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介護職を退職後、フリーザに。ゴミを拾う21歳の青年が怪しい存在から「町のヒーロー」になった理由。

スタジオパーソル

スタジオパーソルでは、「はたらくを、もっと自分らしく。」をモットーに、様々なコンテンツをお届けしています。

千葉県我孫子市の天王台駅には、アニメ『ドラゴンボール』の悪役・フリーザに扮して街のゴミ拾いを続ける21歳の青年がいます。

福祉サービス業に従事するかたわら、就業後にこの活動を400日以上続けてきた「茨城のフリーザ」さん。目立つコスチュームで行う地道な社会貢献は、時に理解されず批判を受けることも。それでもフリーザさんが活動を続ける原動力とは一体なんなのでしょうか?

常識にとらわれない自己実現の方法を選び、自分らしさを貫くフリーザさんの姿から、はたらく“喜び“を見つめ直すヒントが見えてきました。

私がフリーザになった日。きっかけは「ふとした思いつき」だった

――なぜフリーザの格好で活動しているんでしょうか?

きっかけは、高校時代のアルバイト先でのチラシ配りでした。どうすればノルマとして定められた枚数を効率よく配れるのか考えた時に、高校時代から「声がフリーザに似ている」と言われていたのを思い出して。思い切ってコスプレをしてみたところ、通行人の方から予想以上にポジティブな反応が返ってきて、チラシもすぐになくなりました。

いつもとは違う自分に挑戦してみたことが、思わぬ成功体験につながったんです。

――そこから、どうしてゴミ拾いを始めることに?

チラシ配りのアルバイトをする前、拾ったゴミの量でポイントを競い合いながら楽しく社会貢献をするイベント「スポGOMI」に参加したことがあって。当時の街が美しくなっていく様子や人から「ありがとう」と言ってもらえた経験がずっと心に残っていたんですよね。

チラシ配りを通じて少しずつ街の人たちから“あのフリーザの人”と認知されるようになり、「この知名度を何か良いことに使えないかな」と考えた時に、そのゴミ拾いのことを思い出したんです。

フリーザがゴミ拾いをする。考えてみてくださいよ。極悪人のキャラクターが良いことをしているって面白いじゃないですか(笑)。それに、目立つ格好でゴミを拾うことで、見た人がポイ捨てをしなくなる効果も期待していました。

主な活動場所は、千葉県我孫子市の天王台駅と柏市の柏駅周辺です。特に天王台は私が大好きなラグビーチーム、NECグリーンロケッツ東葛の本拠地なんです。「日本で一番ゴミの少ないチームの拠点にしたい」という個人的な目標もあって、毎日のように活動しています。

――現在の活動は、お好きなラグビーチームの応援の一つでもあるんですね。

そうなんです。私がラグビーを好きになったのも本当に偶然の流れで。柏駅でゴミ拾いをしていた時に、路上ライブ中の女性・アキSONGBIRDさんから「NECグリーンロケッツの試合会場でボランティアのゴミ拾い活動をやっているから、一緒にやらない?」と誘われたことがきっかけでした。

そこでラグビーを初めて見て、「こんなにかっこいいスポーツなんだ!」と衝撃を受けました。今では個人のボランティア活動として、アウェー戦にも遠征し、福岡など全国各地の試合会場周辺でもゴミ拾いをしているほどです。

どこに行ってもフリーザの格好でゴミ拾いをしているので、最初は驚かれますが(笑)。

「目立つから辞めろ」と会社に言われ、フリーザを辞めずに退職を選んだ理由とは

――お話を聞いていると、活動が順調に広がっているように感じますが、実際に続けていく中で苦労されたことはありましたか?

実は高校卒業後に介護施設に就職したのですが、フリーザとしてのゴミ拾い活動が本格化してくると、それを良く思わない職場の人も現れて……。「目立つことは辞めてくれ」と言われたり、「施設の悪評価につながる」と注意されたりしました。

私にとって「人を笑顔にしたい」という想いは、ゴミ拾い活動であっても介護の仕事であっても同じです。どちらも大好きな仕事だったからこそ、その想いが理解されないのは本当につらかったですね。

時には「仕事ができないのはゴミ拾いなんてやっているからだ」と、ミスがあればすべてゴミ拾いのせいにされるようになり、悩んだ末、最終的には退職を選びました。

今は障害者福祉施設でアルバイトをしながら、週2日は地元の飲食店で接客の仕事もしています。福祉の仕事が終わった後の時間を使ってゴミ拾い活動を続けています。今の職場は私の活動を理解してくれていて、「フリーザ」としての活動を無理なく両立できているんです。

――さまざまな批判や退職を経てまで活動を続けられている、その原動力はなんなのでしょうか?

