's Carved In Stone 撮影=河島遼太郎

「Out of Control」の興奮を引き継いだのは、現時点での最新アルバム『ANSWER』に収録されたヘヴィチューン「DeeperDeeper」。ド迫力の重低音と20年くらい時空を超えてきたようなミクスチャーライクな音に、サイバーパンク風の映像演出が映える。大喜多崇規(Dr)のドラムから突入した「YOUTH City」ではCO2ガスが噴出。ステージセット自体は普段とそう変わりはないが、曲のカラーに合わせた特効や照明使いが武道館らしい特別感をもたらしていた。歌い出しと同時にクラップが湧き上がった「ツバメクリムゾン」は、メロディアスな曲調とスケールの大きなサウンドを併せ持った必殺のアンセム。間奏ではベースという楽器の概念を超越していく日向秀和(Ba)のプレイに耳目を奪われた。

最初のブロックの時点から、曲調も発表された年代も様々な楽曲たちが並んでいたが、それもそのはず。この日のライブは事前に周知されていた通り、ファン投票の上位20曲+これまでに発表した11枚のオリジナルアルバムからメンバーが1曲ずつセレクトした11曲、つまり30曲超を演奏することが確約されているのだ。「まだ5曲しかやってないけど、もう帰ってもいいくらい」(村松)と冗談を飛ばしつつ、ライブはさらに加速。ほぼノンストップで演奏を続けていくことに。

村松拓(Vo/Gt) 撮影=西槇太一

村松拓(Vo/Gt) 撮影=河島遼太郎

ダークに蠢くベースラインと打ち上がる炎が興奮を誘う「Cold Reason」、テクニカルながら情感豊かなプレイで魅せた「Words That Bind Us」。変拍子のナンバーを2つ続けて演奏した後の「Sands of Time」もまた、ずっとフィルみたいなドラムとずっとソロみたいなギターが続く後半部分の畳みかけなど、良い意味で常軌を逸している。このあたりの1stや2ndアルバムの曲たちは、活動を開始して間もない当時のナッシングスのギラギラとしたモードを如実に映すようだ。また、村松と生形が向かい合ってのギタープレイに歓声が飛んだ「Brotherhood」、レーザーが乱舞する中でスタジアムロックの風格を纏い鳴らされた「Stories」といった中期以降のナンバーからは、オーディエンスを巻き込む求心力を強めてきたバンドの歩みが伝わってくる。とはいえ、いずれも今のプレイスキル、今の指向性によってアップデートされた過去曲たちがもたらすものは、感慨よりも斬新な驚きだ。

続いては、文字通り会場を震撼させる重低音を轟かせた「Gravity」、村松の力強くもどこか優しげな歌からはじまり、やがて縦に攻める高速4つ打ちサウンドへと至る「村雨の中で」といったあたりは、ナッシングスのオルタナティヴな一面を印象付けるブロック。あくまでロックバンドの形態と人力によるプレイを主軸とし続けながらも、テクノやデジタルなダンスミュージックと融合し、ポストロックやマスロックの構造やプログレッシヴな曲展開まで取り込んできた彼らの音楽性を、最も端的に伝えるタイプである。そしてそういう曲がしっかりとファン投票で選ばれてセットリスト入りしているところに、ファンとの相互理解、相思相愛ぶりが伺えてなんだか嬉しい。

生形真一(Gt) 撮影=河島遼太郎

生形真一(Gt) 撮影=西槇太一

ストレートな日本語詞をどっしりとしたサウンドで届けた「Walk」のアウトロで、突如として聴こえてきたホーンの音色。袖から現れたSOIL&"PIMP"SESSIONSのトランペット奏者・タブゾンビは、続く「Inside Out」でもダンス/テクノ系のハイブリッドサウンドにホーンが融合する意外性で楽しませてくれた。中盤で特に印象に残ったのは、「Everlasting Youth」。ロックバンドのフォーマットにR&Bやソウルといったブラックフィーリングを取り込んだアプローチは昨今のトレンドの一つだが、これはアルバム『echo』に収録された10年以上前の曲である。メンバーセレクトでこの曲を選んでくれたことによって、かつての彼らの先進性にも気付かくことができた。

