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【GAKU-MCさんインタビュー】コロナ禍を経て完成。10作目のオリジナルアルバム「Master of Ceremonies」の制作を振り返る

アットエス

10月2日に10作目のオリジナルアルバム「Master of Ceremonies」をリリースしたGAKU-MCさん。記念ツアーの初日として、11月3日に静岡市葵区のジャズクラブ「LIFETIME」でライブを行う。ソロデビュー25周年を迎えたベテランラッパーに、新作の制作過程や客演ミュージシャンとの関わりを聞いた。(聞き手=論説委員・橋爪充、写真=写真部・堀池和朗〈人物〉、久保田竜平)

コロナ禍でスランプに。それを乗り越えて完成した新作

-2020年の「立ち上がるために人は転ぶ」以来、4年ぶりのアルバムですね。この間、世界はコロナ禍に見舞われました。混乱に陥った社会が、少しずつ元の姿を取り戻していった。そんな中で本作を制作したと聞いています。当時はどんな心境だったのですか?

GAKU:コロナ禍で30年以上続けてきたこの仕事が、他の職種の方々と同様、完全に止まってしまいました。「不要不急」と言われ、ライブもできなかった。「俺らの仕事って誰の役にも立たないのか」と自問自答しました。「生きがいを失う」感覚すらあった。僕はラップミュージック、ヒップホップは「ライフミュージック」だと思っていて、聴く人の生活の後押しになったらいいなと思っているのですが、それもままならないのではないかと。ネガティブな時期が続きました。

-楽曲制作にも影響がありましたか?

GAKU:(コロナ禍の)最初の頃は、スポーツ選手のスランプみたいな状態でしたね。一度出来上がった歌詞に、言い過ぎたかなとか、何も言っていないなとか思ってしまったり。本当は書き直さないでできる曲が一番いいんですよ。あっという間にできて、「OK」となるのが理想。迷いがなく出てきた言葉こそ、人の心に届いたり心を揺さぶったりする。そういう経験が自分の中にあったので、「書き直す」ということ自体がうまくいっていない証しでした。

-そうした日々を乗り越えて完成した作品なのですね。

GAKU:そうですね。前作収録曲をリメイクした「それでも日々は続く」には、当時の日々の不安が特に色濃く出ていると思います。

-その「それでも日々は続く」は、ジャズピアニスト YoYo さんのプロジェクト「YoYo the “Pianoman”」との共演ですね。「Life Goes Onそれでも日々は続く」というシンプルなメッセージとともに、コロナ禍に直面したGAKU-MCさんの状況がラップで表現されています。前作と今作を接続する楽曲のようにも聞こえます。この楽曲を再録した意味とは何でしょうか。

GAKU:おっしゃられたようなことを考えていました。YoYoはもともとラッパーでしたが、今はジャズピアニストとして活躍しています。一緒にライブをやることになった時に、この曲を「勝手にアレンジしちゃいました」と言って持ってきた。それがすごく良かったんですね。ライブに行くことに抵抗がなくなりつつあるけれど、客席ではみんなマスクしている。そんな時期に今回のアレンジでライブをやったんです。ライブが禁じられて、配信でできるようになって、お客さんが入れられるようになって。そういう(ライブを巡る環境が少しずつ改善されていく)グラデーションのような状況の中で出来上がった作品。すごく思い入れのある曲になりました。

ライムスターと共演。プロになる前から交流続く

-1曲目「Under the same sky」は米国南部の音楽、特にゴスペルの色を強く出していますね。ここまでルーツミュージックに寄せた楽曲は初めてではないでしょうか。

GAKU:クワイア(教会の合唱)のような音は、自分が欲していたんです。編曲のイワサキケイ君とは初めての仕事なんですが、彼の過去の作品をたくさん聴いたら、ゴスペルの香りがする曲が結構たくさんあって。そこを増幅していきましょう、ということになりました。ケイ君とは幸せなやりとりがかなりあって。新鮮で楽しかったですね。

-2曲目「フライヤー」はライムスターとのコラボレーションです。GAKUさんは1990年にイーストエンドを結成されていますが、宇多丸さんやMummy-Dさんとは、その頃からお知り合いだったのでしょうか。

GAKU:初めて会ったのは僕が高校生の時ですね。宇多丸とはライムスターというグループができる前に知り合っている。僕のミュージシャンの友人は、ほぼ全員デビュー後に親しくなっています。デビュー前からの友人はライムスターだけです。

-宇多丸さんの著書に、その辺りの記述がありました。1980年代末から1990年代初めごろの日本は、いとうせいこうさんたちを見て、アメリカのヒップホップの盛り上がりも知って、「俺もラップしよう!」という若者たちが次々出てきたころだと。

GAKU:彼らとはラップコンテストのような場所で出会ったんです。(そこにいるラッパーは)全員知り合い、みたいなころからの同志。イーストエンド、ライムスター、それに仲が良かった何組かで「ファンキーグラマー」という運命共同体のようなクルーとして活動していました。デビューは僕らの方が1年早いんですが、同じレーベルでしたし、友人でありライバルでもある。そんな間柄ですね。

-この曲のリリックでは、そうした1990年代前半の様子がリアルに描かれていますね。どういう過程をたどってこういう内容になったんですか?

