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街の持つ「多様性」が夢を持った人材の受け皿に 豊岡市で「地域おこし協力隊」がなぜ盛ん?その理由を調べてみました

Kiss

但馬の雄大な自然と兵庫県内でも有数の歴史・文化を擁する豊岡市。最近は「地域おこし協力隊」が盛んな地域としても注目を浴びています。全国にある1000以上の地方公共団体の中で、なぜ豊岡市は多くの隊員を集めることができるのか。その理由を調査してみました。

豊岡市地域おこし協力隊 特設サイト「飛んでるローカル豊岡」

調査に先立ち、豊岡市の「地域おこし協力隊」の隊員数について調べてみたところ、同市は2014年度に制度を導入して以来、2024年8月までの間に103人の隊員を委嘱しており、現在も27人の現役隊員が市内で様々な活動に携わっていました。2023年度の活動実績は52人で、これは兵庫県下でNo.1、全国でも8番目に多い数字です…!

豊岡市では2020年度から積極的に隊員採用を行い始めたそうです 写真提供/豊岡市

想像以上の数字にますます「なぜ?」が深まった筆者は豊岡市地域づくり課にアポイントを取り、同市の地域おこし協力隊の特徴や、隊員にとって魅力的な制度にするために行っている取り組みについてお話を伺いました。

出典:豊岡市観光公式サイト「六面体豊岡」

同課の沖中さん、愛原さんのお二人曰く、豊岡市の地域おこし協力隊に応募する人が多い理由のひとつには、豊岡市がもつ「多様な環境」が大きく関係していると考えているそうです。

現在の豊岡市は2005年に行われた「平成の大合併」で豊岡市・城崎町・竹野町・日高町・出石町・但東町の1市5町が合併して誕生した街であり、合併の結果、豊岡のモノづくり、神鍋高原リゾート、美しの海・竹野浜、出石の城下町、城崎温泉、但東町の里山など、多様な特色を擁する街となりました。その多様性が、目的の異なる多彩な隊員の受け入れにつながっているのだそうです。

その言葉を裏付けるように、豊岡市では伝統技術(麦わら細工/豊岡杞柳細工)の継承、農業の活性化、演劇・文化活動支援、高校と地域をつなぐコーディネーター、コミュニティナースなど、募集プロジェクトの種類がとにかく豊富で、「起業型地域おこし協力隊*」の受け入れも積極的に行われています。

*隊員自らが豊岡の地域資源を活用した事業を起こして活動するスタイルの協力隊。

ちなみに起業型以外にも、地域住民とともに地域課題を解決しつつ新たな価値を創造する「イノベーション型」や、仕事を続けながら地域活性化に携わる「マルチワーク型」など、同市独自の『〇〇型地域おこし協力隊』として、制度を運用している点も特徴です。

移住スカウトサービス「SMOUT」を利用し、隊員を募集するプロジェクトについて詳しく紹介

これだけ多くの領域でプロジェクトを成立させるには地域住民の協力が不可欠ですが、豊岡市では最初期(1~4年目)に委嘱された隊員の活躍のおかげで、多くの地域住民が隊員の受け入れに好意的なのだそう。そして現役の隊員がその期待に応える→地域住民からの評価がさらに上がるという好循環が生まれているのだとか。

加えて、そうした“正の循環”を維持するために同市では「隊員の選考」にも力を入れており、応募者と受け入れ先の最適なマッチングのための手厚い情報発信、人材を見定めるための採用フローの整備などに取り組まれています。

なかでも特筆すべき点は、“応募者が事前に豊岡市で暮らし、隊員として活動する姿をリアルに想像できるように、選考期間中に応募者を現地に招き、2泊3日の期間滞在してもらうようにしている”こと(滞在にかかる宿泊費・レンタカー代は豊岡市が負担)。

滞在中に自治体・受け入れ団体と直にコミュニケーションし、お互いの思いをすり合わせたり、レンタカーで市内を巡って街の雰囲気を肌で感じることができるのは応募者にとって非常にありがたいでしょうし、隊員を受け入れる団体の安心にもつながると思うので、とても素敵で合理的な方法といえます。

