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詐欺師が詐欺師を飲み込むとき

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詐欺師が詐欺師を飲み込むとき

「うわぁ、すごいなぁ。蛇が蛇を丸呑みしてるよ。蛇って共食いするんだな」

感心するような呆れるような、どうにも形容しがたい感慨を覚えて、私はただぼうっとパソコンの画面を見つめた。


視線の先にあるのは、「ダーウィンが来た!」や「ナショナルジオグラフィック」の動画ではない。

ライフワークというより、もはや惰性で観察している子宮系スピリチュアル教祖のブログだ。


四柱推命をもじって子宮推命と銘打ったインチキ占いで、不特定多数の犠牲者から金を巻き上げてきた蛇顔の女が今、大富豪を自称する蛇男に飲まれようとしている。

つまり、私が眺めている蛇の食事風景とは、詐欺師が詐欺師を喰っている光景なのである。


見た限り、その蛇男は大蛇ではなかった。詐欺師としては、どう見ても小物でしかない。

しかし、その程度の蛇に丸呑みされてしまうということは、女の方はさらに小さかったということか。彼女は子宮系スピリチュアルを看板に掲げた中では、成功した部類に入っていた教祖だったというのに。


子宮系スピリチュアルなんて所詮はバカの宗教なのだが、それにしたってこれはない。

「いくら何でもコレに引っかかるのか?」

と、残念すぎて頭痛がする。


人間は追い込まれると思考回路がショートするが、この教祖はどうやら脳内の回線が切れまくってしまったようだ。

今なら「紛争地域で活動しているアメリカ人医師」や「アラブの石油王」を名乗る国際ロマンス詐欺にも簡単に引っかかるのではないだろうか。


もっとも引っかかったとして、彼女から搾り取れるお金はもう残っていないのだけど。

なぜならそのスピリチュアル教祖は今、破産どころか破滅しようとしているのだから。


なぜ破滅まぎわなのか、経緯を説明しよう。

彼女は師匠と崇める子宮系スピリチュアルの開祖「子宮委員長はる」が、長崎の壱岐島へ移住したことに感化され、自分も後を追うため総額2億円もの大金かけて、壱岐島に豪邸を建てようと考えた。


その豪邸建設計画はコロナ前である2019年に始まり、物件そのものは昨年完成したのだが、現在その豪邸は宙に浮いている。

施工を請け負った工務店への支払いが完了せず、家の鍵を渡してもらえずにいるためだ。


なぜそのような事態に陥ったのかというと、そもそも彼女には家を建てるお金がなかったからである。

彼女は土地と家を買うにあたり、預貯金などの資産を持っていなかったため、最初は銀行で金を借りようとした。だが、どこの世界に資産なし、定職なしの零細占い師に住宅ローンを組ませる金融機関があるというのか。


当然ながら門前払いされたのだが、あきらめきれない彼女は考えをめぐらせ、「バンカーを募る」と言って、子宮系スピリチュアルの仲間や自身の信者たちから直接金を借りたのだ。

「自分にお金を預けてくれたら、建てた豪邸に好きなだけ滞在していい」という条件をつけて。


当初は1億の予算を組んでいたが、家のデザインや建材にこだわっているうちに世界的なエネルギー価格と資材の高騰が始まって、建設費用はふくれ上がっていった。

そこへコロナが襲い、経済活動が停滞したことでスピリチュアル女子たちも貧困化。思うように集金ができなくなっていく。


状況が厳しさを増していく中、あとに引けない彼女は必死に商材を売り、バンカーを募り、クラファンも活用して金をかき集めたが、なにぶん計画から物件の完成までに時間がかかり過ぎてしまった。

彼女に金を貸していたバンカーたちからは離反者が続出し、返金請求が相次ぐようになったのだ。


その結果、金は集めても集めても返金対応で右から左に消えて行き、いつまで経っても工務店への支払いができないまま、せっかくの豪邸は風通しもされず塩漬けとなっている。


しかし、希望がない訳ではなかった。

支払うべき残金が500万円というところで事態が硬直し、東京での生活も立ち行かなくなったところへ、ようやく子宮委員長から手が差し伸べられたのだ。

と言っても、単純にお金を貸してくれる訳ではなかった。


「金は出さないが、住む場所がないなら自分が持っている物件に滞在してもいいし、荷物もこちらで預かっておく。集金にも協力するので、とりあえず壱岐島へ来るといい」


という申し出であった。金銭の援助ではなくても、八方ふさがりの彼女にはありがたい。さっそく子宮委員長を頼って壱岐島へ渡り、新生活をスタートさせた。しかし、二人の仲が険悪になるのにほとんど時間はかからなかった。

