円盤に乗る派『仮想的な失調』 カゲヤマ気象台×日和下駄×畠山峻×渋木すず 座談会【前編】
2024年9月19日(木)〜9月22日(日・祝)東京芸術劇場 シアターウエストにて上演される、東京芸術祭 2024 円盤に乗る派『仮想的な失調』。この度、オフィシャルインタビューが届いたので紹介する。
あなたも「円盤に乗る派」である——表現者も観客もフラットに存在する場所
いよいよ開幕迫る東京芸術祭 2024! 今年も多彩な演目が並び、先鋭的な舞台表現を東京から発信します。そして9月19日(木)に初日を迎えるのは、円盤に乗る派『仮想的な失調』。2022年に初演され好評を博した作品が、再演を迎えます。そこで今回、人々が集う場としての演劇……ユニークなクリエイションとコンセプトを持つ、東京芸術祭初参加の注目ユニットの座談会を開催!
円盤に乗る派主宰・カゲヤマ気象台さん、俳優の日和下駄さん・畠山峻さん・渋木すずさんの4名による様々な会話から、徐々に円盤に乗る派の輪郭が見えてきました。
フラットに「ここにいていいんだ」と思える場所
ーー演劇プロジェクト「円盤に乗る派(以下、乗る派)」が東京芸術祭に初登場。ユニット紹介を兼ね、まずは成り立ちを伺って参ります。活動始動は2018年、当初はカゲヤマ気象台さんのソロユニットのような形だったんですね。
カゲヤマ:僕はもともと在学中から、sons wo:(2008年-2018年)というソロユニットで活動していて、それを改名して乗る派となり、2019年に日和下駄、翌年に畠山峻と渋木すずの2人が入り、現行メンバーが揃った……というのが簡単な沿革です。つまり、4人が集まって「演劇集団をつくろう」となったわけではないんですね。その時々の興味と関心をもとに実験的な公演を行っていたsons wo:を10年間続け、僕の中でやりたいことの方向性がある程度固まってきた。「だったらそれを一つのコンセプトとした演劇プロジェクトを立ち上げよう」というのが、ユニット初動時の動機です。
ーー皆さんそれぞれが “プロジェクトメンバー”になった経緯を教えてください。
日和下駄:僕が最初にカゲヤマさんに会ったのは大学に入ったばかりの18歳、知人に紹介されて参加したワークショップで、「東京には難しい演劇をやる人がいるんだな」と思ったのが第一印象です(笑)。その後しばらく交流はなく、大学4年の時に受けたsons wo:『流刑地エウロパ』(2018年)のワークショップオーディションに合格し、初めてカゲヤマさんの作品に出演しました。4年も経つと難しい演劇もわかるようになってきたみたいで(笑)。当時の自分は「なんで演劇をやりたいんだろう?」とか「なんで演技ってやった方がいいんだろう?」なんてことを考えていた時期で、演劇の根本を問うようなカゲヤマさんの作品に「これは僕がやりたいことかもしれない」と感じたんです。卒業してフリーの俳優になると舞台に出る機会が減ってしまう。だったらどこかに所属した方がいいと思い、乗る派に参加した……というのが経緯です。
カゲヤマ:就活だね(笑)。
日和下駄:そう就活(笑)。でもカゲヤマさんに「入りたい」と伝えたら、「すぐに『はいどうぞ』とは言えないので、お互いのビジョンが重なるようであれば」と言われたんです。その後、神保町の飲み屋での話し合いを経て、「求める方向性はそうズレてないね」となり、杯を交わし……今に至るという感じです。
畠山・渋木:へ〜!