「起業型地域おこし協力隊」の定例ミーティングの様子 写真提供/豊岡市

ちなみに「起業型地域おこし協力隊」の場合は選考時に事業に関するプレゼンテーションも義務付けているのだとか。

直近3年間の応募倍率の平均は3.7倍程度となかなか狭き門ですが、その分、委嘱が決まった際は市が一丸となって活動をサポートしてくれます。例えば、隊員の活動や暮らしに関する相談窓口を設置していたり、隊員同士の交流を促進するイベント(他自治体の協力隊との交流など)を定期的に企画したりしているそうです。

任期後の定住に向けたサポートも充実しており、任期後に豊岡市に定住して起業する場合、その初期費用について補助する制度(補助割合の2分の1)があり、ほとんどの自治体では最大100万円としているところ、豊岡市では独自に100万円を上乗せして、最大200万円を補助金として用意してくれます。

隊員をここまで手厚くサポートしてくれる自治体は全国的にも珍しいのではないでしょうか。隊員の任期満了後の定住率が66.2%と、全国平均の52%よりも高い数字を誇っているんがその証拠といえます。

写真提供/Cafe Coucou

そんな豊岡市の取り組みについて、地域おこし協力隊のOBにもお話を聞いてみました。 中田樹(なかた たつき)さんは2021年9月から2023年8月までの2年間、起業型の地域おこし協力隊員として活動されており、満了後も竹野に定住し、『Cafe Coucou(カフェ ククー)』の運営をはじめ、様々な事業に取り組まれています。

写真提供/Cafe Coucou

中田さんはもともと、フランスの大学院で農業の勉強をしていたそうで、卒業を控え、東京の企業に内定をもらっていたタイミングに、祖父母が暮らす豊岡市の地域おこし協力隊の存在を知ったそうです。

その後、一次審査(書類審査)と何度かのオンラインミーティング、豊岡市での最終面談(プレゼンを含む)を経て委嘱が決まるまでの過程について中田さんは「クリエイティブな方が多く、お役所的な雰囲気を感じなかったことが印象的でした」と語ります。

写真提供/Cafe Coucou

隊員に委嘱されてからは「ゼロ・ウェイストなまちづくり」を目標に、豊岡の街を知り、豊岡の人々に自分のことを知ってもらうことから始めたそうで、1年目の後半から自分の目標に即した様々なアウトプットを行った中田さん。2年目には法人を設立し、映画上映会やプレゼンイベント「PechaKucha Night」など、様々なイベントをオーガナイズされたそうです。

その後、グラノーラの商品開発・販売を軸に事業を進め、2024年5月に竹野海水浴場の目の前に『Cafe Coucou』をオープンされました。

写真提供/Cafe Coucou

委嘱期間中、豊岡市の担当者は事業計画のサポートをしてくれる人を紹介してくれたり、月一の定例ミーティングを開いてくれたそうで、「アイデアはあっても実際に起業したことない人が多い中、その方法を教えてくれる人がいるのは心強かった」と当時を振り返る中田さん。

最後に、これから地域おこし協力隊を志す人にメッセージをお願いすると、「地方に定住することだけを目的にせず、形として何かを残す=結果を出すことは意識した方が良いと思います。自分のためだけではなく、地域のためになる結果を出すことが大事なので、『田舎暮らしがしたい』という気持ちだけでなく、ある程度の覚悟を決めた上で、応募することをオススメしたいです」と語ってくれました。

豊岡市で「地域おこし協力隊」の活動が盛んな理由。それは多彩な人材を受け入れることができる “街の多様性” と、地域の発展に寄与できる人材を見定める “選考方法”、その人材が地域に溶け込み、120%の力を発揮できる “サポート体制” にありました。

人口減少時代を迎えた日本において、地方への人口流入と地域の活性化は多くの自治体が頭を悩ませている課題ですが、豊岡市のやり方はその課題を解消するモデルケースのひとつとして、これから注目されていくと思います。

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