理想の働き方に近づくには。メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用の違い、メリデメを学ぼう
近年、日本でも「ジョブ型雇用」をうたう企業が増えてきました。とはいえ、ジョブ型雇用とは何か、メンバーシップ型雇用との違いは何か、それぞれのメリットやデメリットは何か、「正直よく分からない」という人も少なくないでしょう。
マイナビ転職は2021年、正規雇用者700名を対象にメンバーシップ型雇用とジョブ型雇用に関するアンケート(※)を実施。その結果、多くの人がジョブ型雇用について「イメージできない」と答えたことが分かりました。
雇用方式の違いが、個人の仕事内容や給与、そしてキャリアにどのような影響を及ぼすのか。
今回は、メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用の違いとよくある勘違い、それぞれのメリットやデメリットについて、専門家のコメントをもとに深掘りします。
監修者
本田 一成(ほんだ・かずなり)
武庫川女子大学経営学部教授。著書に『メンバーシップ型雇用とは何か』(旬報社、2023年)、『写真記録・三島由紀夫が書かなかった近江絹糸人権争議』(新評論、2019年)、『チェーンストアの労使関係—日本最大の労働組合を築いたZモデルの探求』(中央経済社、2017年)、『主婦パート—最大の非正規雇用』(集英社、2010年)など。
誤解していないか? ジョブ型雇用=能力主義や成果主義ではない
そもそも「メンバーシップ型雇用」と「ジョブ型雇用」にはどのような違いがあるのでしょうか?
「分かりやすくまとめると、前者は『人材ありき(先に人を採用・育成して、後からその人に適した仕事を用意する)』、後者は『仕事ありき(先に仕事を定義して、後からその仕事内容にフィットした人を採用する)』の雇用方式です。
加えて、メンバーシップ型の企業は人事部門が採用や配置、育成などをメインで担当する(=人事部門の権限が強い)、ジョブ型の企業は現場の責任者やマネジャーが採用にコミットする(=人事部門の権限が弱く、現場の権限が強い)という傾向の違いもあります。
日本企業は昔からメンバーシップ型雇用のイメージが強いのですが、最近は専門人材の採用活発化に伴って、ジョブ型雇用を採用する企業も増えてきました」
ただ、ジョブ型に馴染みがないビジネスパーソンも多いのか、マイナビ転職が実施したアンケートでは、約3割が「ジョブ型雇用についてイメージできない」と回答しています。
「ジョブ型雇用は、これまで『能力主義』『成果主義』などの概念と混同されてきました。しかし、先ほど説明したように(ジョブ型雇用は)単に『仕事内容に軸足を置いた雇用方式』であり、個人の能力や成果とは無関係です。
むしろ、ジョブ型雇用よりメンバーシップ型雇用の企業のほうが能力主義的とさえ言えます。
なぜなら、ジョブ型雇用の企業では決められた仕事内容を遂行できない人はそもそも採用されないし、逆にその仕事をきちんと遂行すれば、仕事のレベルに関係なく、能力や成果を細かく問われることはないからです。
一方で、メンバーシップ型雇用の企業では、仕事の内容に関係なく、当人の能力が高ければ高いほど評価される傾向にあります。
もちろん、ジョブ型雇用の企業であっても、経営者やマネージャーは利益の増大や企業の成長自体が『ジョブ』となっているため、その能力や成果を厳しく問われます。ただ、メンバーシップ型雇用型が主流の日本企業では『下から上まで能力や成果を求められている』ような印象です」
給与が上がりやすいのは「メンバーシップ型雇用」
では、メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用で、給与面にはどのような違いがあるでしょうか。
「給与が上がりやすいのは、メンバーシップ型雇用の方でしょうね。年功序列的な給与制度を採用している企業であれば仕事内容が変わらなくても定期昇給しますし、能力の向上が認められればポジションにかかわらず昇給していく傾向にあるので。
ただ、その能力には“顕在的な能力だけでなく潜在的な能力(ポテンシャル)も含む”という前提があるので、恣意的に評価される可能性もあるわけですが。
一方のジョブ型雇用ではより高い給与をもらえる仕事に移らない限り、給料は変わりませんし、会社の事情で仕事がなくなっても別の仕事が割り振られるわけではありません。原則的に、ジョブがなくなった時点で雇用契約は終了です。
逆に、より上位の仕事ができると会社に認められれば、仕事内容が変わるとともに給料も上がっていきます。『同一労働同一賃金』の考え方ですね。
アンケートの回答からは『ジョブ型雇用になっても給料は上がらない、と考える人が多い』『自分のジョブが明確になるほど評価に対する納得度が上がる』といった傾向がうかがえ、これは事実に近い認識かと思います。
