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セクシャリティのつらい経験と混乱…あなたの「物語」を紡ぎ直してほしいから伝えたいこと【お悩み#94】

Sitakke

Sitakke

はーいみなさん、ごきげんよう!満島てる子です。

Happy Pride!
先日の9月13〜14日(土日)、さっぽろレインボープライドが開催されました。
2024年まで実行委員を務めた、LGBTQ当事者/支援者たちがお互いの存在を讃えあうために開催されている、1年に1度のイベント。

今回はひとりの当事者、そしてドラァグクィーンとして、司会やショータイムへの出演というかたちで協力させてもらったの。
ステージの上から見る、コミュニティの仲間たちのたくさんの笑顔。
あたしはそれを感慨深い気持ちで見つめていました。

ライター・満島てる子

ただ、こうしたプライドパレードのような瞬間に、笑顔でいることがもしできたとしても。
当事者たちがいつもそう、自分らしく幸せにいられるわけではありません。

なんなら辛い顔、苦しい顔を人知れずしている場面の方が、どうしても多いんじゃないかしら。
それほどまでにこの社会の「居心地の悪さ」は、性的マイノリティにとって深刻なものなのよ。

今回のお手紙は、その「居心地の悪さ」にずっと苦しんできた人からのもの。
どうかご紹介させてください。

読者のお悩み セクシャリティに関しての辛い経験からアイデンティティも混乱気味に…

Beniさん、お手紙どうもありがとう。
そしてこれまで、よく生きていてくれたね。
よく生きて、このお悩み相談室を見つけ、お手紙を送ってくださったね。

あなたの歩んできたであろうこれまでの道、そこで経験したであろう様々な悲しみや苦しみを、同胞としての愛ですべて受け止めたいなと。
そんな気持ちを、メッセージを読んだ瞬間から、あたしはどうしても抱かざるにはいられませんでした。

しんどいどころでは済まなかったはずです。
望まない性体験を経ることで、自身のセクシュアリティを自分で疑い、否定し、それでもどこか「おのれらしさ」を信じずにはいられないという、重たいジレンマのなかにひとり放り出されるというのは。
そんな日々を、ずっと送ってきたというのは。

「満身創痍」であって当然ですし、なんなら人によってはサバイブしきれない状態に追い込まれてしまうことだって考えられます。

Beniさん、あなたが生きることをあきらめないでいてくれて、本当によかったわ。
ひとりのコミュニティの仲間として、心からそう思うの。

ちなみに、この手のジレンマを抱える人は、Beniさんひとりに限ったものではないでしょう。

少なくない数の性的マイノリティたちが、異性愛中心主義的な社会のなかで、どう振る舞えばいいのか、そもそも自分とは誰なのかについて、悩み、苦しみ、ときに他者から虐げられることになっているのを、あたしはひとりの当事者としてずっと見てきました。

当事者たちの中にもさまざま違いがあっても…

ことしのプライドパレード

もちろん、当事者たちの中にもさまざまな違いがあります。

あたしの場合は、「男性」というマジョリティ性をたまたま持っている人間です。

なので、Beniさんが受けることになってしまった「強い支配」については、それを外部から被るリスクが低い状態で、これまで生きてこられたような気がしているのよね。

そうした「偶然恵まれていた」という側面があることを、あたしはこうした話題について触れるとき、自身の特権性としてきちんと認識しておかねばと、毎度思っているんだけれど。

そして、だからこそ、誰かが歩むことになった悲しい経験について、気軽に「わかる」とは言うべきではないとも思っているんだけれど。

それでもお手紙に書いてあった、「自責の念や罪悪感」「屈辱感」を抱きながら、「ガラガラと崩れた自分を必死に組み立て直しては突き崩される、というループ」にハマってしまい苦しむというのは、自身の経験として似たような事態にしっかり心当たりがあります(昔、絶対にゲイだと確信しているのに、「バイセクシャルかも」という語りで、いろんなことを誤魔化そうとした時期が。あの時は混乱していたし、辛かった記憶があります)。

最近「自分は小さいころからすんなりゲイとして生きてきた。困るとか迷うとか別にない」と語る、若き当事者インフルエンサーも出てくるようになりました。

それ自体は、喜ばしいことなのかもなと思います。
当事者にとって混乱なく生きる道が、広く開かれてきている証拠なのかもなと、考えることがあったりもします。

ですが、Beniさんのように。
セクシュアリティという点から、望まぬ迷いや乱れがおのれのうちに巻き起こり、アイデンティティや尊厳を損なってきたLGBTQたちは、これまで事実存在してきたし、ときにその存在自体を脅かされてきました。

カミングアウトすることに、リスクすら未だ伴う社会です。
そこからもわかるように、性的マイノリティは「自分の世界をかき回される」だけでなく、その世界があること、この世界に居ることそのものをかき消されてきがちだったのです。

だからこそ。Beniさん。
何度でも言うけれど、あなたがサバイブしてきてくれて、本当によかった。
同じくセクシュアリティに混乱を抱えたことのある身として、あたしは本気でそう思っています。


あたしなりのAnswer

したっけラジオのリアルイベント たくさんの感想・メッセージうれしかった!