GAKU:アルバムがあと1曲で完成、となった時に最後の1ピースとして、何か思い入れのあるものがほしくなったんです。その前に作っていた「自由奔放」がきっかけでした。ある日、何気なくSNSをみたら、自分が立ちたかった舞台にライムスターが挑戦すると。いつもだったら「おめでとう」という気持ちになるんですが、その時は悔しくなって自分に対するふがいなさも湧いてきて。

-「自由奔放」で「羨んでいいさ」「妬んだっていいさ」「嫉妬だっていいさ」「やっかんでいいさ」と歌っているのはその時の心境ですか。

GAKU:そうです。「あー、もう!」みたいな。それを昇華させて「自由奔放」という曲を作り出したんですが、ちょっと考えたんです。「ここに、俺を悔しくさせてくれたヤツらのラップが入ったらすてきなんじゃないか」って。それで、「自由奔放」の1番だけ入れた音源と、もう一つ、空っぽのトラックを持って(ライムスターに)あいさつに行きました。「こんな気持ちで作り出したから、2番以降を入れてくれないか」と言ったら「いいけどさ。どんなこと歌えばいいのか」と。「ほかに(曲は)ないのか」と。「あるけどさ」って、もう一つのトラックを聴かせたら「こっちやろうよ」。そんな流れで決まりました。

-「フライヤー」というキーワードを軸に三者三様にラップするというアイデアは、どうやって生まれたんですか?

GAKU:「俺ら、最初に会ったのいつだっけ?」という雑談の中で、「あの時はひでえ手書きのフライヤーのやりとりしていたんだよね」という話が出たんです。言葉それ自体「フライ」(飛翔)して「メッセージを届ける」とも取れるし、「俺たちのやっていることだよね」って。

-GAKUさんのパートには、自身の「青春の日々」やライムスターの「We love Hip Hop」など、過去の楽曲名をしのばせていますね。

GAKU:ラッパーというのはメッセージを届けるのと同時に、「うまいこと言う」のが仕事ですから。僕らを知らない人が聴いて楽しめるのも大事だけど、バックボーンを知っている人が聴いたらニヤリとするような仕掛けがあると、みんなハッピーになる。そこから過去の曲を掘り返す人がいたらすてきだなと思います。

-ヒップホップっぽいですよね。ちなみにその当時、皆さんはどんなアーティストに夢中になっていたんですか?

GAKU:ランDMCは、みんな大好きでした。あとはア・トライブ・コールド・クエスト、デ・ラ・ソウル。彼らはライバルでありながら、ユニットを組んでいた。そういうところは僕らも近いと思いますね。

不安抱えた現実をリリックに落とし込む

-3曲目「What’s real?!」は、ギターの音やハンドクラップなどから1990年前後のマンチェスターサウンドを感じます。

GAKU:(編曲の)Numa君の功績だと思います。僕はアコースティックギターでシンプルな曲を作ったんですが、すごく心地良いグルーブとギターのフレーズを入れてきて。リターンエースって感じですよね。

-11曲目「Drive and Live~Today is the day」では東田トモヒロさんが客演していますね。どのように作っていったんですか?

GAKU:トモヒロはサーフィンをしながら日本中を旅しています。僕も何回か一緒に旅をしたし、静岡の御前崎などでは一緒に海に入ったこともある。コロナの2年目ぐらいでしょうか、キャンピングカーでカフェを巡る全国ツアーを一緒にやったんですが、その時のテーマソングがこの「Drive and Live~Today is the day」なんです。東京から宮崎まで1カ月ぐらいかけて旅をしたんですが、その前に一緒に歌う歌を作っておこうって。彼と僕はジャンルがぴったり合うわけではないんですが、僕は彼の音楽がすごく好きだし、彼は僕のラップが大好き。ジャンルを超えたシンパシーを感じています。

-GAKUさんのリリックは常に「生きていたらいろんなことがあるけれど、とりあえず前を向こうぜ」というメッセージを感じます。新作はこの点が特に強化されている一方で、例えば「自由奔放」では「羨んでいいさ」「妬んだっていいさ」「嫉妬だっていいさ」「やっかんでいいさ」と言っていますよね。あるがままの自分を受け入れるのは何ら恥ずべきことではない、といった思いが伝わります。これはこの4年間でつかんだ心境でしょうか。

GAKU:そうだと思います。ラッパーは格好よくなきゃいけない、憧れられるような存在じゃなくてはいけない、という意識がすり込まれているかもしれません。でも、コロナを通して先行きの見えない不安をみんな持っていた。フリーランスの生活なんてあっという間に変わる。きれいごとだけでは生きていけない。そうした現実から感じ取ったことを作品に落とし込んで、大人だってもがいてることを見せる。今回はそれがいいと思ったんです。

-11月3日、静岡ライフタイムでライブがあります。ご承知の通りジャズクラブです。どんなライブになりそうでしょうか。

GAKU:大好きな場所です。あの店でライブをやるラッパーは、僕一人じゃないかな。今回はドラムとベースと鍵盤が入ったステージになります。新作の曲が中心ですが、ソロデビュー25周年でもあるので、昔からのファンの方も喜んでいただけるような遊びを随所に入れていきます。

<DATA>
■GAKU-MC LIVE TOUR 2024「Master of Ceremonies」
会場:LIFE TIME
住所:静岡県静岡市葵区紺屋町11-1
入場料:一般6500円、学(GAKU)割3500 円
日時:11月3日(日・祝)午後5時半開演
問い合わせ:054-284-9999(月曜~土曜の正午~午後6時、サンデーフォークプロモーション静岡)

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