なぜなら、スピリチュアル教祖は基本的に自己愛性人格障害なのだから。二人ともその例に漏れないため、良好な関係など築けるはずがなかったのである。


そこへ彗星のごとく現れたのが、件の蛇男という訳だ。

ここで、蛇男が自称する経歴を簡単に紹介しよう。


彼は自称:大富豪で、本名と顔は非公開。最近は「弁財天」を名乗っているが、かつてはAyuという名で活動していたようだ。

Ayuが過去にモザイク入りで出演した動画によると、彼は世界トップクラスのファンドマネージャーで、誰もが知る世界のスーパーセレブたちの資産運用をしているという。


彼がファンドマネージャーになったのは、大学卒業後で23歳か24歳の頃。

師匠はウォーレン・バフェットとジョージ・ソロス。彼らの元で研修し、資産運用の手法を直に学んだ。

彼らの弟子をしていた頃には、師匠の命令でポンド(イギリスの通貨)やバーツ(タイの通貨)に攻撃をしかけたそうだ。


彼が就職したプライベートバンクは、ドイツのフランクフルトに本店を置き、スイスのチューリッヒで顧客の資産を運用している。

ファンドマネージャーとして新人時代はまだ日本のバブルが終わっておらず、担当した顧客の資産は日本株で運用していたそう。しかも取引は最低でも10億ユーロ(だいたい1000億円だそう)から。


新人時代の年収は、20〜30億円程度。仕掛けた株は2〜3ヶ月で手仕舞いするので、働いているのはその期間のみ。残りの9ヶ月は世界中を旅して、遊んで暮らすそうだ。

これまでの最高年収は68億円で、それを25歳の時に達成したと豪語する。


ほうほう...。

私はウォーレン・バフェットやジョージ・ソロスの伝記を読んだことがあるけれど、彼らが東洋人の弟子を取っていたとは初耳だ。


さらに、彼がウォーレン・バフェットとジョージ・ソロスの弟子をしていた頃に手伝ったというポンド危機とアジア通貨危機は、時代の設定がおかしくはないだろうか?

それらの危機は、確かにジョージ・ソロスをはじめとしたヘッジファンドが仕掛け、世界を震撼させた。私も当時のニュースを覚えているが、ポンド危機が起こったのは1992年で、アジア通貨危機は1997年だ。


もしポンド危機とアジア通貨危機を研修中に手伝ったと言うなら、就職後5年以上は彼らの弟子として研修していたことになり、24歳や25歳ではファンドマネージャーとしてデビューできていない計算になる。

まだファンドを任されていない研修中に最高年収を叩き出したとは、これいかに?


しかも、新人時代は日本株がバブルだったそうだが、日本のバブルは1991年に終わっている。

さらに、新人時代からいきなり10億ユーロを任されたとも言っているが、ユーロが流通を開始したのは2002年である。つまり、日本のバブルが終わっていない時代であるなら、ユーロはまだ存在していない通貨なのだ。

日本のバブル期に、まだ存在していない通貨でどのように投資をしていたのか、ぜひ詳しい説明を聞いてみたい。


もしかすると、2700万円のコンサル料を払えば教えてもらえるのかもしれない。

スピリチュアル教祖と知り合った蛇男は当初、2700万円の個別コンサルを彼女に持ちかけている。

しかし、彼女の置かれた状況を知り、アプローチを変えることにしたのだろう。セミナーを主催させ、スピリチュアル教祖の仲間や信者たちから細かく集金することにしたようだ。


彼をゲストに迎えたセミナーの参加費用は、セミナーのみオンライン参加が最安値で、99000円。

現地の会場参加で、150000円。

セミナーに加えて懇親会の参加で、300000円。

セミナーに加えて団体コンサルへの参加で、800000円。

セミナー、少人数コンサル、懇親会への参加で1000000円


どれも法外な値段だし、断言するが中身などない。


彼は決して表に出てこない大富豪という触れ込みだが、本当に富豪であるなら、表社会に出てこないのは反社だからとしか考えられない。

しかし、その可能性は限りなく低いだろう。大富豪としての設定の作り込みが甘く、経済ヤクザにしてはあまりに頭が悪すぎる。


もし富豪でないのなら、本名と顔出しNGの理由は、前科があるからではないだろうか。

彼は活動名を頻繁に変えながら、これまでも詐欺を生業にして生きてきたに違いない。


蛇男はスピリチュアル教祖と各地を巡る一連のセミナーが終わったら、仕事のため外国へ戻るという。何のことはない、インチキがバレる前にさっさと姿をくらます魂胆なのだ。

セミナーやコンサルの受講者たちが金額に見合わない内容に失望し、怒り出したとしても、矢面に立つのは哀れなスピリチュアル教祖ひとり。


参加者から弁護士を通じて返金を求められた時、自称:大富豪の蛇男はとっくに姿を消しており、ラインもブロックされて連絡がつかなくなっているに違いない。

その時になって、やっと騙されていたことに気づいて青くなっても、もう遅い。

一巻の終わりである。

***


【著者プロフィール】

マダムユキ

最高月間PV40万のブログ「Flat 9 〜マダムユキの部屋」管理人。

Twitter:@flat9_yuki

Photo by :Jan Kopřiva

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