さてBeniさんの相談の核は、前半で書いてきたような混乱を経たあと、「人はどうやって自分の物語を再構築していけるのか」というものでしたね。

この質問、あたしは「なるほど。丁寧に答えたいなぁ」と思うと同時に、「とっても回答するのが難しいなぁ……」とも感じました。

「物語」というのは、本来言葉にはしきれないほど豊かな誰かのいのちのあゆみ、そこに一定の切り込みを入れ輪郭をつけることで、一種描写しやすくした「物」(対象)と変え、それに対して「語り」を与えることによって生じます。

なので切り取り方や語り方に、もし偏りがあった場合、その物語は誰かを傷つける武器となってしまいかねません。
なんなら、他者の物語をかき消す力も持つ場合があります。

実際にフェミニズムでは、これまで紡がれてきた歴史(History)について、それは男性中心主義的な物語(His story/訳:彼の物語)であり、女性の存在を無化してきたのではという批判が、幾度となく展開されてきました。

LGBTQについても、あたしは同じことが言えるのではないかと思っています。
異性愛中心的な物語が溢れかえる世の中で、自分たちの物語は常に侵食され続け、消され続けている実情があります。

そんな現状があるなかで、マイノリティたちは自分の物語を再度作り上げることが、どうできるというのか。

これは困難な問いです。
生きていくために紡ぎ直した物語が、また誰かによって汚されてしまうかもしれない。
投げ捨てられてしまうかもしれない。

または、自分の物語が誰か別の人の物語に、同じような影響を与えてしまうかもしれない。

その恐れから、あえて自分の人生を「物語化」しないことに努める人も、最近コミュニティの中にも一定数いるように、あたしは感じています。

ですが。
おのれの生き様を「物語」として産み直すことで、ゲイである自分を受け入れることができるようになった身としては、やはりBeniさんには「ぜひ自分の物語、積極的に紡ぎ直してみてね」と、その背中を押したくなるのよね。

そして、その再構築の仕方としては、まずもって「実際に語ってみること」「語ることのできる場所/語ろうとする人々の集まる空間を訪ねること」をオススメしたいなと、切にそう思うんです。


アウトプットが光になり、だれかの物語を聞いて豊かになっていく

お花シリーズ「ネギ」(笑)でも、花言葉はステキ「くじけない心」

実際に語ってみること。
これはとてもシンプルです。

誰かに話すことは最初のうち、難しいかもしれない。
であれば書くでもよし、描くでもよし。
なんなら歌うでもよし(作曲しなくてもいいんです。自分の物語を託せる歌を見つけ、それを自分なりにかなでていくこと。これあたし、ドラァグクィーンとしてもよくやっています)。

自分のこれまでの人生を、その中で感じたことを、思い切り遠慮なく外に出す。
そのアウトプットは、根本からの自己肯定に直接つながっていくはず。

これ、きっとBeniさんの人生にも、明るい光を投げかけてくれるように思います。

その上で。
他の人の語りを聞くことで、どんな語り方があるのかを知っていくこと。
そのために、語りを望む人々の集まるところにアクセスすること。
これはBeniさんに、さらに大きな未来への希望をもたらしてくれるんじゃないかしら。

当事者交流会はもちろん、仲間の集まるバーやナイトイベントでの出会い。
SNS上でのつながりもこれに当たるでしょう。

コミュニティの輪の中に入ること、その中で語られる言葉を聞くことで、あなたの物語はきっとより豊かになっていく。
あたしはそう信じています。

Beniさん。
これまで辛かった分、あなたには思いっきり自分の人生を謳歌してもらいたい。
そのためにぜひたくさんの物語、たくさんの人々とこれから出会って、新たな自分の物語もたくさん作っていってください。

いつか、辛かったことも悲しかったことも全部ひっくるめて、きっと人生そのものを素敵な「おはなし」として抱きしめられるときがくるはずだから。

いつかあなたの物語を、直接聞く日がくることを願いながら。
あたしも、今日もまたカウンター越しに、自分の物語を紡いでいこうと思います。

ま・と・め♡

というわけで今回は、セクシュアリティと人生、それをどう物語るかについて考えてみました。

プライドパレードが札幌で開催されたタイミングだったからこそ、あたしにとってはこのお悩み、無視することのできないものだったのよね。

マイノリティたちが声をあげ、届けようとしている種々の物語。

読者の方々には、どうかそれらをつぶさに受信できる人であっていただきたいと、当事者のひとりとして願っております。

ではでは、今日はこのへんで。
Sitakkeね〜!

***

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***
文:満島てる子
イラスト制作:VES
編集:Sitakke編集部あい
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満島てる子:オープンリーゲイの女装子。北海道大学文学研究科修了後、「7丁目のパウダールーム」の店長に。 2021年7月よりWEBマガジン「Sitakke」にて読者参加型のお悩み相談コラム【てる子のお悩み相談ルーム】を連載中。お悩みは随時募集しています。

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