昇進の仕組みも異なります。メンバーシップ型雇用の企業は、さまざまなポジションを経験し現場を熟知した人が昇進していくので、言うなれば「素人をリーダーに育てていく環境」。これは、他社の社長を経験した人が横滑りで社長に就任したり、いわゆる『プロ経営者』が重宝されたりするジョブ型雇用の企業と違うところです。
全員に昇進の可能性が開かれている反面、評価をするためのコストがかさむため、管理職にかかるプレッシャーや業務量はとても大きいものになります。昨今、日本企業で『管理職になりたくない』と考える若手ビジネスパーソンが増えているようですが、雇用方式の観点から考えると納得感もあります」
※管理職はどんな仕事をしているの? 専門家に分かりやすく解説いただきました
管理職はツラいだけじゃない。メリット・デメリットや“無理ゲー”の攻略法を専門家に学ぶ - ミーツキャリアbyマイナビ転職( https://meetscareer.tenshoku.mynavi.jp/entry/data-25 )
ジョブ型雇用に向いている人、メンバーシップ型雇用に向いている人
アンケートの回答では、若年層を中心にジョブ型雇用を望む人が増えている様子がうかがえます。
実際、ジョブ型雇用に向いている人、逆にメンバーシップ型雇用に向いている人の違いは何でしょうか。
「自分の専門性が明確で、キャリアビジョンもある程度見えている人はジョブ型雇用の企業に向いていると思います。先ほどお伝えした通り、同じジョブカテゴリでより上位のジョブに移動できれば給料も上がっていくので、スキルアップ・キャリアアップのプロセスも明快ですから。
あとは、闇雲な部署異動や転勤、性別や働く場所などによって生じる『賃金格差』を避けたい人も、ジョブ型雇用の企業に向いていると言えそうです。
逆にメンバーシップ雇用に向いているのは、自分の専門性やキャリアビジョンがまだあまり見えていない人やさまざまな仕事を経験したい人です。
例えば、アンケートの回答ではネガティブな声も見られる異動や転勤について考えてみましょう。たしかに、せっかく覚えた仕事を次々に変えられたり、環境が大きく変化したりすることへの抵抗感があるのは理解できます。
その一方、メンバーシップ型雇用の企業において異動や転勤は、現場の経験を通じて専門性を見つけたり、昇進への可能性を広げたりするメリットもあります。
実際にアンケートでも、会社意向のジョブチェンジを経験した人ほど『意外な自分の適性を見つけられた』『さまざまなスキルが身に付けられた』と答えていますね。
キャリア形成の側面でも、幅広い専門性を持つことがキャリアの満足感につながることもあると思います。
こうした適性や志向を踏まえて、雇用方式を選んでいくとよいのではないでしょうか」
日本企業が“ジョブ型雇用化”するために必要なこと
とはいえ、今後は日本も少子高齢化による人手不足の影響で、少しずつジョブ型に近い雇用方式が広がっていくと本田さんは予想します。
「人材確保のため、育成コストのかかるメンバーシップ型雇用から中途採用中心のジョブ型雇用に切り替える企業も増えてくるでしょう。採用のため雇用条件がより柔軟に設定され、複数の仕事を掛け持ちする人も増えそうです。
そうなると、正社員と非正社員の二択ではなく、すべての従業員が契約社員となるような、“総契約社員化”の流れも生まれてくるのではないでしょうか。そのタイミングで初めて、日本企業がジョブ型雇用に近づくと考えています。
そして、総契約社員化した社会で大切なのは、自分自身で年収やキャリアをコントロールしていくこと。
企業と給与交渉に望んだり、キャリアビジョンをデザインしたりするうえでは、スキルアップのみならず、ワークルールや労働条件に関する知識も身に付けることが必要不可欠でしょう」
メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用は、単なる雇用方式の違いではなく、個人の働き方やキャリアの根幹にかかわってくるものです。
将来の「なりたい姿」は何なのか。日頃の仕事から少し離れ、雇用方式の側面から考えてみるとイメージがより具体化していくのではないでしょうか。
この先のキャリアビジョンを考えるうえで、雇用方式に対する理解を深めるのは不可欠です。マイナビ転職には、キャリアアップ、年収アップを狙える求人も数多く掲載されています。ぜひチェックしてみてください。
( https://tenshoku.mynavi.jp/content/declaration/?src=mtc )
取材・文:山田井ユウキ、はてな編集部
編集:はてな編集部
制作:マイナビ転職
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