ーーメンバーも知らなかった事実(笑)。畠山さんと渋木さんは、ほぼ同時期に参加しました。
畠山:僕は舞台芸術学院という池袋にある演劇専門学校に18歳から20歳まで通い、卒業後はフリーの俳優として、アルバイトをしながら芝居に出ていたんです。今回の共演者でもある橋本清くんが主宰しているユニット「ブルーノプロデュース」に出演した時、アフタートークゲストにカゲヤマくんが登壇したのが出会い。その後sons wo:に出演し、台詞を喋る仕組みへの強いこだわりに面白さを感じて。継続的にカゲヤマくんの作品に出演してはいましたが、メンバーとして誘われたのは2020年、北千住のBUoYで下駄くんの一人芝居(円盤に乗る派『Qua(くぁ)』)を観た終演後。劇場近くのカフェで誘われて、「二人のことが好きだからさ、僕でよければ」とその場で入りました。つまり(加入理由は)人間力です(笑)。
渋木:私は、大学の演劇サークルの後輩なんです。カゲヤマさんが卒業された年に一年生として入ったので、いた時期が重なってないんですが、sons wo:は新入生の間でも話題になっていましたし、大学2年の時に観たらすごく面白くて。それ以来、作品はずっと拝見していましたが、卒業後は地元に帰ってしまったので、しばらく演劇から遠ざかっていたんです。でもsons wo:が活動休止すると知って……この時、カゲヤマさん“やめる・やめる詐欺”をしたんですよ(笑)。
カゲヤマ:いやいや、最終公演が終わってすぐ新ユニットの発表をしたら、いろんな人にそう言われた(笑)。そんなつもりじゃなかったんだけど。
渋木:地元からわざわざ観に行ったのに、まんまと引っ掛かりました! その後再び上京し、観客として公演は継続して観ていたんですね。でも2020年に畠山さんが入ると聞き、「マスキュリンなユニットじゃないのに、男3人だけの劇団なんて……そんなイメージで世の中から見られてしまうのがファンとしてイヤです」とカゲヤマさんに伝えたところ、「じゃあ、入りますか」と言ってもらえて。私は俳優ではないので、「ウォッチャー兼アドバイザー」という新しい肩書きをもらい、メンバーになりました。
畠山:外部の方にわかりやすく説明すると、「内部にいる観客」みたいな存在ですかね。
渋木:はい、ユニットや作品と少し距離を置いた視点で関わる人……みたいなイメージでしょうか。私、普段は会社員なんです。会社での日常生活を送りながら、継続して演劇のことを考えられる、それは観客としては嬉しいことじゃないですか。演劇を観るって、「知識が必要なの?」とか「いっぱい劇団を知らないといけない」とか、ある種の“気合い”が必要だと思われがちですよね。でもユニットのコンセンプト*自体にも、公演を観たら「円盤に乗る派」と名乗っていいと明記されている。フラットに「ここにいていいんだ」と思えること自体が、すごくいいんです。
*コンセプト全体を名言化した「円盤に乗る派宣言」と「円盤に乗る派について」は公式ホームページ(https://noruha.net/)に全文掲載しており、誰でも読める
演劇作品は、一つの場である
ーーお話を伺っていると、プロジェクトを進める上でのバランスを考えた結果、4人のメンバーが集結したと。
日和下駄:カゲヤマさんとしてはもともとソロユニットのつもりだったのに、僕が入っちゃったから(笑)。
カゲヤマ:さらに畠山くんが入ったら「それでも良くない」と渋木さんに指摘されて、結果どんどんメンバーが増えていった(笑)。おそらく、プロジェクト達成を目的に集まった人たちかというと、ちょっと違うんですよ。僕は「こういう作品をやりたい」という基本概念を考えたいタイプなのでそこは提案しますが、みんなが好き勝手膨らませていける余地は残したいんです。演劇作品を一つの場として捉え、俳優やスタッフや観客、あるいはさまざまなアーティスト……この場にいてほしい人とか、いたい人を集める感覚ですかね。みんなも、プロジェクトや集団に結びついているわけじゃないでしょ?
渋木:カゲヤマさんは冊子の発行もしていますし、「円盤に乗る場」(https://noruba.net/)というアトリエ*もあったりと、活動は多岐にわたりますし……。
*2021年に東京・尾久エリアに乗る派が開設したアトリエ。複数のアーティストが共同し日々創作をしている
日和下駄:思想も統一されてるわけじゃないしね。でもコンセプトへの共感は全員あると思います。その解釈方法は違ったりするのかな? どうなんだろう?
畠山:まさに下駄くんが言う「共感」はわかるし、そういう集まり方をしていると僕も思う。コンセプトにある「円盤に乗る派は複数の作家・表現者が一緒にフラットにいられるための時間、あるべきところにいられるような場所」は、一人の社会人として正しいと感じられるし。と同時に、一人の俳優としては全く別のことも思考していて、舞台で喋ることの困難さを無理やり引き受ける……みたいなこともゴチャゴチャ考えます。カゲヤマくんの演劇的概念と自分の身体を接続するには、ある種不具合が生じる。でも俳優としては、そこを考えること自体がチャレンジングで好きなんです。普通に暮らしていたら、わざわざそんなことに悩む必要はないから(笑)。
ーーそれぞれが全然違う目的意識を持ちながら一つの作品に関わる。全員が能動的にいる場として機能しているんですね。
カゲヤマ:模索しながら続けてきたので、やっぱり最初に僕が考えていた一人ユニットの形とはどんどん変化しているとは思うんです。だから、この4人によって何が起きたのか?みたいなことは、実はあまり自分の中で総括できていなくて。もちろんイイことはいっぱいあったけれど、「いろいろやっていたら今がある」みたいな実感が一番強いですね。
【後編】につづく(https://spice.eplus.jp/articles/332010)
取材・執筆:川添史子 撮影:前澤秀登 撮影場所:東京芸術劇場