ライブもそろそろ折り返しというタイミングでヘヴィなギターリフ一閃、「In Future」が投下される。羽織っていたシャツを脱いだ村松は、ハンドマイクで会場の隅々まで見渡すようにして堂々と歌い、アウトロでは「行こうぜ、武道館‼︎」とさらなる高みへと観客たちを誘う。歌の面でもステージングの面でもここ5年間の村松の進境は著しく、強烈かつ複雑なサウンドに埋もれない力強さはそのままに、自在性と訴求力がプラスされた印象だ。彼のフロントマンシップが存分に発揮される、ナッシングス随一のピースフルなナンバー「きらめきの花」を経て、石碑に文字が刻まれていく映像演出を伴った「Diachronic」も最高。メロウな音色とクールかつドラマティックな曲展開にどっぷりと浸ることができた。

大喜多崇規(Dr) 撮影=河島遼太郎

大喜多崇規(Dr) 撮影=西槇太一

「良かったよ、やって。やってきて良かった」

束の間のMC、村松が「積み上げてきた人生を詰め込んだ、めちゃくちゃ洗練された曲が多くて。過去の自分たちに感謝しました」とキャリアを総ざらいにして組み上げたセットリストに言及したあと、噛み締めるようにそう言った。そうして演奏された「Music」の、ひときわ強くバンド感を放ちながらぶつかり合い絡み合う4人の音は、とてつもなくエモーショナルであった。

終盤にかけてはキラーチューンのオンパレード。ファストでパンキッシュな「You're in Motion」、再び登場したタブゾンビを交えたお馴染み「Spirit Inspiration」。ファン投票で1位だったという「November 15th」では、噴出したテープ素材の紙吹雪にレーザーが反射して煌めく絶景が生まれた。「Isolation」で場内から盛大な歌声が送られた際には、村松が満足げに微笑みながら手を合わせ応える。本編最後に披露された「BLUE SHADOW」は、どちらかといえばバラード寄りながらナッシングス屈指の壮大なサウンドスケープを描く曲。スクリーンにはバンドやレーベルのロゴのグラフィティが描かれた壁と、その上を悠々と飛んでいく4羽の鳥が映し出される。曲がクライマックスを迎えると、それまで落ち着いたトーンで描写されていた映像に色が入り、朝焼けのような色彩の中で演奏が終了した。

日向秀和(Ba) 撮影=西槇太一

日向秀和(Ba) 撮影=河島遼太郎

アンコール。村松にマイクを振られた生形が語り出す。16年前に下高井戸のドトールコーヒーで、日向と「めちゃくめちゃカッコいいバンドやろうぜ」と話し合ったこと、そこから大喜多が加わり、ボーカリストを探す日々の末に村松を見つけたこと。そうして生まれたバンドが15周年を迎えてこの場に立てていることを光栄に思っているということ──。さらに、この15年の間に人と人との繋がりが希薄になったと感じるとした上で「俺らは自分の意思を曲げずに、一対一の付き合いをしていこうと思うので、これからもNothing's Carved In Stoneをよろしくお願いします」と締め括り、場内からは万雷の拍手が送られた。後を受けた村松は、今のナッシングスはこれまで以上にバンド内の意思疎通ができており、いまや一つの生命体になっているのだと語り、「もっともっと先へ行こうと思ってます」と力強く宣言したのだった。

その後、ファン投票上位曲でまだ演奏されていなかった「Around the Clock」と「Sunday Morning Escape」を届けて"公約"の31曲を達成。だがライブはまだ終わらない。最後に演奏されたのは、最新曲「Dear Future」だった。力強いビート、どっしりとしたベースに歪んだカッティング主体のギター、真ん中に据えられたメロディアスな歌という、構成としては(ナッシングスにしては)ストレートなロックサウンドだ。ここへ来てこういう「バンドで鳴らすこと」と衒いなく向き合うような曲が生まれるとは、なんて素晴らしいことだろう。積み重ねてきた年月や"味"みたいな部分はちゃんと内包した上で、とことんエネルギッシュな音が映し出したのは、16年目を迎えてなおロックバンドにワクワクしている4人の姿。ナッシングスとはそういうバンドなのだ。

Nothing's Carved In Stone 撮影=河島遼太郎

「Dear Future」は最後、こんな歌詞で締めくくられた。
<未来も夢も希望も/愛で埋め尽くして>
2024年2月24日。ナッシングス2度目の武道館ワンマンは、まさに隅から隅まで双方向の愛で埋め尽くされ、バンドの未来へ想いを馳せずにはいられない空間だった。

取材・文=風間大洋

Nothing's Carved In Stone 撮影=西槇太一


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