単純に聞こえるかもしれませんが、人の笑顔はほかの何にも代えられないと思っていて。街で「ありがとう」と声をかけてくれる人や、私の格好を見て喜んでくれる人たちがいると、どんなにつらくても続ける力が湧いてきます。

もちろん、活動をしているとつらいこともあります。目の前でわざとゴミを捨てられて「どうせお前が拾うんだから捨ててもいいだろ」と言われることもあれば、冬の寒さで身体が震える日も。フリーザの衣装はコートも着られないので、寒い日は特に大変でした。

それでも、「陰で応援してくれている人もいるはず」と信じて今日まで活動を続けてきました。

気付けば街に愛されるヒーローへ。「いつも息子が見ています」の声も

――ゴミ拾い活動を続けていく中で、街の人たちの反応は変わってきましたか?

最初は奇抜な格好に不信感を持たれることもありましたが、続けていくうちに少しずつ理解してくださる人が増えてきました。ありがたいことに、今では3社ほどの地元企業がスポンサーとして支援してくださっています。

天王台駅前にある「ばんばん亭」というお店のオーナーが最初のスポンサーです。「街でゴミ拾いを頑張っているフリーザさんを応援したい」と言ってくれて、無償で食事を提供してくださっているんです。

実は、「ばんばん亭」のオーナーもNECグリーンロケッツ東葛の大ファン。選手達も常連客としてお店に通っています。そんな背景もあり、ラグビーの試合会場でよくゴミを拾っている私に「今度食べに来なよ」と声をかけてくださったんです。

ほかにも、勤務先の障害者福祉施設も活動を支援してくれています。たとえば、ゴミ拾いで長らく使用していたカゴが壊れてしまった時に、新しいカゴを無償で提供してくれました。さらに、天王台駅前にある洋服の修繕店では、フリーザの衣装が破れた時に無償で衣装を修繕してくださっています。

――今では地域に根付いた活動になってきているんですね。

そうなんです。今では「フリーザさん!」と声をかけてくれる方も増えました。「息子がいつもSNSで見ています」と言って写真を撮ってくださる親御さんもいます。

最近はテレビで取り上げていただく機会もあって、『月曜から夜ふかし』や『ザ・ノンフィクション』を見たと声をかけられることが増えています。あとはチップやジュース、缶コーヒーなどの差し入れをいただくことも。特に寒い時期の温かい飲み物は身体に沁み渡りますね。

最初は一人で始めた活動でしたが、今では一緒に活動してくれる仲間も増えてきました。SNSで呼びかけると実際にゴミ拾いに参加してくれる人もいて、一緒に活動した後は「ばんばん亭」で食事をして交流を深めることも。

最近は活動の幅も広がってきて、子ども食堂に招かれることもあるんです。フリーザの姿で配膳のお手伝いをしたり、子どもたちと一緒に遊んだりしています。みんな喜んでくれるので、それもまたうれしいですね。最初は理解されなかった活動も、今では多くの方々に受け入れられ、支えられています。

自分らしさは「誰かになりきる」ことで見つかるかもしれない

――フリーザさんの今後の目標を教えてください。

目標は、全国でゴミ拾い活動をすることです。でも全国各地をまわるためには資金が必要なので、チップを貯めながら、クラウドファンディングの準備も進めています。

最近は特にSNSでの発信にも力を入れています。活動を目にした人が「自分もゴミ拾いをやってみようかな」と思ってくれたら、自然と街がきれいになっていくはず。一人でも多くの方に活動の意義が、そしてゴミ拾いの輪が広がればいいなと思います。

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――最後に、仕事や将来に悩んでいる若い人たちに向けてメッセージをお願いします。

自分がやりたいことを始める第一歩が怖いなら、私のように「別の自分」になってみるのも一つの方法かもしれません。私の場合は、フリーザのキャラクターになりきることで、公共の場でゴミ拾いをするという、行動に移す勇気が出たんです。最初は単なるチラシ配りのノルマ達成の工夫だったものが、今では自分の一部になっています。

何か始めるきっかけは人それぞれ。大切なのは、まずは動き出すことだと思います。小さな一歩でも踏み出してみると、意外と道は開けるものですよ。

自分の人生、自分が楽しまなきゃ。周りの目なんて気にしなくていいんです。宇宙一の悪役だって、地球の味方になれるんですから。

(「スタジオパーソル」編集部/文:間宮まさかず 編集:おのまり 写真提供:茨城のフリーザ)

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